さて、ここで今一度、このトヨタ叩きがなぜ起きたかをおさらいしておこう。1年以
上も前の記事となるが、マリアン・ケラー氏の分析を読んで頂きたい。
q27トヨタが米国民を怒らせた本当の理由を
語ろう~米著名自動車コンサルタントの
マリアン・ケラー氏に聞く
【第33回】 2010年2月15日
1
大規模リコール(回収・無償修理)問題に直面するトヨタ自動車の対応を巡る米
国の論調が、バッシングの様相を呈してきた。米国を代表する自動車コンサルタ
ントのマリアン・ケラー氏は、トヨタ側のうかつな問題発言といい、事態把握能力
の低下といい、通常では考えられないことが起きていると警鐘を鳴らす。
―大規模リコール(回収・無償修理)問題を受けて、米国でトヨタ叩き(たたき)が
過熱している。なぜトヨタはかくも叩かれなければならないのか?
私自身、今回の問題がこれ以上エスカレートすることを望んでいないので、順
を追って冷静に説明したい。
まずリコール自体は、珍しいことではない。私のもとにも先日、日産自動車から
リコールのレターが届いたばかりだ。通常のリコールならば、車をディーラーに
持って行き、すぐに無償で修理してもらえるというタイプのものだろう。
今回のトヨタのリコールの中でも、たとえば、最新モデルの「プリウス」はそうし
たケースだ。発売後に欠陥が明らかになり、無償で修理してもらえる。そうしたリ
コールはこれまでも業界で行われてきた通常の手続きのようなものであり、本来
はメーカーの評判を悪くするようなものではない。
では、なぜ今回のトヨタのケースは違ったのか。
マリアン・ケラー
(Maryann N. Keller)
米国を代表する自動車業界コンサルタント。1994~99年、全米自動車業界アナ
リスト協会会長。現在は、マリアン・ケラー・アソシエーツ代表として、コンサルタン
ト業に従事。著書に『GM帝国の崩壊』『激突―トヨタ、GM、VWの熾烈な闘
い』(共に草思社)がある。
Photo by Minori Yoshida
2
それは、率直に言えば、欠陥製品を出しながらそのことを否定し続けている
という印象を世間に与えてしまったからだ。
米国のメディアはだいぶ以前から、米道路交通安全局(NHTSA)にここ数年、
トヨタ車を購入した消費者からさまざまな苦情が寄せられていたことを報じてい
たが、トヨタはNHTSAにドライバー側の問題だと説明し、NHTSAもその説明を
受け入れていた。だが、アクセスペダルがフロアマットにひっかかったことが
原因とされる昨年の死亡事故(カリフォルニア州サンディエゴ郊外でレクサスに
乗った家族4人が死亡した事故)がさかんに報道されるに至って、状況は一変し
たのだ。フロアマットに対する苦情は、以前からあったわけで、なぜもっと早くし
かるべき対応を取れなかったのだとの批判が高まるのも当然だろう。
それでも、品質問題に関する豊田章男社長の2月初旬の会見が(トヨタがNH
TSAにフロアマットの取り外しなど安全対策実施を通知した)昨年10月、いや
2週間前でもいい、もっと早く行われていたら、(米国における)トヨタ批判の大合
唱はこれほどまでは高まらなかったのではないか。トップが責任を公にすれば、
後はメーカーとクルマの所有者とのあいだの問題として収まるからだ。
だが、それをしなかったうえに、別の経営幹部が要らぬ発言までしてしまった。
(トヨタの)佐々木眞一副社長がインディアナ州のCTS社のアクセスペダルを
採用した理由について、「現地への貢献を考慮したため」という趣旨の発言を
したのは、はっきり言って、言語道断だ。もちろんCTS社の技術力を評価すると
いう前置きもあったが、あのひと言だけで、まるで現地のために劣った企業と取
引したと言っているように聞こえてしまった。
デンソー製ペダルと比較すると、CTS製は明らかに少ない部品数で設計され
ており、コスト削減も背後にあったはずだ。佐々木氏の発言は、 米国民に侮辱
的で傲慢なものと理解されてしまった。
やや厳しいことを言えば、トヨタはグローバル製造企業であっても、真のインタ
ーナショナル企業にはなり得ていないということだろう。異なる文化を超えて意
図するところが正しく伝わるよう、何らかの助けが必要なのではないか。
(続く)