番外編・プリウス急加速問題(37)

トヨタは何をどう間違えたのか。

 トヨタは問題に迅速に対応しなかった。米国では通常、企業の不祥事が起こ

ると、社長が自ら先頭に立って対応し、関連する情報を素早く開示しようと努め

る。そうすれば、消費者は企業にセカンドチャンスを与えようとするからである。


 たとえば薬品大手のジョンソン・エンド・ジョンソンが頭痛薬タイレノール問題を

起こした時、同社は素早く情報を開示して経営の透明性を高め、最終的に製品

の安全性を高めて消費者の信頼を回復した。


 もちろん米国企業も時には情報を隠蔽したりすることもあり、これはトヨタだけ

の問題ではない。しかし、トヨタ車に関しては安全性への信頼が非常に高かった

だけに、米国人の戸惑いと不安が大きいのではないか。

2
―米国人はいまどんな不安をかかえているか。

 主に2つあると思う。まず、自分の車は安全に運転できるのかという不安。もう

一つは車を買い替える時に中古車の評価額が下がってしまうのではないかと

の不安である。


 車の不具合の原因を解明できれば、消費者は前に進むことができる。しかし、

今の人々のパーセプション(認識)はトヨタ車に問題があるが詳しいことは何も

わからない
というものだ。先日のプリウスのブレーキ問題など個々のケースでは

それなりに対応しているように見えるが、全体的に消費者の不安を取り除くまで

に至っていない。


トヨタは電子制御装置の欠陥を否定している。

 一方で、「意図せぬ急加速はアクセルペダル関連の不具合だけでは説明しき

れない。電子制御スロットルシステムに問題があるのではないか」との指摘も多

く、それがまた消費者の不安を高めている。真実がどこにあるのかは、私には

わからない。でも、もし同社が電子制御装置の不具合を知っていながら隠してい

たとしたら、それは大きな間違いであり、大失敗だ。ただ、万が一、そのようなこ

とを示す文書があれば、法廷で明らかにされることだろう。


 この問題に関連して米国では最近、「臭い物に蓋をする」という日本の諺がよ

く言われているが、それもトヨタに対する疑いを強める一因になっているようだ。

人々がいったん疑いをもつと、それを変えるのは非常に難しい。とくにトヨタは品

質や技術で“超人的なブランド力”を築いてきただけに、隠蔽体質の疑いをもた

れるのは大きなイメージダウンになる。実際、トヨタは過去の横転事故などに関

する重要書類を意図的に隠したのではないかとの疑惑をもたれている。


  「臭い物に蓋をする」に対し、米国には「隠蔽は犯罪よりも悪い」との表現があ

る。つまり、企業が悪事を隠蔽すればより大きなトラブルになりかねないというこ

とだ。米国人はそのような企業にはセカンドチャンスを与えようとしないからであ

る。

3
―豊田社長が米議会公聴会で証言したのは効果的だったか。

 豊田社長がはるばる日本からやって来て公聴会で証言したことは、議会も米

国民の多くも評価したと思う。私も評価したし、豊田氏が何を話すかに大きな関

心をもった。ただ、個人的な感想としては、謝罪を繰り返すよりも、不具合の原因

や情報の隠蔽など人々が最も知りたいと思っていることをもっと積極的に発言し

た方がよかったと思う。


―「豊田社長の謝罪は訴訟で不利になる」との指摘もあるが。

 私はそうは思わない。この訴訟でカギになるのは、トヨタが問題を知りながら

応を渋った
のかどうかということ、それにトヨタ車の市場価値の下落による損

害がどのくらいになるかだ。後者の問題はトヨタの広報戦略いかんにかかってい

るが、その面でいえば社長が公聴会で米国人消費者に謝罪したのは非常によ

かったと思う。


 米国で急増している医療過誤訴訟でも最近、医師が謝罪するケースは増えて

いる。医師が真摯に謝罪することで家族の心が癒されたり、怒りがおさまったり

して裁判にプラスに作用することが少なくないからである。


―訴訟の賠償総額はどのくらいになると推定されるか。

 事故の死傷者の損害賠償責任は免れないだろうが、それでもトヨタの経営を

圧迫するほどの額にはならないだろう。賠償金は死亡者一人当たり500万~700

万ドルぐらいが妥当と思われるが、50人として合計数億ドル。一部に報道されて

いる一人当たり数千万ドルというのは非常に稀なケースである。


 トヨタに対しては株価下落の損害賠償を求める株主集団訴訟も起こされてい

る。これは米国でよくある訴訟だが、実は原告側が勝利するのは非常に難しい。

トヨタのケースでも、「会社側が意図的に情報を操作・隠蔽した」などの証拠が出

てこない限り、原告側が勝つのは難しいだろう。


 いまのトヨタにとって最大のリスクはやはり、トヨタ車のオーナーによる市場価

値下落
の損害賠償を求めた集団訴訟である。


 集団訴訟は解決まで長くかかるので、問題は2年後ぐらいに和解するタイミン

グがきた時、トヨタ車の評価額がどうなっているかだ。もしトヨタがうまく問題を解

決して消費者の信頼を失わないようにすれば、市場価値はそれほど下がらない

だろう。だからこそ、トヨタはこの問題に関するすべての情報を自主的に開示

た方がよい。トヨタ隠していた情報が裁判のなかで少しずつ明らかにされると

いうのは最悪で、もしそうなれば消費者はけっしてトヨタを信頼しないだろう。 

http://diamond.jp/articles/-/7870

      

やはりトヨタにとっての最大のリスクは、トヨタ車の市場価値の下落だと言う。この

損害賠償の集団訴訟が起きている。その損害賠償の訴訟には、次の2種類があ

。一つは今述べたトヨタ車の市場価値の下落による損害の賠償訴訟である。

そして二つ目は、急加速による死傷事故による損害賠償である。そして敢えて

三つ目とするのが、株価下落による損害賠償であるが、これは余程の事が無

い限り認められないであろうと言っている。この一と二の訴訟は既にカルフォル

ニアでは、150件以上がオレンジ郡の連邦判事の下で併合されて審理されて

いる。この件は既に、当ブログ4月22日のNO.16に掲載されているので、確認

願えれば幸いである。


しかし米国人の不安はもう一つある。それは、問題があると言っているが果たし

てそれだけなのか、と言うものである。彼らにとっては詳しい事が分かっていな

、と言う事なのである。なんとなればトヨタは問題が明らかになった時に、迅速

に対応しなかったからである。そのため何か隠しているのではないかと、米国

人たちは疑っているのである。迅速に対応できなかった事情は当ブログの4月

30日
辺りから詳しく述べているから参照願いたい。更に5月11日のNO.28では

トヨタ社内での豊田章男派とアンチ章男派との内紛が、これらの問題の解決の

足を大いに引っ張った事を解説しているのでこれも参照願う。そして信州大学

真壁昭夫教授
はこのトヨタの対応の拙さが、問題を大きくした要因の一つだと

喝破しているのである(5/12,NO.29)。

(続く)