番外編・プリウス急加速問題(115)

いろいろと長々述べてはきたが、自動車産業内燃機関から電気モーターとバッテリーの

時代へと変革して行くことであろう。レアアースを使わない高性能な磁石の開発もやがては

実現して行くことであろう。そうすれば中国のくび木からは逃れられることになる。そうすれ

ばモーターやバッテリーの開発の波は、更に広がってゆく事となろう。航続距離を伸ばして

いるSIM-Drive社にとってもプラスサイドに、その影響は働いて行くことになろう。しかし後

は大手自動車メーカーの腕の見せ所と為らなければならないし、そうなることであろう。

現在のところインホイールモータを採用しているところは無さそうであるが、もともと

i-MiEVは、「三菱インホイールモーターEV」であったと言うが、コストの関係でインホイー

ルモーター技術を採用することが出来ずに「三菱イノベーティブEV」と言っているようで

ある。もっとも三菱は2005年秋の東京モーターショーで「ランサーエボリューションMIEV」を

公開している。このときMIEVは「Mitsubishi In-wheel motor Electric Vehicle」と言ってい

た。三菱自動車は1970年代からEV開発に取りかかっている。そして1990年代半ばから

EVの実験車作り始めている。そして1999年12月には、EV車としての24時間連続走行

距離
世界記録を達成している。2,142.3kmだ、もちろん急速充電を繰り返しながらの連

続走行である。

「MIEVの開発(第2回)」を参照のこと。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080523/152256/?ST=print

そのインホイールモーター方式を採用しているSIM-Drive社の先行開発車は、どんな形で

日の目を見るのであろうか。

 

 

DIAMOND online エコカー大戦争  【第106回】 2012年4月4日
誰も書かないEVベンチャーの「本質」
――慶大発SIM-Drive先行開発事業
第2号・第3号は成功できるか?


慶大学内ベンチャーSIM-Driveの
第1号車と第2号車が都内で走行

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東京プリンスホテルの駐車場。特設コースで、「SIM-WIL」(手前)、「SIM-LEI」(中央)、電動低床フラットバス(奥)が走行した。 Photo by Kenji Momota

 2012年3月28日(木)、東京タワーにほど近い東京都港区芝の東京プリンスホテル前駐

車場。そこに、3台の電動移動体が揃い踏みし、各車が関係者を同乗させて試験走行を行

なった。この3台とは、慶應義塾大学環境情報学部・清水浩教授が代表取締役を勤める学

ベンチャーのSIM-Driveが開発した先行開発車だ。


 白く細長いボディのクルマが既に各メディアでも紹介されている同第1号の「SIM-LEI」。同

車の開発を基に2014年の量産化を狙うのが、同日に世界初披露されたブルーの第2

号「SIM-WIL」だ。さらに、市街地走行向け大型バスとして開発された電動低床フラットバ

(※)が加わった。


 バスは同駐車場外まで走行したが、「SIM-LEI」と「SIM-WIL」は駐車場内で約300mほど

の直線での加速・減速と、180度コーナーでの低速旋回を行なった。

「SIM-LEI」と「SIM-WIL」の走行状態を比較すると、主電源ONの状態でのインバータ、モー

タ等の電子機器の音に、EV特有の高周波音が少なく静かだ。アクセルONの状態でもそう

した高周波音は気にならないレベルだ。2台の最大の差は、乗り心地だ。今回の試乗で

は、ほぼ停止状態から約70km/hまでフル加速したが、その中間地点で路面にギャップが

あった。


 それを乗り越える際、「SIM-LEI」ではドスンッという感じ。対する「SIM-WIL」はトヨタ、ホン

ダなどの量産型小型ミニバンのように、滑らかにギャップを通過した。「WIL」の最高速度

は180km/h、0~100km/h 加速は5.4秒、満充電での巡航可能距離日産「リーフ」

2.2倍351kmだ。
(2011.4.16,NO.95参照のこと。)


 この試乗会の4時間程前、午前10時から開催された記者会見で清水氏は、「私の過去

30年間の電気自動車研究のなかで、最高のモノができた。この世界最高の電気自動車

よって、皆さんには、時代が変わりそうだということを認識して欲しい」と語った。

(※)
連載第98回「“電気バス”は日本の公共交通を担えるか?ついに路上を走り始めた慶大発ベンチャーのEVバス」
(2011.5.1,NO.105参照のこと。)


 また今回は「SIM-WIL」の次の事業先行開発車事業第3号として、スマートハウス

スマートグリッド等、送電網や住居と電気自動車の融合を目指す、高い性能の“スマート・

トランスポーテーション”の実施を発表。同事業は2015年頃の大量生産を目指し、

1口2000万円の参加費によって、自動車部品、住宅不動産関連企業など国内外の26社

が参加。その記者発表には新聞、テレビなど大手メディアと同社各事業に参加する企業関

係者が約500人集まり、盛大な発表会となった。
(2011.4.18,NO.96参照のこと。)


 同日夜のテレビ朝日報道ステーション」等では、「SIM-WIL」が日本の近未来産業に与え

る影響に対して、好印象を与える報道がなされた。だが、こうした一般報道を見ていると、

EVなどの次世代エコカー関連ベンチャーに対して、メディア側が少し誤解しているような

印象を持つ。


 特にSIM-Driveに関して言えば、その事業目的と事業内容が一般的な自動車産業界内

では稀なケースであるため、一般メディア、さらには自動車専門メディアからですら理解さ

れにくいのだと思う。そこで今回は、「SIM-WIL」を叩き台として、EVベンチャーの「本質」

と、今後について考察していきたいと思う。


まるで大手メーカーの新車発表会!?
「SIM-WIL」はあくまでも実験事例


 今回の記者発表はまるで、一般自動車メーカーの新型車発表会のような雰囲気だった。
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SIM-Driveの会長で、ベネッセホールディングス会長の福武總一郎氏。「先行開発車事業第4号は、エリーカのようなスーパーEVがやりたい」と漏らす。
Photo by Kenji Momota

 まず、ベネッセホールディングスの会長で SIM-Driveの会長でもある福武總一郎氏の

挨拶、続いて同社代表取締役の清水浩氏が事業の詳細を説明した。その後、「SIM-WIL」

の開発関係者として、同社車輌開発統括部部長兼、車輌試作評価室長プロジェクトマネー

ジャーの眞貝知志氏が車輌概要を説明した。


 その冒頭、「SIM-WIL」のWILとは、With Innovation and Linkの略称で、“事業に参加

する企業や期間との連携と団結”、さらには東日本大震災後の“日本発の技術と絆”を意

味すると語った。そして、最近では中国のモーターショーで中国メーカーがやるような、ドラ

イアイスのスモークがたかれるなか、同車のアンベールが行われた。


 その後、デザイン、ボディ、シャーシ、駆動系の各担当が順に登場し、技術詳細を解説

した。

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記者会見するSIM-Drive代表取締役で、慶應義塾大学環境情報学部教授の清水浩氏。
Photo by Kenji Momota

 会見で清水氏が改めて語ったが、SIM-Driveの事業は、参加企業と共に企画開発した技

術をオープンソースという形式で各企業に“技術移転(または技術移管)”するものだ。

つまり、同社自らが製造拠点を持って少量、または大量にEVを生産するというものでは

ない。

「SIM-WIL」についても今回のプレスリリースには「2014年頃に量産化ができればと

願う……」と記載されている。今回発表の車輌パッケージそのまま、またはこれの応用編

を、一般の自動車メーカーが2014年頃量産化することを「願う」というのだ。そのた

め、同社ではブレーキング性能テストなど、一般公道走行を視野にナンバープレート取得

に向けた基本性能試験を行なっているが、量産化に向けた耐久試験など本格的な試験

は、自動車メーカーが行なう範疇であると判断している。


 にもかかわらず、一般メディアでは「SIM-WIL」が日産「リーフ」、三菱「i-MiEV」などの一

般量産型EVと同列に報道されている印象を持つ。繰り返すが、今回の発表はあくまでも

先行開発車、つまり試作車の発表である。

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東京プリンスホテルでの記者会見にはメディアや先行開発車事業参加企業からなど、約500人が集まった。 Photo by Kenji Momota

 そのため、車輌のスペック(諸元)についても、“こういった技術の可能性も十分にあり

得る”という視点で企画設計されている。それは外観デザイン、インテリアデザイン、搭載す

る蓄電池など全てにおいてである。同社の今回の発表の意図は、同社がデザイン、ボディ

開発、シャーシ・サスペンション開発、モータ開発の分野で、“新しい発想を創出できる

技量
がある”ということを、「SIM-WIL」で見える化した、ということなのだ。


 こうした同社事業の大前提を十分に理解した上で、次に「SIM-WIL」の技術詳細で気に

なった点について考察してみたい。

(続く)