丁字に頭を抑えられたバルチック艦隊は、南東に逃げている。そのため両艦隊
は並航戦となっている。もっぱら「三笠」のみが被弾し、他艦には殆ど着弾してい
ない。しかし第2戦隊の「浅間」に着弾した12インチ砲弾は、死傷者は無かった
ものの、舵輪操作を不能にした。
以上と以下は「日露戦争5」(児島襄)を参照している。
14:40、並航戦が続くが、速力を上げ丁字に回頭する。
14:45、連合艦隊の第3、第4戦隊の巡洋艦隊が、バルチック艦隊の背後を襲う。
旗艦スウォーロフは、舵が故障し右旋回を始める。2番艦のアレクサンドル三世
が先頭になり北上する。そして被弾し、列外に出る。3番艦のボロジノが先頭に
なり、被弾する。防護巡洋艦「ジェンチュグ」が「スウォーロフ」の防護から離れ
て、戦列の先頭へと復帰するために速力を上げて突進する。その姿を「三笠」は
捕らえていた。あたかも「三笠」に向かって突進して、近距離にて水雷を発射さ
れることを恐れた「三笠」は、14:57、敵前で左90度に一斉回頭をする。
しかし第1戦隊に続く第2戦隊は回頭しなかった。第2戦隊旗艦の巡洋艦「出
雲」の先任参謀佐藤鉄太郎中佐は、「スウォーロフ」の異常に気が付き後続艦
隊は直進するので、第2艦隊司令長官上村彦之丞中将に「面舵をとって敵の頭
を抑えましょう」と進言する。そして15:00頃第2戦隊は右に舵を切る。「中」が
「大」に戦いを挑むのである。戦艦の12インチ(30.48cm)に対して、装甲巡洋
艦の8インチ(20.3cm)が挑んだのである。しかし砲撃精度に勝る上村艦隊
は、「シソイウェリーキー」と「アレクサンドル三世」に砲弾を浴びせ火災を発生
させる。この三笠の指示を間違いと判断し独断専行で、バルチック艦隊を押さえ
た行動が、「ブラボー、アドミラル上村」と言われたゆえんである。
(2010/12/3,NO.33参照)
15:05、三笠の第1戦隊は左90度一斉回頭し、「三笠」が最後尾の単縦陣とな
り、バルチック艦隊と逆行する形となり、まず三笠がスウォーロフに向け発砲を
開始する。
15:10、オスラビア沈没。
しかし第1戦隊とバルチック艦隊は逆方向への航行となりお互いに見失う。バル
チック艦隊は第2戦隊に頭を抑えられ、南へ向かっている。そして先頭艦となっ
た戦艦「ボロジノ」は、戦闘を避け、今度は北へ向かって逃走を開始する。
東郷の第一戦隊は間違いに気付き、15:47、一斉回頭をして戻ってきていた。
そして北に向かったバルチック艦隊と偶然鉢合わせとなり、東から追いかける
第2戦隊と思いかけずに挟み撃ちをする形となる。ここでも東郷はバルチック艦
隊と鉢合わせすると言う幸運を得て、北に取り逃がすことにはならなかった。そ
の点でも東郷は、大いに運のよい男なのであろう。
スウォーロフはこの時、17:30頃は攻撃も受けずに単艦で漂っていた。司令長官
ロジェストヴェンスキーは頭部他に重傷を負っていた。駆逐艦「ブイヌイ」が「スウ
ォーロフ」に接舷させ、神業で司令長官を移乗させその場を離れていった。
(続く)