番外編・プリウス急加速問題(77)

ボルトの発表はGMが再上場を果たした日の翌日の2010年11月19日だ。

GMの復興に花を添えたことになる。それまでにトヨタのパテントを逃れなければ

ならない。サンディエゴでのレクサスES350の暴走事件からのトヨタ叩きの事

例を、時系列で列挙してみよう。

2009/08/29   マーク・セイラー事件(ES350暴走、'10/5/11,NO.28参照)

2009/11/25  トヨタリコールの届け出(感謝祭の前日として非難される。'10/6/9,NO.49参照)

2010/02/23  下院公聴会('10/3/17,18、NO.2,3参照、電子制御に関する追加データ要求)

2010/02/24  同上(豊田章男社長証言)

2010/03/02  上院公聴会

2010/03/30  NASAトヨタの電子制御プログラムの調査を依頼する。('10/4/21,NO.15参照)

2010/05/20  電子制御に関する公聴会(NHTSAでは欠陥見つけられず。'10/5/25,NO.38参照)

2010/05/21  トヨタテスラとの提携を発表('10/5/28,NO.41、5/31,NO.42参照)

2010/07/30  NHTSAの調査では、急加速は全て運転ミスと判明するも、公表せず(告発。'10/8/24,25,NO.54~55参照)

2010/08/10  NHTSAが、調査した全ては運転ミスと発表。ブレーキペダルは踏まれていない。

2010/09/17  マーク・セイラー事件和解('10/10/7,NO.62参照)

2010/11/18  GM再上場

2010/11/19  シボレー・ボルト発表('11/4/14,NO74参照)

2011/02/02  佐々木副社長会見、CTS社事件

2011/02/08  NHTSA(ラフード運輸長官)、トヨタの電子制御プログラムには問題は無い、と発表('11/4/2,NO.64参照)

と言った出来事の時系列となる。

これを眺めると米議会とオバマは(GMと図って)、マーク・セイラー事件以来トヨ

タの
電子制御プログラムETCS,Electric Throttle Control System

に的を絞って、集中的に攻め込んでいたことがわかる。そしてトヨタの佐々木副

社長の失言問題は、このETCSには問題がなかったことを、丁度カムフラージュ

する格好な煙幕となってしまったものと見られる。まあ2010/3からの丁度一年間

でGMは、トヨタのETCSの全てのからくりを手に入れ、十分ボルトに反映させて

自信満々でGM再上場の翌日発表させたものであろう。そしてGMボルトが十分

世に周知されてから、おもむろにトヨタには問題はなかった、と発表させたので

ある。その期間は3ヵ月だ、誠に狡猾だった。


それにしても、このような動きの中でのテスラ・モーターズとの提携話は、どことな

く異質なものに見えてくる。トヨタの技術陣はこの動きを、うまく消化できるであろ

うか、他人事ながらいささか心配である。


まあ考えれば、もっといろいろな権謀術策が思い浮かぶであろうが、本文に戻

ろう。

    

「リーフ」

・「ボルト」と比べると車内の遮音性が高い。インバータ、モータなどの高周波音

は車内、車外でほとんどない。後席乗車でも、高周波音はない。

・2010年1月に日産ノースアメリカ本社(米テネシー州ナッシュビル郊外)で「リ

ーフ」のテスト車両を試乗した。詳細は本連載第27回「やっぱり日産は電気自動

車に本気だ!トヨタも無視できないリーフの正体」を参照。その際、ブレーキの

タッチ感についてはストローク(踏みシロ)が極端に少なく、電気スイッチがカチカ

チとON/OFFするような感じだった。それが量産車では、程よいストロークとな

り、タッチ感も高価格/高性能ガソリン車のようなガッシリ感が出た。

http://diamond.jp/articles/-/7212 リーフの正体)

・走行モードは、通常「D」と「ECO」の2つ。手元の小さいシフトレバーを手前にカ

チと操作することで切り替わる。「ECO」モードでは「D」モードより明らかに加速

が緩やか(=アクセルの踏む量に対するモータ出力/トルク変化が緩やか)に

なり、さらにアクセルオフ時の回生の量が「D」モードより明らかに大きくなる。こう

したモードでの走行感の変化は「ボルト」より明らかに大きい。

・「D」モード、交差点赤信号から青信号に変わった際、アクセルオンでの出足

は、「ボルト」の「ノーマル」モードより明らかに強い。

・クルマ全体の密度感、ドライバーとクルマとの一体感がある。こうした感覚は

「ボルト」では感じられない。「リーフ」には電気自動車という特殊感が満ちて

いる。



<総評>


 走行性能という面で、「機械/電気製品」としての出来栄えを単純比較するな

らば、「リーフ」は「ボルト」より優れている。


 だが、一般的に運転が荒いアメリカ人が、「リーフ」と「ボルト」との性能差をど

れだけハッキリと感じ取れるかは不明だ。


 内外装の見た目では、「ボルト」は「メカメカしい」雰囲気がある。映画「トランス

フォーマー」に見られるようなアメリカンコミック的な分かり易い「次世代さ」を感

じる。


 一方、「リーフ」は、先端技術を見せびらかさず、メカメカしさの角(かど)を取っ

ている感じだ。つまり、どこか「控えめ」な雰囲気がある。そのため、押し出し感

を強調する「ボルト」とは対照的なイメージとなっている。


 以上にように、走行性能と価格では、「リーフ」は「ボルト」に勝っている


 だが、問題は「航続距離」と「充電方法」だ

  
「ボルト」の場合、電気自動車として航続距離について、対外的に度々の修正を

行ってきた。もともとは「一般的なアメリカ人の生活を考えれば、

50マイル(80km)あれば十分」という触れ込みだった。それが量産化に向けて

40マイル(64km)となり、実用での様々な走行条件が重なると、最低で25マイ

ル(40km)、最長で50マイル(80km)
という説明に変わった。

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後席試乗時に撮影したGM「シボレーボルト」。

 こうした「言い訳」をネガティブに捉えるメディアが多い。だが、本連載で度々紹

介しているように、現在のリチウムイオン二次電池搭載電気自動車では、エ

アコン/ヒーター使用や急加速/高速走行などでの電気消耗が大きく、カタロ

グ値と実用値が大きく異なることは「致し方がない」。問題は、メーカー側がそれ

を消費者にどう説明するかだ。GMの場合、「(電気自動車は特殊なので)ごめ

んなさい」を小出しにして、消費者サイドに徐々に理解を求める作戦だ。


 だが「ボルト」の場合、バッテリー量がなくなっても、ガソリンエンジンで自家発

電し、さらには駆動としてガソリンエンジンがモータをアシストするのだから、

「最悪、どこかで止まってしまう」ような状況には陥りにくい。

(続く)