番外編・プリウス急加速問題(32)

 この戦略は02年に「2010年ビジョン」に姿を変え、10年代初めに世界シェアの

15%
を獲得することを目標に掲げた。当初計画の目標は10%だった。トヨタ

現在でもこの目標を達成できていない。自動車業界のコンサルタント会社、

CSMワールドワイドによると、08年の世界シェアはおよそ13%だった。


 トヨタが新たに採り入れた手法の影響は驚異的だった。2000年前後から同社

の世界販売は年間60万台のペースで増加し始めた。これはボルボの年間生産

を上回る水準だ。


 非創業家メンバーが社長を務めた15年間に、トヨタはほかにも歴史的な成果を

挙げた。営業利益率が業界で最も高い8.6%に上昇したのだ。08年トヨタはGM

を抜いて世界最大の自動車メーカーとなった。


 奥田氏は「革新」を実施する上で、創業家の役割を弱めた。奥田氏に近い幹部

によると、同氏は、創業家が保有する同社株が2%にも満たないことを挙げ、創

業家の支配は時代遅れの概念だと語った。


 奥田氏は権勢が最も強かった頃、創業家について公に話したことがある。同氏

は00年、ウォール・ストリート・ジャーナルとのイ ンタビューで、豊田家はいずれ、

会社の「神社」に祭られ、われわれは年に1度敬意を払うようになるだろう、と述

べた。


  この時、43才でゼネラルマネジャーだった章男氏の将来について奥田氏は、

縁故主義といった概念はわれわれの未来には存在しない、とし、「章男級の人

材は会社にゴロゴロ転がっている
」と語った。


 豊田氏は当時、主流から外されていたようだった。01年に中国事業のトップに

指名された際、中国はトヨタの世界戦略においてそれほど重要な地域でなかっ

た。その頃には会長に就任していた奥田氏は、野心があっても経験のない御曹

司の育成に「雑巾がけ」の地を選択した。


 しかし、豊田氏は問題のあった中国子会社を立て直し、成長の新たな道筋を

つけた。同氏はその後、取締役副社長に昇格した。


 一方、非創業家メンバーの幹部によれば、豊田氏は重役に登用されても、

議ではほとんど発言しなかった
。会社が成長するにつれ、非創業家メンバー

は豊田氏を取り合わなくなり、それほど賢くない御曹司、として扱うようになった

という。


 豊田氏に近い幹部は、豊田氏がほかの重役に押し切られていたとの考えに異

議を唱える。決算が改善するなか、品質が揺らいでいる兆候が見え始めた際、

警鐘を鳴らしたのは豊田氏だった。奥田氏の10年戦略が終わった05年12月2

、豊田氏は社内演説で、会社の方向性に疑問を投げかけたのだ。


 豊田氏は技術者や幹部に対し、成長があまりに急であり、品質を保証する能

力がこれに追いついていない
、と話した。本紙が入手した演説要旨によると、

同氏は技術者に対し、「量から質への大転換という大きな覚悟」を求めた。


 当時の上層部幹部は、豊田氏はこのような不満を経営陣には直接投げかけ

なかった、と語った。


 08年に渡辺氏が社長を退任する態勢に入ると、経営をめぐる創業一族と非

創業家メンバーの争い
は頂点に達した。奥田氏は非創業家メンバーを時期社

長に据えるよう望んだ。一方、かつて社長を務めた豊田章一郎名誉会長は、息

子の章男氏を社長に推した。トヨタは09年1月、章男氏が同年6月に社長に就任

する、と発表した。


 豊田氏は社長就任後、渡辺氏が発案した施策の多くを中止することが最初

の仕事だと宣言し、2兆円超の営業利益を達成するとの渡辺氏の非公式目標は

共有しない、と述べた。


 JDパワー&アソシエーツが行なった2つの調査では、トヨタの品質問題は実際

のところ、曖昧(あいまい)だ。


 トヨタ車のオーナーの不満はこの10年間で減少しており、そうした点から品質

は改善したといえる。ただ、トヨタの競合他社の品質は、トヨタを上回るペースで

改善している。00年のトヨタの新車品質ランキングはBMWと共に4位で、09年

には6位に低下している。


 問題は、トヨタの相対的な品質ランキングの低下のどの程度が、豊田氏の社

長就任前に原因が求められるかだ。新車開発には2~3年を要することから、

題がある車種は豊田氏が社長に就任する前に開発
されたことになる。


 非創業家メンバーの幹部も、若干の過ちを犯したことを認めている。ある幹部

は、外部から期間契約ベースで多くの非熟練技術者を雇い入れたことが、不具

合増加の一因になったと話す。一方、豊田氏の内外における管理スタイルが、不

具合を修復可能な問題から全面的な危機に変貌させたとして幹部らは非難する。


 また、豊田氏が社内に忠誠派により構成される非公式チームを作っており、マ

ネジャーによる正式チャンネルを使った意志疎通が困難になっている、という。

ある非創業家マネジャーは、現在の経営体制が「影の経営チーム」のようになっ

ており、情報やマネジメントが二重構造になっていると話す。


 米国の消費者や政治家、メディアの扱いに関する限り、豊田氏の行動は遅過

ぎたと非創業家メンバーの幹部らは主張する。さらに、ようやく公の場に現れて

も、話の内容が曖昧でたどたどしかったと批判された、と指摘する。

 一方、豊田氏の支援者らは、トヨタが進むべき道について、同氏は明瞭かつ率

直に語ったと話す。豊田氏は先月の記者会見で、従来の事業拡大の動きが、例

えば、「必要なものを必要なときに必要なだけ」調達する「カンバン方式」を弱め、


品質への感度が鈍ったと指摘
した。その上で「われわれは基本に立ち戻り、ト

ヨタの礎と生産システムの建て直しに尽力する」と語った

http://jp.wsj.com/Business-Companies/Autos/node_50943

            

WSJもZAKZAKの記事もDiamond onlineも、トヨタを見る目は全く同じ論調

だ。もちろん利益を出して税金を納める事は必要である。普通の企業はそうして

いる。沢山の利益を出して沢山の税金を納めていれば、それだけでよいと褒め

られるには大切な前提がある。それは、クルマを買ってくれて利用する顧客の安

全と安心を担保しなければならない、と言う事だ。少しくらいはこの安全と安心を

無視してもよい、などとはこれっぽちも言えないことだ。この前提は、利益や税金

に優先する事だ。利益を出して税金を納めていれば褒められる事だ、などという

言葉が出てくること自体が、既に病気なのだ。この言葉には、「継続的に」と言う

思いが薄れているように思われる。当然企業は継続しなければならず、そのた

めに「継続的に」利益を出し続けなければならない。そのための品質なのだ。品

質の確保こそが、顧客の安全と安心を担保出来る要因なのだ。だから品質に対

する優先順位を蔑(ないがし)ろにした責任は重大だ。徹底的に責められてしか

るべきだ、と思われる。

(続く)