さて電気自動車の話に戻ろう。
と言っても今までも電気自動車の話しをしていたのであるが、エリーカのシムドライブ社の
話しに戻ろう。2009年の論考なのでかなり古いが、シムドライブの清水浩教授の電気自動
車に関する考え方がわかって、意外と参考となろう。そこには2次電池の性能向上もあな
がち無視出来ないものがあるようである。小生はリチウム・イオン電池の性能向上はなか
なか難しいのではないか、と考えているのであるが意外と早く性能向上もありそうな感触で
ある。
ECO JAPAN 2009年11月26日http://eco.nikkeibp.co.jp/article/interview/20091120/102668/?P=1
なぜ電気自動車が世界を変えるのか 清水浩が新会社をつくったわけ
シムドライブ社長/慶應義塾大学教授 清水 浩氏
聞き手・文/林愛子
一般に電気自動車の将来は二次電池の進化次第とされる。しかし、環境省国立環境研
究所を経て慶應義塾大学教授となった清水浩氏は、電池の進化に依存しない電気自動車
を提唱してきた。2004年には自身の持論を裏付けるかのようにインホイールモーターの
電気自動車「エリーカ」で最高速度370km/hを実現している。
このニュースは世界を駆け巡り、エリーカの実力は広く知られるに至った。これまでに
皇太子ご夫妻や小泉純一郎元首相、石原慎太郎東京都知事、松沢成文神奈川県知事ら
がエリーカに試乗している。なかでも松沢知事はエリーカやその前身となる電気自動車
「カズ」の試乗体験が、電気自動車の普及を実感する契機になったと述べている(参照
記事)。http://eco.nikkeibp.co.jp/style/eco/interview/081021_matsuzawa/
2009年8月、清水氏は株式会社シムドライブを設立し、社長に就任した。同社取締役
には、やはりエリーカ試乗で電気自動車の将来を確信したというベネッセコーポレーション
代表取締役会長兼CEOの福武總一郎氏や、ガリバーインターナショナル代表取締役会長
の羽鳥兼市氏らが名を連ねる。シムドライブ社では、清水氏が過去30年間で9台の電気
自動車開発に携わった実績とノウハウを生かして新しい電気自動車のプラットフォームを
開発し、オープンソース方式で事業を展開して普及を目指す。
5つのエネルギーロスに着目
――2009年夏に三菱自動車工業と富士重工業が電気自動車を発売し、これから数年
内に主要自動車メーカーのほとんどが電気自動車市場に参入する見込みです。いよいよ
開発競争が激化してきましたが、シムドライブ社の電気自動車は「インホイールモータ
ー(タイヤホイールの中にモーターを内蔵させる技術)」を採用している点が他社との大き
な違いです。独自の開発思想を持つに至った経緯を教えてください。
シムドライブ 清水浩社長
清水浩社長(以下、敬称略): 30年ほど前、初めて電気自動車の研究開発に乗り出すと
きに、いろいろなシミュレーションをしたんです。まず、電気自動車とガソリン車の効率を比
べたところ、電気自動車の方が優れているのは明らかでした。技術は必ず効率の悪い方
からよい方へと移行しますから、電気自動車はいずれ確実に普及するだろうと思いました。
次に注目したのは二次電池。そのころから電気自動車の課題だと言われていました
が、本当にそうなのかと疑問に思いました。エネルギー源がガソリンから電気に代わるこ
とで、クルマづくりが一から変わりますから、電池の進化だけに頼らずとも、全体を見直すこ
とでエネルギー効率のよいクルマがつくれるのではないかと考えたんです。
電気自動車においてエネルギーが消費されるのは「加速時のモーター」「減速時の回
生ブレーキ」「モーターから車輪のエネルギー伝達」「転がり摩擦抵抗」「空気抵抗」の
5つ。それぞれのロスを最小限にとどめれば効率が上がります。当時主流だったエネルギ
ー密度40Wh/kg程度の鉛蓄電池でも、計算上は航続距離300kmが達成可能でした。
航続距離が300kmあれば十分実用に耐え得るので、電池の性能向上を待つよりも、おそら
くこの5つのロス低減に注力する方が早くゴールにたどり着けるだろうと考えたのです。
ちょうどオイルショックの後で、自動車メーカーが省エネルギー技術として転がり摩擦抵
抗や空気抵抗の研究に熱心だった時代です。そのときは、5年もあれば計算通りの電気
自動車をつくれると思っていました。ところが1990年代に入ると原油価格が下がって省エ
ネへの関心が薄れ、結局構想から今日まで30年の歳月が過ぎてしまいました。実現まで
の時間は読み違えましたが、当時も今も、取り組んでいることは基本的に同じです。
要素技術の進展が総合力を底上げ
――これまで研究されてきた30年間と、今回立ち上げたシムドライブという会社組織として
の取り組みでは、どのような点が違ってくるでしょう。
清水: 主に資金調達です。これまでの9台の電気自動車は国の予算に提案書を出した
り、民間企業にお願いしたりということを数多く繰り返してきました。シムドライブ社はベネッ
セコーポレーションやガリバーインターナショナルなどから出資を得て、慶應義塾大学発の
ベンチャー企業として設立しましたので、そこが大きな違いです。
また、時代の要請も違います。少し前まではさほど電気自動車に注目が集まっていませ
んでしたよね。それが2008年に原油価格が急騰し、その後のリーマンショックで世界が
一変しました。米国ではオバマ大統領がグリーンニューディール政策やスマートグリッド構
想を打ち出し、日本では鳩山首相が2020年までに温室効果ガスを1990年比で25%削減
するという目標を掲げました。今は電気自動車普及に追い風が吹いている、よい時期だと
思います。
これまで、実に様々な関連技術がそれぞれの分野で進歩を遂げてきました。二次電池は
エネルギー密度の高いリチウムイオン電池が、パソコンや携帯機器の分野ではすでに主
流になっています。また、強力なネオジム磁石の登場はモーターの効率を飛躍的に高め
ることを可能にしました。インバータ用のトランジスタも性能がよくなり、モーターの回転制
御の効率も高まりました。近年は転がり抵抗を低減するエコタイヤの開発も活発です。
30年前と違って、いまはこうした技術が使えるわけです。これらを駆使して、市販の際に
は現在発売中の電気自動車と同等の容量のリチウムイオン電池で、航続距離300kmを
達成したいですね。それは十分可能だと思います。
――三菱自動車「i-MiEV」の航続距離は160kmですから、その2倍近い距離を実現しよう
というわけですね。それが可能なのはインホイールモーターだからでしょうか?
清水: もう少し詳しく言えば、モーター自体の効率が高く、かつダイレクトに車輪を回すか
らです。
モーターにはコイル(固定子)の外側に磁石(回転子)を置く「アウターローター方式」と、
コイルの内側に磁石を置く「インナーローター方式」があります。前者はダイレクトに車輪を
回すので効率がよく、一時期はこれを採用していました。しかし、重さあたりの出力の不足
など技術的な課題があり、15年前からはインナーローター方式で、モーターと車輪の間に
1個だけギアを挿入する方式を採用しています。「エリーカ」もそうでした。
しかし、この方式はギアを挟む分のロスが生じます。これが最終的には無視できず、4年
間かけて新しいモーターを開発しました。ここにきてそれが可能になったのは、磁石が強力
になったこと、コイルの鉄芯の材料がよくなったこと、コイルを高密度で巻けるようになった
こと、コンピュータの発達が複雑なシミュレーションを可能にし、設計の精度が向上したこと
などがあります。
この新しいモーターのおかげでアウターローター方式のダイレクトドライブが可能にな
り、モーター、回生ブレーキ、伝達におけるエネルギー損失が低減されました。さらに、
床下のフレーム構造に電池などを収納するので、車台がシンプルで軽く、車体デザインの
自由度も高い。これで転がり摩擦と空気抵抗も減らせますから、先に挙げた5つのエネル
ギー消費のすべてにおいてロスを抑えられるというわけです。
2004年に製造した電気自動車「Eliica(エリーカ)」。最高速度370km/hを達成している(提供:慶應義塾大学 電気自動車研究室)
(続く)