尖閣諸島問題(45-2)

 こんなときこそ、指導者は一ミリもひるまず、自分の使命に思いを巡らすのがよ

い。

 わずか20名の小派閥の長が首相に就任したのは、いかなる天命によるも

か。加えて、自分は何を訴えてきたのかを考えるのだ。

 未曾有の金融危機から、日本はどの国よりも早く脱すると、首相は宣言した。

そのための第2次補正予算を組んだ。同案への批判は自民党内でさえも厳しい

ものがある。だが、今更ひるんでどうする。いまは、よかれと思う政策を全力で推

進することが肝要だ。

 眼前の補正予算成立に心を砕く一方で、首相が肝に銘ずるべきは、天命と

念である。

 自民党総裁に選ばれたとき、首相は、祖父の吉田茂元首相に言及した。吉田

がやり残した課題は、日本に真っ当な軍隊を作ることだった。危機に際して国土、

国民を守るに十分な軍事力を整備することであり、外交の支柱としての軍事力

充実させることだった。

 「国防と治安を欠けば国家の存立は期し難い」「(憲法)第9条第2項の軍備否

定の条項は、(中略)問題がある」と吉田は明記した(『世界と日本』)。

 また、こうも書き残した。「日本のような島国では、国民の将来は海にある。

はいわゆる天空海闊(てんくうかいかつ)、進退自由である」と。

 日本は、吉田の願った9条改正も達成せず、天空海闊、進退自由の闊達(か

たつ)な国家となるべきところを、打ちひしがれたかのように内向きの国家となり

果てて今日に至る。

 そんな日本に変化を求める世界の動きはこれまでに幾度もあった。いま、そ

は海賊被害への対処として浮上している。ソマリア沖に跋扈(ばっこ)する海賊の

不法な暴力行為、抑留、略奪行為などから、日本船舶のみならず外国船舶を護

衛することが緊急課題である。

 海上保安庁海上自衛隊の派遣を政府は検討中だが、海自の派遣に当たっ

ては、海自が真に国際社会に貢献できるような体制をつくらなければならない。


 海上警備行動を発令しても、現在のように警察官職務執行法を準用するの

は十分な取り締まりはできない。私たちは現行法下での制約が、いかに自衛官

無意味な危険に晒(さら)してしまうか、いかに任務の達成が難しいかを、北朝鮮

工作船に対する取り締まりで十分に体験したはずだ。したがって、海自派遣の

際は明確な武器使用規定の整備を欠かしてはならない。

 さらに、ここからが麻生首相の天命である。国際社会の必要とする力を、日本

他国と協調して出し合うこの行為を、自衛隊を真っ当な軍隊と位置づけることに

つなげていかなければならない。どこに派遣されても、日本の自衛官らは、イラク

サマワで実証したように、誠実に任務を遂行するであろう。彼らが十分に働け

るように、明確な武器使用規定を整備して、ソマリア沖に派遣することが大切だ。

(続く)