ボルトの発表はGMが再上場を果たした日の翌日の2010年11月19日だ。
GMの復興に花を添えたことになる。それまでにトヨタのパテントを逃れなければ
ならない。サンディエゴでのレクサスES350の暴走事件からのトヨタ叩きの事
例を、時系列で列挙してみよう。
2009/08/29 マーク・セイラー事件(ES350暴走、'10/5/11,NO.28参照)
2009/11/25 トヨタリコールの届け出(感謝祭の前日として非難される。'10/6/9,NO.49参照)
2010/02/23 下院公聴会('10/3/17,18、NO.2,3参照、電子制御に関する追加データ要求)
2010/02/24 同上(豊田章男社長証言)
2010/03/02 上院公聴会
2010/03/30 NASAにトヨタの電子制御プログラムの調査を依頼する。('10/4/21,NO.15参照)
2010/05/20 電子制御に関する公聴会(NHTSAでは欠陥見つけられず。'10/5/25,NO.38参照)
2010/05/21 トヨタとテスラとの提携を発表('10/5/28,NO.41、5/31,NO.42参照)
2010/07/30 NHTSAの調査では、急加速は全て運転ミスと判明するも、公表せず(告発。'10/8/24,25,NO.54~55参照)
2010/08/10 NHTSAが、調査した全ては運転ミスと発表。ブレーキペダルは踏まれていない。
2010/09/17 マーク・セイラー事件和解('10/10/7,NO.62参照)
2010/11/18 GM再上場
2010/11/19 シボレー・ボルト発表('11/4/14,NO74参照)
2011/02/02 佐々木副社長会見、CTS社事件
2011/02/08 NHTSA(ラフード運輸長官)、トヨタの電子制御プログラムには問題は無い、と発表('11/4/2,NO.64参照)
と言った出来事の時系列となる。
これを眺めると米議会とオバマは(GMと図って)、マーク・セイラー事件以来トヨ
タの電子制御プログラムETCS,Electric Throttle Control System
に的を絞って、集中的に攻め込んでいたことがわかる。そしてトヨタの佐々木副
社長の失言問題は、このETCSには問題がなかったことを、丁度カムフラージュ
する格好な煙幕となってしまったものと見られる。まあ2010/3からの丁度一年間
でGMは、トヨタのETCSの全てのからくりを手に入れ、十分ボルトに反映させて
自信満々でGM再上場の翌日発表させたものであろう。そしてGMボルトが十分
世に周知されてから、おもむろにトヨタには問題はなかった、と発表させたので
ある。その期間は3ヵ月だ、誠に狡猾だった。
それにしても、このような動きの中でのテスラ・モーターズとの提携話は、どことな
く異質なものに見えてくる。トヨタの技術陣はこの動きを、うまく消化できるであろ
うか、他人事ながらいささか心配である。
まあ考えれば、もっといろいろな権謀術策が思い浮かぶであろうが、本文に戻
ろう。
「リーフ」
・「ボルト」と比べると車内の遮音性が高い。インバータ、モータなどの高周波音
は車内、車外でほとんどない。後席乗車でも、高周波音はない。
・2010年1月に日産ノースアメリカ本社(米テネシー州ナッシュビル郊外)で「リ
ーフ」のテスト車両を試乗した。詳細は本連載第27回「やっぱり日産は電気自動
車に本気だ!トヨタも無視できないリーフの正体」を参照。その際、ブレーキの
タッチ感についてはストローク(踏みシロ)が極端に少なく、電気スイッチがカチカ
チとON/OFFするような感じだった。それが量産車では、程よいストロークとな
り、タッチ感も高価格/高性能ガソリン車のようなガッシリ感が出た。
(http://diamond.jp/articles/-/7212 リーフの正体)
・走行モードは、通常「D」と「ECO」の2つ。手元の小さいシフトレバーを手前にカ
チと操作することで切り替わる。「ECO」モードでは「D」モードより明らかに加速
が緩やか(=アクセルの踏む量に対するモータ出力/トルク変化が緩やか)に
なり、さらにアクセルオフ時の回生の量が「D」モードより明らかに大きくなる。こう
したモードでの走行感の変化は「ボルト」より明らかに大きい。
・「D」モード、交差点赤信号から青信号に変わった際、アクセルオンでの出足
は、「ボルト」の「ノーマル」モードより明らかに強い。
・クルマ全体の密度感、ドライバーとクルマとの一体感がある。こうした感覚は
「ボルト」では感じられない。「リーフ」には電気自動車という特殊感が満ちて
いる。
<総評>
走行性能という面で、「機械/電気製品」としての出来栄えを単純比較するな
らば、「リーフ」は「ボルト」より優れている。
だが、一般的に運転が荒いアメリカ人が、「リーフ」と「ボルト」との性能差をど
れだけハッキリと感じ取れるかは不明だ。
内外装の見た目では、「ボルト」は「メカメカしい」雰囲気がある。映画「トランス
フォーマー」に見られるようなアメリカンコミック的な分かり易い「次世代さ」を感
じる。
一方、「リーフ」は、先端技術を見せびらかさず、メカメカしさの角(かど)を取っ
ている感じだ。つまり、どこか「控えめ」な雰囲気がある。そのため、押し出し感
を強調する「ボルト」とは対照的なイメージとなっている。
以上にように、走行性能と価格では、「リーフ」は「ボルト」に勝っている。
だが、問題は「航続距離」と「充電方法」だ。
「ボルト」の場合、電気自動車として航続距離について、対外的に度々の修正を
行ってきた。もともとは「一般的なアメリカ人の生活を考えれば、
50マイル(80km)あれば十分」という触れ込みだった。それが量産化に向けて
40マイル(64km)となり、実用での様々な走行条件が重なると、最低で25マイ
ル(40km)、最長で50マイル(80km)という説明に変わった。
後席試乗時に撮影したGM「シボレーボルト」。
こうした「言い訳」をネガティブに捉えるメディアが多い。だが、本連載で度々紹
介しているように、現在のリチウムイオン二次電池搭載の電気自動車では、エ
アコン/ヒーター使用や急加速/高速走行などでの電気消耗が大きく、カタロ
グ値と実用値が大きく異なることは「致し方がない」。問題は、メーカー側がそれ
を消費者にどう説明するかだ。GMの場合、「(電気自動車は特殊なので)ごめ
んなさい」を小出しにして、消費者サイドに徐々に理解を求める作戦だ。
だが「ボルト」の場合、バッテリー量がなくなっても、ガソリンエンジンで自家発
電し、さらには駆動としてガソリンエンジンがモータをアシストするのだから、
「最悪、どこかで止まってしまう」ような状況には陥りにくい。
(続く)