年央雑感(2)

 はやぶさは、10年度の打ち上げを目標に00年度から検討がスタートした。

しかし財政難から宇宙予算の伸びが抑制され、当初の打ち上げ目標年を迎え

た現在も事実上、ゴーサインが出ていない。一方で、小惑星探査に注ぐ欧米の

視線は熱い。米航空宇宙局(NASA)は現在「将来の挑戦的な探査計画」を選

定中だが、はやぶさ2と似た小惑星探査を最終候補に残している。


 政局も微妙に絡む。JAXAは昨年、ようやくはやぶさ2の事業化を決断、10年

度予算の概算要求に開発費17億円を計上した。しかし直後に政権が交代し、

3000万円激減。来年度に予算化されなければ、次の目標の14年打ち上げ

は難しくなる。


 JAXAを所管する文部科学省内にも慎重な声はある。「予算が増えない中、は

やぶさの二番煎(せん)じでいいのか」と同省幹部。はやぶさ帰還翌日の14日、

福山哲郎官房副長官は会見で「後継機が宇宙技術の発展やその他の問題

にどう貢献するのか精査して検討したい
」と、予算化には含みを残した。


 はやぶさ2の準備チームリーダー、吉川真JAXA准教授(天体力学)は「往復

技術が確立し、いよいよ本番。決してはやぶさの『二番煎じ』ではなく、より遠い

惑星の探査につなげるためにぜひ実現させたい」と話す。立川敬二JAXA理事

長は10日、予算化に意欲を見せた。


 中須賀真一・東京大教授(宇宙工学)は「宇宙探査はもうかるものではないが、

高い技術力を示すことが国力増強につながる。トップ技術はどんどん伸ばさな

いとあっという間に追いつかれる。国として早く姿勢を示すべきだ」と話す。【山

田大輔、西川拓】

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 ◇「金メダル級」成果、次々

 はやぶさの旅は「金メダルが何個ももらえる」と言われるほど「世界初」の成果

が並ぶ=表。

 技術面では、往復飛行を実現させた新型電気推進エンジン(イオンエンジ

ン)
。長寿命が期待できる半面、性能は劣るため、業界では傍流と考えられてい

た方式をあえて採用した。結局、1万時間を大きく超える長寿命と必要な推進力

を確保できた。レベルの高さに米国が注目、NECはNASAへの技術移転を目

指している。


 自律航行システムは、目的地が遠距離の飛行には欠かせない。地球から遠

のくほど、指令が届くのに時間がかかる。このためはやぶさは、カメラ画像など

の情報を基にどう行動するかを自分で判断した。ロボット技術にも通じ、日本の

得意分野が生かされた形だ。


 科学的にもはやぶさは成果を残した。05年9月から約2カ月、イトカワを近距

離から隅々まで観測。小惑星をここまで詳細に観測した例は過去になく、観測

結果は米科学誌「サイエンス」で特集された。


 さらに大きな成果が期待されるのが、カプセルの「中身」。分析により、太陽

系の起源や進化がより詳しく解明できる可能性がある。【ウーメラ(オーストラリ

ア南部)永山悦子】

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 ◇首相が電話で祝意

 菅直人首相は14日、はやぶさプロジェクトを率いた川口淳一郎JAXA教授に

電話で祝意を伝えた。首相は「60億キロの飛行の後、地球へ帰還できたことは

奇跡的で、日本の技術水準の高さを世界に強くアピールした。心からお祝いと

ねぎらいを申し上げたい」と語った。電話は午前11時10分から約5分間。首相

は「宇宙飛行士になりたいと考えていた時もあった。子どもたちのやる気にも

つながる
」と話した。


 一方、JAXAは、はやぶさを「世界一遠くまで往復した人工物」などでギネス

ブック
に申請する検討を始めた。川端達夫文部科学相の強い意向を受けたも

の。川端文科相は今月11日の会見ではやぶさの長い旅を絶賛していた。イトカ

ワ(全長約540メートル)も、「機体が着陸した最小の天体」として07年からギネ

スブックに掲載されている。【横田愛山田大輔

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 ■ことば

 はやぶさ

 はやぶさの後継機として、地球と火星の間にある小惑星「1999JU3」から

の試料採取を目的にJAXAが検討している無人探査機。はやぶさが訪れたイト

カワとは異なり、有機物をより多く含むため、太陽系のほか生命の起源や進化

を調べる手がかりにもなる。衝突機をぶつけて地表に穴を開け、小惑星内部の

物質を採取して地球に持ち帰る計画。地球との位置関係から、目標とする打ち

上げは14年。本体開発費は、はやぶさの127億円を上回る約170億円

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 ■はやぶさが達成した主な「世界初」(予定含む)

 <技術的成果>

▽新型の電気推進エンジン(イオンエンジン)を使った惑星間航行

▽カメラ画像などを使い、地球からの支援なしに目標に近づいたり姿勢を制御

する自律航法

▽月より遠い天体への到達・着陸・離陸

▽重力がほとんどない天体上での試料採取

 <科学的成果>

小惑星から直接採取した試料

▽至近距離からの小惑星の精密な観測

http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/20100615ddm003040097000c.html
(続く)