■日本の中期目標に対する中国政府の見方
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解振華国家発展改革委員会副主任に日本の中期目標について説明する斉藤鉄夫環境大臣=6月14日
この日本の中期目標を中国政府関係者はどのように見ているのであろうか。
私は、中期目標発表直後および最近の2回、中国政府の気候変動部門の責任
者から直接忌憚(きたん)のない評価を聞く機会があったが、その評価はどちら
もきわめて厳しいものだった。
全体の感想は「日本に失望した」であり、削減幅が13~20年までの8年間で実
質2%と極めて少ないではないかという厳しい指摘であった。上述のとおり、中
国は先進国に対して全体として2020年までに90年比で最低40%の排出削減を
要求しており、これに照らせば日本の削減幅8%は少なすぎるというものだ。
また、「8年間で実質2%と極めて少ない」と主張する中国の根拠はこうだ。京
都議定書第1約束期間で2012年までに90年比で6%削減することになってい
る。中期目標は90年比だと8%の削減だから、8%-6%=2%しか削減しない
ではないかというものだ。平均すると毎年0.25%ずつの削減になり、これでは50
年までに60~80%削減という日本の長期目標にはとても届きそうにないという
評価だ。
一方、好意的な示唆もあった。日本が今後の国際交渉次第で海外からのクレ
ジット購入や植林による加算分を上積みするという考え方や、日本は約束したこ
とを必ず守る真面目な態度であることは承知しており、この上積みする追加分を
まず先に示して、日本がリーダーシップをとるべきではないかという意見である。
■今後の中国の対応は?
このように厳しい注文をつけた中国だが、自分の国ではどのような対応を考え
ているのだろうか。公式な立場は上述の「中国政府のコペンハーゲン気候変動
会議に関するスタンス」のとおりだが、一方、今後の国際交渉次第では柔軟な
対応を取り得ることも示唆している。具体的には次のとおりだ。
・中国はCOP15の結果にかかわらず、省エネや気候変動への対応の決心
はゆるがない
・先進国がさらに削減量を大きくし、技術移転を進めるならば、中国の努力
も進む(★2)
すなわち、マイペースできちんと対応するが、先進国がもっと努力すれば中国
ももっと頑張るということだ。これは中国国内に、先進国が責任を取っていない
のになぜ中国が力を入れるのか納得できないという反対意見が存在することと
も大きく関係する。
また、長期的には中国自身も排出総量枠を決めて総量削減に取り組む日が来
ることを自覚している点にも注目だ。そうなれば中国からのクレジット購入は難し
くなり、先進国が海外クレジットを購入して長期目標を達成するという考え方が
根本から崩れることを中国が指摘したのは興味深い。中国は世界の半分以上の
クレジットを供給しているからだ。
こうしてみると、今回麻生首相が示した「真水の目標」は、長期的にはどのよう
になるのかわからないクレジット市場を当てにせずに決めたもので、将来の長期
目標の達成に向けての道筋を考える上で大きな意味を持つことになるかも知れ
ない。
http://eco.nikkei.co.jp/column/eco-china/article.aspx?id=MMECcj000030072009
(★1)中国の5月20日の文書には、次のように言っている。
1.「共通だが差異のある責任」原則を堅持する。
先進国が今までに排出したCO2のほうが、中国がこれから発展するために
排出するCO2よりも、責任が重い。
2.持続可能な発展の原則を堅持する。
発展途上国は先進国が発展してきたように、発展する権利があり気候変動に
関係なく発展する権利を主張したい。
3.緩和、対応、技術移転、資金支援を同時に同等に扱う。
発展と気候変動への対応を同時に実現させるためには、先進国は発展途上国
への適切な資金提供、技術移転、キャパシティ・ビルディングの支援をしなけれ
ばならない。そうでなければ、発展途上国は有効な緩和(CO2の削減)と気候
変動への適応(環境技術開発など)は、実施できない。
4.条約と議定書の基本枠組みを堅持し、バリ行動計画の権限授与を厳格に遵守する。
(1)発展途上国への技術移転、資金支援に相当の配備を行い、有効かつ持続
的な緩和、適応の仕組みを作る。
(2)先進国は京都議定書第2約束期間における更なる量的排出削減目標を確
定する。
(後段で次のように述べている。)削減目標については、中期目標として、
先進国全体で2020年までに1990年比で最低40%の排出削減を目指す。
要は、金と技術と教育訓練をしてくれなければ、CO2の削減なんぞは、発展途
上国としてはやっていられない、その代わり、先進国はしっかりと削減しなけれ
ばならないのだぞ、と言っているのである。
(続く)