番外編・プリウス急加速問題(114)

そしてその後のGMの様子はどうなったのであろうか。シボレー「ボルト」は完全なEVでは

ないので、加州のZEV規制の0.79%の完全なEV車を売らなければならないということに対

しては、ボルトでは駄目である。するとGM電気自動車の開発にシャカリキになっている

のではないかと、想像される。それが「スパークEV」と言う車なのである。良きにつけ悪し

きにつけボルトが有名になってしまったので、GMのEV車のニュースが霞んでしまってい

るが、どうもそこそこ開発は進んでいるようだ。2012年は数百台の販売で事足りるので、

今年は何とかやりくりす出来るのであろう。

 
 

【米国―生産】GMが「スパークEV」の生産決定、13年に米国発売
2011年10月13日
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ゼネラル・モーターズ(GM)は('11年10月)12日、小型車「シボレー・スパーク」の電気自

動車(EV)バージョン
、「スパークEV」の生産を近く開始すると明らかにした。GMにとっ

ては1996年に試験的に投入した「EV1」以来、初の量産EVとなる。2013年からカリフォル

ニア州を含む米国の一部地域で発売し、世界市場にも販売を拡大する方針。

スパークEVには、リチウムイオン電池メーカー、A123システムズリチウムイオン・ナノ

リン酸塩電池
を搭載。生産量や価格などの詳細は追って発表する。

GMはスパークEVの生産開始により、プラグインハイブリッド車(PHV)の「シボレー・ボ

ルト
」、マイルド・ハイブリッド技術「eアシスト」と合わせ、シボレーのEV製品群が完結する

と強調。開発に当たっては、中国(「セイルEV」)と韓国(「クルーズEV」)、インド(「ビート

EV」)で行われたデモ走行の成果が集約されていると説明した。

米国市場では、すでに販売を開始している日産の量産型EV「リーフ」のほか、米EVベンチ

ャーのテスラモーターズの「ロードスター」と発売を控えた「モデルS」などと競合する。三菱

自動車は11月にEV「i―MiEVアイ・ミーブ)」を発売する予定。フォード・モーターは来年か

ら「フォーカス」のEVを投入する計画だ。

■米とカナダでも12年に「スパーク」発売

GMは同日、12年から米国とカナダでもシボレー・スパークの販売を開始すると発表した。

詳細は11月に開催されるロサンゼルスモーターショーで公表する。

07年のニューヨークモーターショーでコンセプトカー「シボレー・ビート」として初公開された

第1世代のスパークは、すでに欧州と韓国、インド、メキシコ、南米、豪州で販売。米国とカ

ナダでは、改良車が投入されることになるという。

http://auto-affairs.com/?p=2273

 
 
ZEV規制では、Enhanced AT-PZEVなる高性能なPHEVを2.21%は販売しなければなら

ないことになっているので、GMは「ボルト」をこれに当てればよいのである。然るにこれが

売れないときている。GMもこれには困っていることであろう。生産調整までして在庫を減ら

しているのである。GMとしては、この加州のZEV規制を乗り越えるためには、まだまだ一

山も二山も乗り越えなければならないのであろう。しかしながらその結果、米国での電気自

動車の普及が遅れてくれば、GMにとってはあながちマイナスにはならないかもしれない、

と言った考えもある。

 
 

日経ビジネス 記者の目
試練に立つGMボルト
EVのマイナスイメージに懸念

2012年3月30日 金曜日
細田孝宏(ニューヨーク支局)

 米ゼネラル・モーターズ(GM)の電気自動車(EV)「シボレー・ボルト」が試練の時を迎えて

いる。

 鳴り物入りで登場したボルトの生産は現在、一時停止している。販売が当初の想定を下

回り在庫がたまったことが直接の理由だが、売れ行きに影響を与えた要因としては、米運

輸省道路交通安全局(NHTSA)が昨年11月に実施した衝突実験で搭載しているリチウム

イオン電池から発火し、安全性に疑問が投げかけられたことも大きい。NHTSAによると、

側面衝突の実験をした3週間後に発火があったという。

当局はあっさり安全宣言したが…

 1月25日には米下院の監督・政府改革委員会が公聴会を開き、証言台に立ったGM

ダン・アカーソン会長兼CEO(最高経営責任者)は「ボルトは安全」と釈明することとなる。

 もっとも、当局であるNHTSAの最終的な判断は「問題なし」。公聴会に先立つ1月20日

には、ガソリン車よりも危険であるわけではなく、GMバッテリーの保護機構を強化する

といった改修に乗り出したことなどを理由にNHTSAは安全性に問題ないとしていた。

 NHTSAと言えば、2010年に急加速問題で全米が大騒ぎになったトヨタ自動車を追及した

ことで日本でも有名になった。最終的には「シロ」だったトヨタをあれだけ批判したNHTSA

が今回、あっさりと幕引きに動いたことにやや釈然としないところもあるが、こうした騒動

の影響でボルトの販売スローダウンすることとなった。

 これだけなら通常の品質問題だが、ボルト批判は別方面でも広がりを見せている。

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2010年7月、製造ラインから出てきた「ボルト」を試乗したオバマ大統領(写真:ロイター/アフロ)

 米共和党が「アンチオバマ」の材料としているのだ。

 グリーン政策を推進してきたバラク・オバマ大統領とって、ボルトは環境に優しい米国産

エコカーの象徴。2010年にミシガン州ハムトラミック工場を訪れた際は、工場内のわずか

な距離だが自ら運転するパフォーマンスも見せている。


「ボルトは“オバマカー”だ」


 それが今年11月の大統領選が近づくにつれ、ボルト共和党からの攻撃材料とされて

いる。

 現在進行中の同党予備選でトップを走るミット・ロムニーマサチューセッツ州知事は、ラ

ジオのインタビューで「シボレーボルト? はっ、それはまだ早いんじゃないの(an idea

whose time has not come)」と鼻で笑って切って捨てた。ニュート・ギングリッチ元下院議

長にいたっては、銃規制に反対する保守派の支持獲得を狙って、「ボルトは“オバマ

カー”だ。(銃を置く)ガンラックがない」と、ほとんど言いがかりのような批判をしている。

 ボルトにとって不幸だったのは生まれたタイミングかもしれない。

 オバマ政権が誕生したのが2009年1月。以前から経営危機にあったGM金融危機

とどめを刺され、チャプターイレブン(連邦破産法第11条)の適用を申請したのが2009

年6月
だった。ほぼ同時期に破綻した米クライスラーとあわせて多額の公的資金を投じて

再建させることとなった。

 そしてボルトが発売されたのが2010年末。共和党からすると「オバマが生んだクルマ」と

攻撃するにはちょうどいいタイミングに出てきたことになる。しかもそのボルトには購入の

際、最大で7500ドルもの連邦税の税額控除が与えられるわけだから、「大きな政府」に

反対する共和党支持者からすると、エコというよりも税金を使うけしからんクルマというこ

とになる。

 オバマも負けてはいない。大きな政治力を持つUAW全米自動車労組)の聴衆を前にオ

バマは「マイカーとしてボルトを購入する」とアピールした。これは大統領選の対抗馬として

本命視されているロムニー氏が「自動車産業の救済は間違いだった」と主張してきたこと

を意識したものだろう。


「政治のサンドバッグではない」とGM会長


 GMでは政治に巻き込まれた感のあるボルトの扱いに苛立っている。「我々は政治のサン

ドバッグにするためにボルトを開発したわけではない」とアカーソン会長兼CEOは公聴会

不満を露わにした。GM元副会長でボルトの開発を主導したカーガイ、ボブ・ラッツ氏もボル

トを擁護する発言をしている。

 品質への疑問やボルト叩きによって直接影響を受けているのはGMだが、いい迷惑なの

はEV普及に力を注いできた日本勢かもしれない。ご承知のように日産自動車はEV「リー

フ」の米国販売を強化しており、三菱自動車も「アイミーブ」の米国展開を始めている。EV

の品質や政府による普及支援策にマイナスイメージが広がれば悪影響を受けることも考え

られる。

 うがった見方をすれば、こうした騒動で結果的に得をするのは米国勢ではないか。GM

とってブランドイメージに傷がつくのは痛いが、先行逃げ切りを狙う日本勢を道連れにす

る形でEV普及が遅れることになれば、その間、自らの技術を向上させる時間稼ぎがで

きる。

 ボルト批判の広がりは米自動車産業全体で見れば必ずしもマイナスばかりではないのか

もしれない。


このコラムについて

記者の眼

日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。

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著者プロフィール

細田 孝宏(ほそだ・たかひろ)
日経BP社入社後、経済誌「日経ビジネス」を振り出しに、建築誌「日経アーキテクチュア」、日本経済新聞証券部(株式相場担当)で記者活動に従事。「日経ビジネス」では主に自動車、流通、商社などの各業界を担当し、現在、米国特派員として、ニューヨークに駐在している。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120327/230265/?ST=nbmag&REF=ML
(続く)