世の中、何だこれ!(WBC敗退、56)

これは4年前の2009年WBCに関する論考であるが、状況は一向に変わっていない。

2013年の現在のWBCの状況もここに述べられているものと、何ら変わっていない。この状

況を少しでも変えることに寄与するために、新井貴浩の努力を生かしたかったのである。

しかし結局は読売新聞がそれを潰した。

 

 

WBC連覇でも、日本球界は浮かばれない?(下)
負けてもMLBだけが輝くシステム
2009年3月12日(木)  鈴木 友也
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20090311/188766/?leaf_ra

 16の国と地域が参加して世界一の座を争うワールド・ベースボール・クラシックWBC)が

先週5日に開幕しました。セキュリティー上の問題から、徹夜で並ぶことは禁止されていた

ものの、東京ラウンドの会場となった東京ドームには早朝から観客が集まり、夜からの試合

開始にもかかわらず、午前11時には約400人のファンが列を作りました。

 初戦の中国戦の平均視聴率は28.2%(関東地区)、宿敵韓国との一戦は37.8%(同)だっ

たことからも、日本国民全体が大きな関心を示していることがうかがえます。韓国戦の瞬間

最高視聴率は46.3%(同)と、国民の2人に1人がテレビ観戦していた格好です(数字はビデ

オリサーチ調べ)。

 残念ながら、日本代表チームは9日の1次ラウンドA組1位決定戦で敗者復活戦から勝ち

上がってきた韓国に0-1で惜敗し、1位通過はなりませんでしたが、2位で15日からサンデ

ィエゴで開催される2次ラウンドへの進出を決めました。当地で、B組(オーストラリア、キュ

ーバ、メキシコ、南アフリカ)の1位と対戦することになります。

Sb1480
巨大なフラッグで初戦の勝利を祝うファンたち © AP Images  


「本気の日本」とは対照的な米国


 米国に暮らしながら日米のWBCに対するマスコミ報道に接していると、両者の間に大き

な温度差
があることを感じます。日本のテレビ報道では、スポーツコーナーでWBCがトップ

ニュースとして扱われ、各球団のキャンプ情報は後回しにされるケースが多いようです。

 一方、米国。実はこの時期、最初に報じられるのは、クライマックスを迎えている大学バス

ケットボール
です。次いで、シーズン中のプロバスケットボールNBA=米プロバスケットボ

ール協会)やアイスホッケ(NHL=北米アイスホッケーリーグ)が続き、その次にやっとシ

ーズンオフのプロフットボールNFL=米ナショナル・フットボールリーグ)や野球(MLB

米大リーグ機構)
の話題になるのです。しかも、移籍情報や契約交渉状況、キャンプ情報

が先に報じられ、WBCが出てくるのは、ニュースの終盤ということが少なくありません。

 例えば、日本が事実上2次ラウンド進出を決めた7日の韓国戦(14-2で日本がコールド

勝ち)は、米国でも早朝5時からスポーツ専門ケーブル局ESPNが生中継していましたが、

放映権を持つESPNですら当日のニュースで報じたのは、米国代表チームが初戦でカナダ

に逆転勝ちしたことと、ドミニカ共和国が格下のオランダに敗れる波乱があったことだけで

した。日本に関する報道はなく、WBC関連も1時間のスポーツニュース番組の後半に5分

程度報じられただけでした。

 代表チームの編成についても、日本はトップ選手を招聘して2月16日から早々と宮崎に

キャンプインして全体練習を開始しています。ところが、米国チームでは数々の一流MLB

選手が出場を辞退
しており(例えば、昨年の20勝投手4人は全員出場を辞退している)、

チーム全体として練習を開始したのも、つい先日の3月2日のことでした。代表監督につい

ても、原監督がWBC期間中は巨人から離れて代表チームの指揮を執るのに対し、米国では

現役監督が日本のように5週間もチームを離れることは考えられない(球団が許可しない)

ようです。

 ニューヨーク・タイムズ紙はこうした日本代表チームの雰囲気を「レギュラーシーズンを犠

牲にしても構わないという気持ち」(Willingness to sacrifice the regular season)と多少の

驚きをもって評しています。逆に言えば、米国ではWBCよりも公式シーズンに重きを置く

とが当たり前だと考えられています。

 このように、「真の世界一を決める大会」として米国主導で始まったWBCですが、少なくと

も米国国内では「公式シーズンの前座として開催されるエキシビションマッチ」程度に捉え

られています。掛け声と取り組みには、多くの矛盾を抱えた大会となっています。


矛盾の原因はMLB中心主義


 国際野球連盟IBAF)に主導権を渡すことを拒否してまで強引に大会を主導することに

なったMLBが、言行不一致に陥っているわけです。その理由は、MLBが自分たち以外の

世界と協調することを考えていない「閉鎖型モデル」を採用しているためです。

 閉鎖型モデルでは、リーグがチーム数とその所在地を厳密に管理しています。つまり、

各チームには、一定地域におけるビジネスの独占権(フランチャイズが与えられるわけ

です。もし新規参入しようとすれば、巨額の参加費が必要となります。言ってみれば、一見

さんお断り
の有料会員制クラブのようなものです。「自分たちこそ世界最高峰」であり、「そ

の外に自分たちより高い山はない」という世界観を持ったビジネスモデルです。全米選手権

を「ワールドシリーズ」と呼ぶことからも、その発想が垣間見えます。

 一方、これと対照的なのが、欧州サッカー界が採用している「開放型モデル」です。このモ

デルの特徴は、リーグが階層的に組織されており、上位リーグの弱いチームは下位リーグ

に降格し、下位リーグの強いチームは上位リーグに昇格するという「昇格・降格システム」

が採用されている点です。このモデルでは、各チームに地理的な独占権はなく、新規参入

についても参加費を払うことなく最下層のリーグから興行を開始することが可能です。こち

らは、出入り自由の将棋クラブといったイメージでしょうか。

 外界との協調を前提としている開放型モデルでは、国際大会がうまく機能します。例えば

サッカー界では国際サッカー連盟FIFAを中心に各国サッカー協会が協力体制を築いて

います。だから、「ワールドカップを世界最高峰の大会と位置づけ、各国内リーグはこれに

協力する」というコンセンサスが取られています。「ワールドカップ>国内リーグ戦」という優

先順位が明確になっているので、基本的に代表チームからの招集をクラブが拒否すること

はできません
。大会開催期間についても、FIFAは2006年のドイツ大会から国内リーグ終了

を大会開始の約1カ月前に設定し、確実に選手が休養期間を取ったうえで大会が実施され

るように配慮しています。

 「真の世界一を決める」はずのWBCで、世界最高峰の選手の出場辞退が頻発している

のは、「自分たちが戦っている場所が“世界”なのだ」という発想でビジネスモデルが構築さ

れてきたMLBにとって、WBCという大会自体が「想定外」の存在であるためです。仲間

内(MLB加入チーム)だけで世界が完結し、その中で利益を最大化するビジネスシステム

が既に出来上がってしまっているため、開催時期やチーム編成、選手のインセンティブなど

の面から、WBCと国内リーグ戦整合性が確保できていないのです。MLB選手会とし

ても、頭が痛い問題でしょう。

(続く)