番外編・プリウス急加速問題(104)

世界中を日本発の電気自動車が走る日

――基本性能が同じなら、どこにオリジナリティを持たせるのか、企業間競争の中身も変

わってきますね。
07
シムドライブ 清水浩社長

清水: 時計のクオーツムーブメントはセイコーシチズンの2社がほぼ100%のシェアを占

めていて、世界中のメーカーに極めて安価に提供されています。そこに付加価値をつけて

高額の時計として販売するメーカーもあれば、手ごろな値段で量産するメーカーもありま

すね。電気自動車のプラットフォームも同様に誰でも使える技術として提供されるようにな

れば、どんな車体デザインにするかで製品としての価値が変わります。デザイン次第で何

倍にも価値が上がるわけですから、カーデザイナーの仕事は面白くなるでしょうね。

 新しい産業が興るときは、さまざまな技術が登場しますが、最終的には一番シンプル

で、最も合理的な技術
が残るものです。電気自動車のプラットフォームでは当社の

SIM-Drive」が最も効率がよく、シンプルで、合理的です。こうした点で「SIM-Drive」は私

が30年間かけて出した答えなのです。


――電気自動車が量産段階に入るフェーズ3では、シムドライブ社は製造サポート事業

教育事業などを展開する予定です。具体的にはどのような事業になるのでしょうか。

清水: サポート事業で行うのは、各社が独自の電気自動車を開発するときの支援です。

提携企業は先行開発車に関するノウハウを持ち帰れますが、実際に開発するときに

は、我々が30年間で蓄積した知識や技術を生かして、さまざまなアドバイスをできたらと考

えています。

 教育事業は、電気自動車の開発者と技術者に向けた教育です。今はエンジン車の技術

者が全国に約20万人いますが、この人たちはいずれ電気自動車に対応するための知識

や技術を習得する必要性が出てくるでしょう。そのための教育用ツールの開発などを事業

化していく計画です。

 
電気自動車太陽電池が世界を変える

――電気自動車は世界を変えるともおっしゃっています。

清水: 世界の人が電気自動車に乗るようになれば300~500兆円規模の市場になるとの

試算があります。もし、日本企業がこのうちの10%のシェアをとることができたら、それだけ

で50兆円になります。日本経済のことを考えればこれは大きい。そして日本には電気自動

車を大きな産業として育てる能力と資格があると思っています。

 私はいま、2回目産業革命が起ころうとしているのだと考えています。1回目は農業

社会から工業化社会への変革
で、社会を支える基盤が食料からエネルギーへと変わり

ました。農業も工業もサービスも、すべてエネルギーに立脚しています。20世紀はエネルギ

ーを十分に使える豊かな生活を目指しましたが、その豊かさを手に入れたのは一部の先

進国の人たちだけで、世界人口から見たら1割に過ぎません。残る9割は農業社会時代と

変わらない生活を送っているのです。

 そうした状況を打開する技術の一つが電気自動車。そしてもう一つが太陽電池です。解

決できるのは環境問題だけではありません。

 試算では、地表の1.5%に太陽電池を張り付ければ世界の70億人が米国人並みにエネ

ルギーを使えるようになります。エネルギーが行きわたるようになれば、世界の農業や工

業、教育もすべてが変わる。そして、電気で走る電気自動車は環境やエネルギーの制約

を受けない最も手軽な移動手段として世界中で自由に使えるようになるでしょう。そうな

れば、世界中の人々の生活を変わります。貧困や人口爆発もなくなって、先進国と途上国

の差がなくなっていきます。

 これが21世紀の産業革命だと私は考えています。成功のカギは、こうすれば我々は明

るい未来をつくれるのだと、世界中のみんながポジティブに考えることだと思います。


清水浩(しみず・ひろし)氏


株式会社シムドライブ 代表取締役社長

慶應義塾大学環境情報学部 教授

http://www.eliica.com/

1947年、宮城県生まれ。75年、東北大学工学研究科博士課程修了。

76年、環境庁国立公害研究所(現・環境省国立環境研究所) に入所。87年、国立環境研

究所地域環境研究グループ総合研究官に就任。97年に退任。


97年、慶應義塾大学環境情報学部教授に就任。環境問題の解析と対策技術についての

研究(電気自動車開発、エネルギーシステム開発)に従事する。


2009年8月
、株式会社シムドライブ(SIM-Drive)を設立。インホイールモーター型の電気

自動車の普及を目指す。


これまでの30年間で9台の電気自動車の試作車開発に携わる、日本の電気自動車開発

の第一人者。新世代の駆動方式として期待を集める「インホイールモーター」を使用した実

験車両「Eliica(エリーカ)」は、04年電気自動車として最高速度の370km/hを記録した。

09年からは神奈川県と共同で電気バスの開発も手掛ける。


著書に『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、『温暖化防止のために 一科学者からアル・

ゴア氏への提言』(ランダムハウス講談社)、『高性能電気自動車ルシオール』(日刊工業

新聞社)などがある。

http://eco.nikkeibp.co.jp/article/interview/20091120/102668/?P=1

  
 
2次電池のコストは大量生産ができれば、劇的に安くなると言っている。電気自動車の普及

リチウムイオン電池の価格低下は、同一次元で起こってゆくのであろう。お互いが夫々

影響を受け、且与えながら、価格は下方へ収斂してゆくことであろうが、それほど単純な動

きでもないことと思う。まだ一波乱も二波乱もあることであろう。


このSIM-Driveは「オープンソース」方式と言うことで、参加企業にはそこで培われた技術・

知見などは自由に提供されることになっている。しかも参加企業や団体は世界にまたがっ

ている。そのためその技術・知見は日本国内だけに留まっていない。願わくは、日本国内

だけでの「オープンソース」方式にできれはよかったとも思われるが、それにしても技術の

特許管理などはどんな扱いとなっているのであろうか。参加企業や団体だけでの使用など

の縛りや規則違反に対する罰則はあるのであろうか。事実オープンソース方式に基いてア

ウターローター式のインホイールモーターについては、台湾の企業が製品化を進めている

と言うし、SIM-Drive社は大型バスの電気化もトライしていると言う。まあそれにもましてSIM

-Drive社
内情の一端が垣間見られるやりとりも載っているので興味深い。何はともあ

れ、電気自動車といえども実用に供する車を作ることにはそれなりのステップを踏んだ車造

りが必要であるということ。単にエンジンをバッテリーとモーターに置き換える程度の車造り

では、当然駄目である。

(続く)