番外編・プリウス急加速問題(94)

一時が万事。コンボコネクター方式への降参は
日本自動車産業界の崩壊を招く


 以上見てきたように、コンボコネクター方式登場により、日本のEV産業は正念場を迎

えた。だが、日本自動車産業世界標準化に関連した劣勢は、急速充電器問題だ

けにとどまらない。


 本連載で何度か取り上げているが、テレマティクス分野で欧米勢力が主導権を握ろう

と、活発な動きを見せている。そのなかで、V2V(ヴィークル・トゥ・ヴィークル/車々間通

信)やV2I(ヴィークル・トゥ・インフラストラクチャー/路車間通信)で活用されるDSRC(狭

域通信)の周波数帯の設定でも、日本は劣勢だ。そのDSRC技術を使ったETC(自動課

金システム)を世界で最も早く普及させた日本だが、同分野で出遅れていた欧米勢力が

世界標準化”という武器によって、日本潰しを仕掛けてきた。

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日産「リーフ」の逆潮流システム。「リーフ」自体を蓄電池とみなし、チャデモ方式の急速充電ポートを使い、車輌から家に電力を供給。だが、コンボコネクター登場により、こうしたビジネスも日本国内ガラパゴス化してしまう。
Photo by Kenji Momota

 世界の自動車産業界はいま、先進国から新興国へのパラダイムシフト電動化

技術の進化
、そしてテレマティクスの急激な進化という、三大潮流に直面している。

こうした史上空前の自動車産業大変革期に、欧米勢力は日本勢を相手に、業界図式

を一気にひっくり返そうとしているのだ
。それが露骨に現われたケースが、今回の「チャ

デモvsコンボコネクター戦争
」だ。

 半導体、液晶パネル、太陽光パネルなど、「技術で勝って、事業で負ける」という日本の

過去の失態を、自動車用の急速充電器で繰り返してはならない。日本自動車産業界の近

未来を考えると、急速充電器世界標準化は、日本が是が非でも守り抜かねばなら

ない“防御壁”なのである。

http://diamond.jp/articles/-/16371

 
 
このような電気自動車をめぐる「ドロドロとした駆け引き」のほかに、世界での自動車業

界の再編
が進みつつある。先には
SUZUKIVWの提携解消に伴ういざこざが発生しまだ

解決していないが、

企業間の合従連衡の動きには目が離せない。つい先月には
GMPSAが業務提携を発表

した。そしてGMBMWとも提携交渉を進めているようだ。

RenaultNISSANの提携関係はうまくいっているようだし、FiatはCHRYSLERを傘下に治

めて上り調子だしSUZUKIやMAZDAとの提携にも興味を示している。SUZUKIは独立色が

強く、MAZDAはFORDとも手を切りSKYACTIVで意気軒昂だ。そのFORDはトヨタから

ハイブリッド技術を買っている。OPELもGMが何とかするだろう。こうしてみてくると其の他

の欧州メーカーは大体片付いているようなので、残っていたのはPSAだけだったようだ。

そのPSAが、欧州で後塵を拝していたGMと手を結んだと言うことのようだ。

日本では、トヨタの影が欧州ではまことに薄い。欧州は自動車先進国であり、ディーゼル

エンジン
全盛でエコドライブの中心となっている。そのため、トヨタの専売特許のハイブリッ

ド車プリウス
の出番は多くない。今度「GT86」を引っさげて、欧州に殴り込みをかけようと

しているが、それと一緒にプラグインハイブリッド車も持ち込もうとしているのか。どのよう

な展開を考えているのかは知らないが、PHVはもう少し改良してバッテリーでの航続距離

を長くしてからの話となろう。


トヨタもハイブリッドだけでは心もとない、どのような手を打ってくるか。いずれにしてもエコ

カー開発
に必要な莫大な開発費用を、単独でこなすことの出来る企業は多くはない。

今後とも目が離せないということ。

 
 

【第104回】 2012年3月7日
22米GMと仏プジョーが電撃資本提携!日本を巻き込む世界自動車業界

再編が加速?


アメリカ+フランスという
意外な取り合わせのワケは?

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提携を発表したGM社ダン・エイカーソンCEO と仏PSA社のフィリップ・アービンCEO

 GM(General Motors)ニューヨーク市街で2012年2月29日、仏PSA(プジョー

シトロエン
との提携を発表し、両社のCEOが会見した。

 提携の柱は大きく二つ。ひとつは、2016年に共通プラットフォーム(車体)を活用する等、

2社が製造する自動車モデルの部品共通性をもたせること。もうひとつは、購買や物流な

どを欧州内で共同で行うことだ。

 また、この会見の2日前、伊フィアット社のセルジオ・マルキオンネCEOが記者団に対し

て、同社の提携先の候補としてスズキとマツダの名前を挙げたことが報道された。

 こうした欧米発の情報を受け、日本のマスコミは「世界での自動車業界再編が加速しそ

うだ」と書く。その理由として、欧州経済危機を挙げる。だが、世界全体を見据えて、世界

自動車産業界の変革の今後を精査するような記事は見当たらない。

 そこで本稿では、最近動きが活発化してきた世界自動車業界再編の軸足は「実はアメリ

カにある
」という視点から、今後の同業界の動きを予測してみたい。


EUとNAFTAとの新たな結びつき
パラダイムシフト第二幕が進行中


 欧州自動車工業会によると、2010年の世界自動車総生産台数は、5847万8810台だ。

 それを地域別で見ると、新興国であるBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)が35.5%で

最も多く、次いでEUの25.8%、日本14.2%、NAFTA(北米経済圏/アメリカ・カナダ・メキシ

コ)8.7%、韓国6.6%、その他のアジア3.5%、その他の欧州1.2%、その他が3.9%だ。
NAFTA ; North American Free Trade Agreement北米自由貿易協定

 こうした各地域の現地を定常的に取材している筆者は、各地域の自動車産業は今後、

次のように動くと思う。

 全体として見れば、新興国での製造・販売は継続的に増加し、先進国での製造・販売の

伸び悩みと低下が加速する。これは一般的に、パラダイムシフト(市場の大きな移動)と呼

ばれるものだ。そのなかでBRICsでは、ブラジル、ロシアの経済発展が順調。中国、インド

の国内経済はやや足踏み状態だが中期的にはまだ伸びる。こうしたBRICsでの自動車需

要は、インドから欧州への一部輸出を除き、基本的に地産地消が主体のマーケットとして

伸びる。

 アジアの自動車製造と販売はタイ、インドネシアの二大拠点が基盤。また商圏、物流圏と

しては、インド~ASEANオセアニアで構成されるアジア太平洋州の枠組みのなか、

FTAEPA等の自由貿易協定の実効性が高まるのと平行して、同州内での部品の相互

補完や新車輸出入が活発になる。さらにタイは同州の中心的存在として、新興国と発展途

上国向けの輸出拠点として存続する。

 対する先進国では、それぞれの地域で状況が大きく違う。日本はご承知の通り、2012年

上期にエコカー補助金等による瞬間的な需要増があるが、中期的には内需低下傾向が変

わらず。円高による輸出への圧迫のダブルパンチを受け、今後確実に、自動車産業は空

洞化する。

 韓国は、内需低下分をウォン安による輸出でカバー。だが、新興国NAFTA(北米自由

貿易協定)現地での効率的な開発を考慮すれば、韓国も日本と同様に、「売れるところで

作る」という概念が優先してくる。そのため韓国にとっても「売れるところ」である新興国

NAFTAでの現地生産の依存度が今後も高まっていく。

 そして問題は、残りの先進国、EUNAFTAとの関係だ。この2地域間で生まれている新

たなる結びつきこそ、パラダイムシフト第二幕だ。


欧州自動車産業の図式は
いまどうなっているか


 欧州自動車メーカーは、主力であるドイツ勢力アウディを含むVWグループ、ダイムラ

ー、BMW、ポルシェ)が、先進国、中国、北米市場などで順調な伸び。それを、PSA(プ

ジョー・シトロエン)とルノーが追う。だが、ドイツ車が小型車から高級車に至るまで、世界各

地で世界標準車のように売れているのに対して、フランス車は世界市場のなかで見ると欧

州市場への依存度があまりにも高い。

 それに続くのが英国。インドTATA社に買収されたジャガー・ランドローバー以外、同国内

の自動車製造は日米メーカーへの依存度が高い。世界市場での英国車は、ジャガー、アス

トンマーチンなど“クセのある高級車”というイメージが先行する。

 その他、欧州内で多くの自動車ブランドがあるのが、イタリアだ。ここではアルファロメ

オ、ランチャ、フェラーリマセラティアバルトという主要ブランドの全てがフィアット傘下

ある。またフェラーリや、独VWグループのランボルギーニ等の超高級車は世界戦略車

だが、それ以外のイタリアブランドは欧州市場への依存度が高い。例外としてフィアットブラ

ンドはブラジルで長年に渡り、高いシェアを占めている。

 こうした欧州自動車産業界の図式のなか、独仏伊の自動車メーカーは近年、労働賃金と

物価の安さを求めて、旧東欧諸国であるチェコスロバキアポーランド等に生産拠点を移

してきた。そしていま、欧州自動車メーカーは欧州危機に直面した。その結果として、各社

のCEOやCFOは最近、口を揃えて「欧州内で供給過剰な状態が当分続く」という。フィアッ

トのマルキオンネCEOは欧州内で記者団に「少なくとも2014年までは欧州市場が低迷す

る」と漏らしている。

 こうなってくると、欧州内での販売依存度が高いフランスとイタリアのメーカーは、新たな

る策が急務となる。

 新たなる策として考えられるのは生産拠点の整理統合、他社との共同購買、

車体共有、OEMの増加、EUに近いロシアを筆頭とした新興国での現地生産と販

売網の強化
だ。

 ということで、ルノーは日産と上記の①、②、③を実施済み。残るPSAとフィアット

①、②、③それぞれに対して、なんらかの手を打つ必要があるのだ。

 その結果として考えられた手が、NAFTAとのつながり、つまりアメリカ自動車メーカー

提携なのだ。


フィアット
北米、ロシア、南米、インドを視野に


 フィアットは、クライスラーを傘下に収めている。最近では、経営統合を視野に入れている

のでは、との報道が多い。また、
フィアットクライスラーは車体の統合による新車開発と

いう観点では、すでにプロジェクトが実施されている。それが、コンパクトカーのアルファロメ

オ「ジュリエッタ」と、クライスラーが展開するブランド「ダッジ」の「ダート」だ。エンジンも1.4

リッターターボ等を共用する。

 欧州での一部報道では、フィアットクライスラーのジープブランドの、ロシアでの現地生

産を含めた積極的な展開を考慮するという。その他の地域でも、“先が見込めない欧州”

の代替市場として、インド、そして既にフィアット車の人気が高いブラジルを基点として南米

を攻めたいところだ。

 またフィアットはインドで、スズキディーゼルターボエンジンを供給している。このディー

ゼルエンジン供給を継続するかしないかで、スズキとVWの関係がこじれたという憶測が自

動車業界内に飛び交っている。このような流れのなか、フィアットとしては現時点でスズキも

提携先候補となるのは当然だ。

 またマツダとの関係については、フィアットとの明確な接点がまだ見えてこない。こうした

欧州発の各種情報を精査するために、筆者は本稿が掲載される頃、スイスのジュネーブ

ーターショーでフィアット等のイタリア系メーカーを中心として、欧州メーカーに関する取材を

進めるつもりだ。


“動かざるを得なかった”GM
きっかけはフォード?


 次に、フォードだ。同社は長年、欧州フォード、北米フォードという2つのブランド戦略を進

めてきた。2ブランドでのモデルに横のつながりは弱く、欧州フォードはVWルノーと同格

の欧州車だった。欧州フォードはドイツを基点に、欧州各地で“アメ車の匂いを消した”欧

州車として認知されてきた。

 対する北米フォードは長年、北米商用ライトトラック部門販売実績No.1を誇ってい

る「F150」を中心に、中大型SUVや中型セダンを主力製品としてきた。そのため、小型車

「フォーカス」でも先代モデルまで、北米フォーカスと欧州フォーカスでデザインやボディサイ

ズが違っていた。

 こうした北米特化型の製品開発を見直したのが、同社が2010年初頭に打ち出した

One Ford」戦略だ。

 これは開発面から見れば、欧米を含む世界各地域で、各モデルの車体とエンジンの共

有化を強化するものだ。その結果、2012年春発売予定の北米コンパクトSUV・新型「エス

ケープ」では、同クラスの常識を破るエンジンの小型化を実施。燃費を最大限に考慮した

売れ筋モデルに、欧州フォード車で活用している1.6リッターターボを搭載する。

 こうした、フィアットクライスラー、フォードの動きに対して、デトロイト3の一角である

GMも“動かざるを得なかった”のだと思う。その提携先の選択肢として、本稿でこれまで見

てきたように、結果的にPSAしか残っていなかったともいえる。

 GMは欧州では、オペルとの関係が微妙に残ったままの状態。英国ではボクソールブラ

ンドを維持。高級車としてキャデラックとシボレー「コルベット」を販売しているが絶対量とし

ては少ない。そして、その他の世界主要市場では、世界戦略車としてのコンパクトカー「ク

ルーズ」は、新興国での販売を順調に伸ばしている。中国GMビュイックブランドの定

着もあり、VWと並ぶ2大勢力として日系メーカーを圧倒する存在。さらにブラジルなど南米

での人気小型車としてシェアを守っている。加えて最近、北米市場回復の傾向が鮮明に

なってきた。

 こうしたなか、GMとして必然になったのが、欧州での生産・販売の再編成だ。その相手と

して、結果的にPSAになったと思われる。GMは2011年12月期に過去最高益を達成。

資金的に余裕のあるこの時期だからこそ、新しい欧州戦略に大きく動くことができたのだ。


競争激化する欧州、
ロシア圏市場で日系メーカーは?


 以上見てきたように、欧州危機をキッカケとして、欧州自動車メーカーとアメリカ自動車

メーカーの事業連携が加速している。こうした状況で、日系メーカーにどのような影響が出

るのか?

 もともと、日系メーカーは欧州市場で販売数が少ない。近年は、トヨタ、日産が現地生産

化と現地に見合った商品開発によって、ある程度のシェアを獲得するようになった。だが、

欧州市場ヒエラルキーのなか、日本車の立場はけっして高くない。そこに欧米勢力が連

携し、EU市場内全体でコスト競争力をつけてくる。その流れは、EUに隣接するロシア市

場と、ロシアが目論む旧ソ連邦地域を含んだロシア経済圏で、欧州車の存在感を高めるこ

とになる。

 これまで、北米とアジア圏を主戦場としてきた日系メーカー。欧米勢力パラダイムシフ

ト第二幕
を開いたいま、日系メーカーは欧州市場における“潜在的な苦手意識”を根本か

ら見直し、新たなる欧州戦略を練る必要がある。

http://diamond.jp/articles/-/16452
(終り)