国慶節に思う。(27)

さて、この胡錦濤演説を分析している記事がある。小生の見立てと比べながら、是非読んで頂きたい。これは10月22日の国慶節に思う。(7)で紹介した下記の

環境問題のデパート・中国の素顔(小柳秀明)
日本の中期目標に厳しい反応も・COP15に向け動き出した中国(1)(09/08/03)200908030000

と言う論文のPart 2 なのである。

以下ご参照願いたいが、本日11/27の日経新聞にはここに述べられている内容に近いことを目標にする、とした中国政府の発表が掲載されていたが、この目標などはある意味では「まやかし」(ごまかし)でしかない。

環境問題のデパート・中国の素顔(小柳秀明)
国連気候変動サミットで示した手の内・COP15に向けて動き出した中国(2)(09/10/05)20091005000
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小柳秀明 地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長 1954年東京生まれ。77年東大工学部都市工学科卒。同年環境庁(当時)入庁。20年間環境行政全般に従事。97年JICA専門家として中国へ。中国環境問題の研究や日中環境協力を手がける。2006年7月から現職。

 去る9月22日、米国ニューヨークで国連気候変動サミットが開催された。鳩山由紀夫首相が発表した日本の「2020年までに1990年比で25%削減」ばかりが注目されたが、その直前に演説した中国胡錦涛国家主席の発表内容にもこれまでに見られなかった微妙な変化があった。
(関連情報)日本の中期目標に厳しい反応も・COP15に向け動き出した中国(09/08/03)

4つの堅持すべき原則――胡錦涛演説のポイント(1)

 演説での胡錦涛主席の主要ポイントを拾ってみよう。まず、現在共同で気候変動に対応するに当たって次の4点を堅持すべきであるとしている。

1.各自の責任の履行が核心

 共通だが差異のある責任の原則は、国際社会の共通の認識。

 先進国も途上国も気候変動対応に積極的な行動をとるべき。

 先進国は、京都議定書で確定した排出削減任務を完遂し、引き続き中期の数量化された大幅な削減目標を引き受けるべき。併せて、途上国の気候変動対応のために支援すべき。途上国は、その国の国情に基づき、先進国の資金及び技術移転の支援の下に、気候変動への適応に努力し、できる限り温室効果ガスの排出削減に努めるべき。

2.相互利益と共通の勝利の実現が目標

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国連気候変動サミットで演説する中国胡錦涛国家主席=9月22日、ニューヨーク〔AP Photo〕

 気候変動に国境はない。途上国の気候変動対応への支援は、先進国が果たすべき責任であり、これは先進国の長期的利益にも合致。我々は、他人を助けることは自らを助けることであるという観念を樹立し、先進国と途上国のウィンウィンの実現、各国の利益と全人類の利益のウィンウィンの実現に努力すべき。

3.共同発展の促進が基礎

 途上国は、経済成長・社会発展・環境保護を統一的に調整し、持続可能な発展能力を強化し、「先に汚染、後から処理」という古い道から抜け出すべき。同時に、先進国は途上国に対して発展段階、負うべき責任および実際の能力を超えた義務を負うことを要求すべきでない。長期的に見て、各国の共同発展、特に途上国の発展がなければ、気候変動への対応は広範で堅実な基礎がなくなる。

4.資金と技術の確保が鍵

 先進国は途上国に対して、新しく、追加的で、十分な予期可能な資金の提供について責任を負うべき。これは人類の未来に対する共同投資である。政府が主導し、企業が参加し、市場が運営する良性の相互作用のあるメカニズムを構築し、途上国が気候にやさしい技術を用いることができるようにすべき。

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国連気候変動サミットで演説する鳩山首相=9月22日、ニューヨーク〔代表撮影・共同〕

今後中国がとる4つの措置とは――胡錦涛演説のポイント(2)

 今回の演説中最も注目すべき発言は次の4つの内容だ。今後中国がとる措置として次のように述べている。

 今後中国は、気候変動対応を経済社会発展計画の中に組み入れるとともに、引き続き強力な措置をとることにしている。

1.省エネを強化し、エネルギー効率を向上させる

 20年までに単位国内総生産GDP)当たりの二酸化炭素排出量を05年に比べて顕著に減少させるよう努力。

2.再生可能エネルギー原子力エネルギーを全力で発展させる

 20年までに非化石エネルギーが一次エネルギー消費に占める割合を15%程度まで高めるよう努力。

3.森林炭素吸収源を全力で増加させる

 20年までに森林面積を05年に比べて4000万ヘクタール増加させ、森林蓄積量を05年に比べて13億立方メートル増加させるよう努力。

4.グリーン経済を全力で発展させる

 低炭素経済と循環経済を積極的に発展させ、気候にやさしい技術の研究開発を進め、普及させる。

中期目標の要求に変化?

 演説のポイント(1)で紹介した4つの堅持すべき原則は、これまでの主張をほぼ踏襲した内容であるが、今回私が気になったのは次の点だ。すなわち、先進国に対して「引き続き中期の数量化された大幅な削減目標を引き受けるべき」と削減幅について「大幅な」という抽象的な表現に止めたところだ。

 これまでは具体的な削減幅の数値を出して先進国に要求してきた。例えば、昨年12月のCOP14では「20年までに90年比で25~40%削減」、今年5月に発表した文書(中国政府のコペンハーゲン気候変動会議に関するスタンス)では更に過激で、「20年までに90年比で最低40%削減」と強気の要求を突きつけてきた。
 今回のこの変化はどのように読めばよいのか。中国もいよいよ本格的な削減交渉に入るという1つのサインと読むこともできる。日本が25%削減を提案することも承知していたから、40%削減を引き続き主張すれば日本の提案を無下に否定することにもなりかねない。

20年目標を見せ始めた中国

 今回最も注目すべきは、今まで具体的に見せなかった中国国内の20年までの目標を少しずつ明らかにしてきたことだ。上述「4つの措置」の1番目「単位GDP当たりの二酸化炭素排出量を05年に比べて顕著に減少させる」がその1つだ。これまで単位GDP当たりの二酸化炭素排出量に関する何らかの指標を作ることは説明していたが、「顕著に減少させる」と具体的な数字の言及は避けてはいるが、このように態度を明確にしたことはこれまでになかった新しいものだ。

 
それでは、どのくらい減少させるのだろうか。私の全くの推定だが「40%」が1つの目安だ。推定の根拠は次のようである。現在10年までに05年に比べて単位GDP当たりのエネルギー使用量を20%削減するという5カ年計画目標を立てて実行している。08年末までの3カ年間の実績は約10%削減で苦戦気味ではあるが、達成の目途は立っているとしている。しかし、今後は技術的にも削減は一段と難しくなっていくから、11年から20年までに今までの半分のペースで削減を進めていくとすると05年比で40%削減になるわけだ。

 エネルギー使用量と二酸化炭素排出量はほぼ比例関係にあると見れば、単位GDP当たりの二酸化炭素排出量も約40%削減できることになる。また、この40%の数字は先進国に突きつけた中期目標の削減幅とも符合する
中国は総量削減までは行えないが同様の比率で単位GDP当たりの二酸化炭素排出量を削減するというわけだ。

 「4つの措置」の2番目「20年までに非化石エネルギーが一次エネルギー消費に占める割合を15%程度まで高める」も、私の知る限り初めてのお披露目だ。これまでは10年までの再生可能エネルギー発展第11次5カ年計画などで「10年までに10%程度まで高める」と明らかにしてきたが、20年の数値目標についてはいっさい示していなかった

 「4つの措置」の3番目「20年までに森林面積を05年に比べて4000万ヘクタール増加させ、森林蓄積量を05年に比べて13億立方メートル増加させる」もこれまでに見られなかった目標だ。これまでの目標は第11次5カ年計画(06~10)で示した「森林被覆率を国土面積の18.2%(05年)から20%(10年)程度に高める」だったが、これより一歩進めたものだ。中国の国土面積(960万平方キロ)から計算すると、被覆率18.2%→20%への増加は17.28万平方キロ(1728万ヘクタール)の緑化になるから、新しい20年までの目標は「11年から20年までの間に約2272万ヘクタール緑化」するということになる。第11次5カ年計画期間中の緑化のスピードと比べると多少ペースダウンだ。なお、4000万ヘクタールは日本の国土より若干広い面積だ

日本の新しい中期目標に対する中国の評価

 ところで、鳩山首相が示した新しい中期目標「20年までに90年比で25%削減」に対する中国の評価はどうだったか。25%の数字は中国が昨年COP14で要求した最低ラインの数字だ

 国連気候変動サミットの前日(9月21日)に行った日中首脳会談で胡錦涛主席は「日本側の積極的な対応を評価したい」とまずは前向きにとらえている。かつて麻生首相が発表した中期目標に対しては「日本に失望した」であったことと比較すると、好意的な受け止め方だ。ただし、削減の考え方(積み上げ)まで示したわけではないから、実際はこれからが正念場になるだろう

 間もなく鳩山首相が訪中する。COP15までに残された時間は少ない
http://eco.nikkei.co.jp/column/eco-china/article.aspx?id=MMECcj001001102009

(続く)