第一に、日本の安全保障面での努力が国際的にも最低水準にあることは、あ
らためて指摘しておくに値しよう。CIA(米国中央情報局)が発表している『世界
総覧(The world factbook)』には、世界各国の「軍事支出の対GDP(国内
総生産)比率」を紹介した一項目がある。そこで紹介された直近のデータによれ
ば、米中露3カ国が4%前後、英仏両国や韓国が2・5%前後、ドイツやスウェー
デンが1・5%前後という水準である。
日本は、0・8%であり、調査対象となった173カ国中、149位に位置してい
る。日本の安全保障費用は、四面環海の地勢的な条件や日米安保体制の効果
によって、元々、低い水準で済んできた。けれども、「冷戦の終結」以後の国際環
境を踏まえれば、そうした安全保障費用の低さは、国際社会の抱える様々な
課題に取り組む熱意の乏しさを決定的に示すものとして解されたとしても、何
ら不思議ではない。
≪武官顕彰の仕組みも手薄≫
凡(およ)そ、近隣諸国からの攻撃を実質上、想定する必要もないオランダ、カ
ナダ、オーストラリアといった国々ですら、日本を超える水準の安全保障費用を
支払っているのは、こうした国々が、世界各地での紛争調停や平和維持の活動
に積極的に関わっている故である。
1990年代以降、陸海空三自衛隊は、特にイラクやインド洋での経験によっ
て、その活動の幅を劇的に広げたという印象を世に与えたかもしれない。しか
し、軍事支出の対GDP比率の数値は、そうした努力ですらも客観的には不十分
であるということを示唆しているのである。
第二に、「冷戦の終結」以後の国際環境の下で陸海空三自衛隊が「実質的に
働く軍隊」としての役割を要請されているときに、そうした活動に携わる武官の仕
事を適切に評価する仕組みは、果たして出来上がっているであろうか。
戦前期には、「武官の仕事を評価し、顕彰する仕組み」としては、華族制度、
叙勲制度、金鵄(きんし)勲章といったものが用意されていた。戦後も存続した叙
勲制度の下では、統合幕僚会議議長(統合幕僚長)や陸海空三幕僚長を務めた
人々が、瑞宝重光章を与えられるようになっているけれども、それでも、それは昔
日の勲二等相当の栄誉なのである。
これは、最高の栄誉を以て遇されるべき武官に与えられるものとしては、甚だ
手薄なものと評されるべきであろう。さらにいえば、カンボジア以降の数々の「国
際貢献」活動に携わった武官は、任務完遂後にどのように遇されたのであろう
か。筆者は、たとえば「国際協力勲章」といったものを設けて然るべき武官に授
けるといった有り様は、適切に考慮されるべきであると考えている。
(続く)