環境問題のデパート・中国の素顔(小柳秀明)
日本の中期目標に厳しい反応も・COP15に向け動き出した中国(1)(09/08/03)200908030000
年末のCOP15に向けてそろそろ実質的な調整が始まろうとしている。中国をは
じめとする途上国は、先進国が先に示すカードを見てから本格的な交渉のテー
ブルに着くつもりだ。日本も遅ればせながらさる6月10日に麻生首相が「中期
目標」を示した。中国の反応はどうだったろうか。
■麻生首相が示した中期目標
麻生首相が発表した日本の中期目標は、国内での温室効果ガス排出量を
2005年比で15%削減するというものだ。この削減幅を京都議定書の基準年で
ある1990年と比較すると8%削減になる。
この中期目標の大きな特徴はいわゆる「真水の目標」で、純粋に日本国内で
の排出削減量だけを示し、海外から購入するクレジットによる削減分などを含ま
ない。京都議定書の第1約束期間(08~12年)に目標とした日本の削減幅は
6%だったが、ここでの「真水」の削減量はわずか0.6%で、残りの5.4%は植林に
よる加算(3.8%)と海外からのクレジットの購入(1.6%)であった。これと比較す
ると今回の中期目標はその内容や構成が大きく異なり、日本国内の関係者に大
きな努力を促すものである。
(Photo)
記者会見で温室効果ガス排出削減の中期目標を発表する麻生首相=6月10日、首相官邸〔共同〕
麻生首相は、海外からのクレジットの購入などによる上積みは今後の国際交
渉次第とし、具体的な目標の上乗せには言及しなかった。この目標を欧州連
合(EU)や米国と比較すると表1のとおりで、麻生首相は次のように述べている。
「今回、私が決断した日本の目標は、国際的に見てもヨーロッパの05年比13%
減や、米国、オバマ政権の14%減といった欧米の中期目標を上回るものだと
思っております。しかも、欧州や米国の中期目標は、自ら削減する分に加えて、
外国からお金で買ってきた分などを加算している」。
表1 先進国間の中期目標の比較
2005年比 海外クレジット購入 基準年
日本 ▲15% 国内削減をベースに積み上げ 2005年
EU(27) ▲13% 海外クレジット含む 1990年(▲20%)
米国 ▲14% 海外クレジット含む? 2005年
(関連情報)09.6.10.麻生総理記者会見「未来を救った世代になろう」
■COP15に向けた中国のスタンス
それでは、中国はCOP15に向けてどのような態度なのであろうか。日本の中
期目標発表に先駆けて、5月20日に「中国政府のコペンハーゲン気候変動会
議に関するスタンス」と題する基本的立場を表明した文書を発表している。
全文仮訳を作成したのでここに示しておく(PDF形式)。
http://eco.nikkei.co.jp/photo/column/koyanagi/090803/090803.pdf
注目すべき主張は、先進国の中期目標に対する要求だ。「歴史的責任、公平
原則、発展段階の考慮に基づき、先進国は全体として2020年までに90年比
で最低40%の排出を削減するとともに、相応の政策、措置、行動を取る」こと
を要求している点だ。(★1)
この要求は表1のような日本、EU、米国が打ち出した中期目標と比較すると
倍以上の開きがある。
その他の注目すべき主張としては、「有効なメカニズムを構築し、これによっ
て先進国が発展途上国に対して資金提供、技術移転、キャパシティ・ビル
ディング(能力開発)支援を適切に行うことを確保する」が挙げられる。これも
先進国に対する要求だ。そして、先進国がこれらの要求を受け入れてようやく、
「発展途上国は先進国の技術、資金、キャパシティ・ビルディング支援を受
け、持続可能な発展の枠組みに基づき、本国の国情に合わせて適切な適
応と緩和措置を取る」としている。
(続く)