豊田章男社長は、「現場に一番近い社長」に居続けたいとの思いが強いよう
だ。しかし先日掲載した[ZAKZAK]の記事では、”雲隠れ状態”で「経営センス
が問われる」状態だと言う。トヨタは巨大な組織体である。いくら「現場に一番近
い」所に居たいといっても、物理的に現場に居られるわけは無い。豊田章男社
長の言う「現場」とは製造現場なのか、販売の現場なのか、それとも技術開発の
現場なのかは定かではないが、社長である以上それらのすべてが現場である。
創業家出身の豊田章男社長であるとは言え、物理的にそれらの現場に常に居
ることは不可能である。社長として現場に近くなるには、それなりの方法がある
はずである。会社は組織で動いている。その組織をうまく使って、現場に居るか
のごとく現場の状況を把握できればよいのである。
章男社長にとって、その現場を把握することに何かと支障があったのではない
か、と小生は推測するのである。それに百年に一度の経済危機の真っ只中で社
長になってしまったので、タダでさえ課題が多いところへ更に重い課題がのしか
かって来ている。それは、この社内の把握をスムーズに成し遂げながら、いかに
早く業績を回復させるかなのである。それにしても、先ずはどうしたら豊田章男
社長への求心力を高められるか、が最重要な課題ではないか。そうは言って簡
単な事ではない。ある意味永遠の課題であるが、社長として自分の部下である
ボードメンバーとの忌憚の無いコミュニケーションを図ることではないかと思う
のである。そんな事は分かっているし、やっているワイとなるかもしれないが、社
長は最高位のリーダーであり、ボードメンバーは自分の部下である。その事を弁
えて(自覚して)、振舞う事が必要ではないか。
p41【エキスパートに聞く】豊田章男社長に今必要なのは何か
2010年 3月 30日 15:36 JST
トヨタ自動車の豊田章男社長は30日、品質・顧客サービスの向上策を検討する
「グローバル品質特別委員会」の初回会合後に記者会見し、リコール決定の迅
速化などに向けた決意を改めて示した。これまでも、豊田社長は同社の急拡大
路線を変更し、生産・販売台数よりも品質を高めることに重点を置くと発言してい
る。しかし、長年自動車業界を取材してきたノンフィクション作家の佐藤正明氏
はそんな豊田氏の発言に疑問を感じるという。豊田氏にどんなメッセージを期待
しているの、佐藤氏に聞いた。
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版(以下WSJ日本版):リコール問題が
起きてから豊田社長は積極的にメディアに登場しています。最近の発言をどうみ
ていすか。
佐藤正明氏:豊田章男社長は最近のインタビューで「お客様第一主義」「現地現
物」と言っています。でも「お客様第一」というのはメーカーとして当たり前です。
「現地現物」というのもモノづくりの心構えで、趣味の域でしかない。ビジネスとし
てやっていくのだったら、どういう車をつくるのかという「現実」もなければいけま
せん。
WSJ日本版:「台数より品質」という姿勢をどうみていますか。
佐藤氏:品質を高めればコストは下がる、というのも間違いです。自動車は量が
ないとコストは下がりません。トヨタがこれだけ高収益の会社になったのは、やは
り量があるからです。だから部品会社に対して「コストを下げてください」と言える
のです。「台数より品質」ということになると、コストダウンにも限界はあります。
また、「トヨタは成長しなくていいんだな」と思われてしまいます。
WSJ日本版:「台数より品質」というのは、前社長の急拡大路線を変更するとい
う意味ではないのでしょうか。
佐藤氏:前政権の批判をしてはいけないのです。外部からコンサルティング会社
が乗り込んできて、前政権はこうだったと批判をするのならある程度はわかりま
す。でも豊田氏はずっと副社長でした。トヨタの意思決定にかかわっていたわけ
です。
WSJ日本版:ではどんなメッセージを期待していますか。
佐藤氏:世界の自動車産業は激動期を迎えています。トヨタをどんな会社にし
たいのかというメッセージを出さなければなりません。前任者の批判はいっさい
やめ、自動車ビジネスをもう一回勉強し、トヨタは品質と安全では絶対だ、その
上で量も伸ばしていくんだ、それで国際自動車産業の競争にも勝つんだ、と言う
べきです。
ライバルのフォルクスワーゲンは2018年までにトヨタを追い越すと言っていま
す。一方でルノーはベンツと提携し、日産も含めて交渉しています。もう着々とト
ヨタ包囲網を作っています。でもトヨタは何もしていない。国際的な合従連衡とは
一線を画すとか、そのようなメッセージを出さなければなりません。
ビジネスは戦争です。社長はその最高司令官です。最高司令官が自分のとこ
ろで社員や販売店をまとめていくには、メッセージを出さなければいけない。それ
も末端の社員にまでわかるような目標を掲げなければなりません。
WSJ日本版:今後豊田社長をとりまく環境はどうなるのでしょうか。
佐藤氏:どうなるかは大株主とマスコミの出方次第です。5月の決算発表、6月の
総会に向けてどのような質問が出てくるのかに注目しています。相当シリアスな
質問が出てくるでしょう。はたしてそれを乗り切れるかどうかですね。
WSJ日本版:豊田章男社長は一年で辞めてしまうという可能性はあるのですか。
佐藤氏:即断するわけにはいきません。しかし、長期政権でないことだけははっ
きりしています。
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佐藤正明(さとう まさあき)
日本経済新聞社産業部記者などを経て日経マグロヒル(現日経BP)に出向し、
日経ビジネス副編集長などを歴任。自動車、エレクトロニクス、通信・半導体など
を担当。日経本体の産業部長、編集委員を務めた後、日経BP取締役、常務、
専務。
2007年独立。著書に「ザ・ハウス・オブ・トヨタ ― 自動車王 豊田一族の百五十
年」(文藝春秋)や「トヨタ・ストラテジー ― 危機の経営」(文藝春秋)など。
http://jp.wsj.com/Business-Companies/Autos/node_46416
豊田章男社長は「グローバル品質特別委員会」の第1回会合で、「すべての過程
をお客さま第一で見直したい」と述べている(4月19日ブログのp36参照)。そし
て豊田社長は、品質問題がトヨタを襲う事を極端に警戒していたと言う。その原
因は、トヨタの管理できうる範囲を超えて手を広げすぎたためだと考えていた。
(続く)