ドーハの歓喜(26)

東北大震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈りもうし上げると共に、被災され

ている方々の一刻も早い復活を心より祈っております。そしていまだ福島原発

の安定のために命を賭して戦っている方々に感謝すると共にご健闘をお祈り申

し上げております。


さてこの「ドーハの歓喜」の最終回、3月1日のNO.25で、「サウジアラビア

はある意味拍子抜けの楽勝だった。」と書いた。素人目には確かに楽勝したよう

に見えたのだが、これは大いなる間違いだったことがわかった。「ある意味拍子

抜けの楽勝だった」のではなかったのだ。これこそが日本の攻撃パターンが機

能した結果だったのだと、先に言及した森本美幸氏はデータでもってそのことを

証明している。


もうひとつ「ドーハの歓喜」の2月8日のNO.7では、韓国戦の延長後半戦で同

点にされてしまったフリーキックを与えたファウルについて述べている。そしてこ

んなところでファウルしないようにしなければならない、とえらそうなことも書いた

のであるが、このファウルに付いても森本美幸氏はデータで分析している。それ

を読むと、なるほどなあ、と感心出来るものである。これは自陣前で奪ったボー

ルのクリア方法
に関する分析である。


実はこの二つのことは、小生の頭の片隅にいつもあった。何でだろう、こんなこと

では世界レベルの相手とはまともに戦えないではないか、2014年W杯には確

実に出場できるのか、出場してもうまく戦えないのではないか、決勝リーグへ是

非進出してもらいたい、出来れば「ベスト4」にも進出してもらいたいのだが、と言

う思いとの関連である。


それが森本美幸氏の次の解説で、氷解とはゆかないものの、日本チームに対

するそのもやもやは少しは飛んで言ったのである。

一寸長いが、先ずはその論文を見てもらいたい。

   

日経ビジネス オンライン
森本美行のスポーツ解剖学 データでひもとく試合の“真実”

日本代表がアジア杯で優勝できた“真因”

栄冠への過程で明らかになったザックジャパンの成長と課題

2011年2月22日 火曜日森本 美行

 中東のカタールで開催されたサッカーのアジアカップ。決勝に進出した日本代

表の前に立ちはだかったのはオーストラリア代表。2006年のワールドカップ

(W杯)ドイツ大会の1次リーグ初戦で、1-3の大逆転負けを喫した因縁の相手

だった。


 両者無得点のまま、日本代表にとっては韓国代表PK戦の末に下した準決

勝に続く延長戦に突入する。延長前半の15分間も0-0のまま折り返し、またも

や重苦しい雰囲気が広がり始めた延長後半の4分。その時は訪れた。


 左サイドをドリブルで突破した長友佑都(当時は伊チェゼーナ)がゴール前へク

ロスを上げる。そのボールは、相手のマークを外してフリーになっていた李忠成

サンフレッチェ広島)の元へ。


 李がノートラップで迷わず振り抜いた左足のボレーシュートは、相手ゴールの

左隅に吸い込まれていった──。これが決勝点となり、アルベルト・ザッケローニ

監督率いる新生日本代表は2大会ぶり4度目のアジア王者に輝いた。

Ph001
2大会ぶりにサッカーのアジア王者に返り咲いたザッケローニ監督率いる日本代表

グループリーグで日本代表が苦しんだ理由

 ようやく果たすことができたリベンジ。栄冠の奪回に歓喜するとともに、溜飲を

下げたサポートも少なくなかっただろう。あれから約3週間。本田圭佑(ロシア・

CSKAモスクワ)や長谷部誠(独ウォルフスブルク)、内田篤人(独シャルケ04)、

川島永嗣ベルギー・リールス)といった主力選手たちは欧州に戻り、今度は所

属チームでの戦いに身を投じている。


 アジアカップでの活躍が認められた長友は、昨季のクラブ世界王者であるイタ

リアの名門インテルへ電撃移籍。今月16日のフィオレンティーナ戦と19日のカ

リャリ戦と2戦連続で先発出場した。一方、大会後に独シュツットガルトに移籍し

たものの、手続きの問題から出場できずにいた岡崎慎司も、17日に欧州リーグ

の舞台で先発デビュー。20日のドイツ国内リーグのレバークーゼン戦でも先発

でプレーした。


 サポーターたちの関心は、彼らの欧州でのプレーぶりに移り、アジアカップ

勝の余韻も徐々に冷めてきていることだろう。しかし昨年のW杯南アフリカ大会

でベスト16に進出した時の盛り上がりがあの場限りで終わることなく、熱戦の連

続だったアジアカップで一段と盛り上がったのは、日本のサッカー界にとって本

当にうれしいことだ。日本代表の健闘に改めて心から敬意を表す。諸事情で日

が開いてしまったが、それでもここで、データに基づいてアジアカップでの日本代

表の戦いぶりを検証しておきたい。


 まず知っておいていただきたいことがある。アジアカップという大会は、W杯に

出場したことのない国も多く参加し、FIFAランキングではオーストラリア以外は

すべて日本より下位で、中にはランキング100位に入っていないチームもある。

それでも日本とは環境が大きく異なり、真剣勝負の場であるこの大会で勝ち抜く

のは決して簡単ではない。また大会自体、FIFAランキングで下位のチームとも戦

グループリーグと、主にW杯出場経験のある国と対戦する決勝トーナメントと

は別物であることも認識しておく必要がある。


 「アジアのバルセロナ」と対戦相手の監督から称された日本にとって、W杯未

出場のヨルダン、シリアと戦ったグループリーグの2試合は、点差を考えれば

「接戦」だったが、それでも誤解を恐れずに言えば、「大人と子供の試合」だっ

た。そう呼べるだけの力の差があったと思う。それはボール支配率のデータに

端的に表れている。


 日本のボール支配率はヨルダン戦で64.8%、シリア戦で60.5%と相手を圧倒

した。にもかかわらず、日本は2試合とも苦戦する。

Data001

 ヨルダン戦は1-1の引き分け。終了間際の後半ロスタイム(47分)にディフェ

ンダーの吉田麻也(オランダ・VVVフェンロ)のヘディングシュートが決まらなけ

れば、負けていただろう。


 続くシリア戦も、前半35分に長谷部のシュートで先制するも、後半31分にシリ

アにPKを決められ同点に。その6分後に本田がPKを決め返し、2-1で辛勝し

た。


 苦戦の原因は攻撃にあった。ヨルダンとシリアに限らずアジアのチームの多く

が日本と試合をする時は、まず失点を防ぐために自陣ゴール前にブロックを作

り、そこで奪ったボールを素早いカウンター攻撃に結びつける戦術を使うことが

多い。


 攻撃的ミッドフィルダーの本田、松井、そして香川真司(独ドルトムント)の3人

は技術が高く、ボールにかかわることを好むプレーヤーたちだ。相手ゴールに

近い位置では守備が強固なのでどうしても引いて受けることが多くなってしまう。

中盤でいくらボールを回しても相手ゴール前に近づくとそこから相手のブロック

に阻まれて、得点の機会をうまく作れない。そのため、実際は「大人と子供」ほ

どの力の差があったにもかかわらず、得点が奪えずに苦戦を強いられたので

ある。


 このような戦いぶりが続いていたとしたら、もしかすると栄冠を手にすることは

できなかったかもしれない。ところが、次のグループリーグ最終戦、サウジアラビ

アとの試合を境にザックジャパンは変貌する。

(続く)