尖閣諸島問題その3(34)

沖縄の位置づけの再確認のため入手された資料か

 推論だが、コミュニケを出すに当たり「沖縄の位置づけ」を再確認するために、カイロ密談

において蒋介石ルーズベルトがどのような“口約束”をしたのかをアメリカ側が知りたかっ

たのだろう。そのため1961年にワシントンの政府印刷局(Government Printing Office)が

台湾(当時の「中華民国」政府)から何らかのルートを通して、中国語による機密議事録

入手したものと考えられる。米国側は「密談」では議事録を取っていなかったという記録が

別の所にあり、ほぼルーズベルトの独断で進められた会談だったようだ。

この公文書の323頁には

Chinese Summary Record
Translation

 というタイトルがある。「中国の概要記録の翻訳」(以下「記録」と略称する)、つまり中国語

から英語に翻訳されたことになる。

 だから先に触れた、蒋介石が自らの判断を悔いて「いかなる公的記録にも残すな」と王寵

恵に命じた部分は抜けている。つまりルーズベルト大統領の


日本を敗戦に追いやって琉球中華民国(中国)にあげるよ

という発言に対して、蒋介石が断った部分である。それ以外は中国共産党と中国政府メデ

ィアが報じた内容はほぼ収録されていた。逆に中国メディアにはない内容もあるので、領土

問題に直接絡む部分に入る前に、興味深い箇所を拾ってみよう。

(*)
『チャイナ・ギャップ』p.91資料3より

 323頁の(2)には以下のような趣旨のことが書いてある(概略、訳文は筆者、以下同様)

 日本の天皇家の位置づけに関してルーズベルトは、戦後は皇室を消滅させようと思う

が、どうかと蒋介石総統に聞いた。蒋介石は「これは日本政府の形の問題なので、日本人

自身に任せて終戦後、彼ら(日本人自身)に決めさせればいいのではないかと思う。国際

関係における永続的な問題を惹起しないようにした方がいいのでは」と答えた。

Ph02_s

 さすが日本に留学し、日本の陸軍士官学校で学んだ蒋介石だ。日本の根本的な思想と

構造を、よく理解している。『チャイナ・ギャップ』p.91資料3より


中国主導の日本占領を示唆したルーズベルト


 「記録」の(3)には、ゾッとするような会話が記録されている。

 日本に対する軍事的な占領に関して――ルーズベルト大統領は「戦後の
日本に対する

軍事的占領
に関しては、中国こそがリーダー的な役割を果たすべきだ」という考えを持っ
ていた。(そこでその意見を蒋介石に表明した。←この英文はないが、そういう流れである

と推測される。)しかしながら、蒋介石総統には、そのような重責を(ひとり)中国が担うなど

という心づもりはなかった。

 この業務はアメリカが遂行すべきで、中国は必要に応じてその支援に参加する程度の立

ち位置であるべきだと、蒋介石は考えていた。蒋介石はまた、事態の進展に応じて最終的

な決定をすればいいと考えていた。

 蒋介石にとって重要だったのは、他の国を制覇することより、
中国の覇者として自分が残る

ことだった、と解釈していいだろう。

 歴史には“IF”はないとしても、日本のいま現在にとって、このときの蒋介石の選択は大きい。


蒋介石
琉球群島(尖閣諸島を含む沖縄県)を「要りません」と言っただけでなく、「日本

を占領するのも遠慮します
」とアメリカに対して意思表示したということになる。蒋介石がこ

の時のルーズベルトの「プレゼント」に対して「ありがとうございます。それではそのようにさ

せて頂きます」と言ったとすれば、日本は「中華民国」に、あるいはその後政権を取った「中

華人民共和国」に占領されていたことになる。

 いよいよカイロ密談の領土問題に関する会話を見てみよう。「記録」の(5)は以下のように

述べている。

Ph03_s
『チャイナ・ギャップ』p.96資料4より   

 領土返還に関して――蒋介石総統とルーズベルト大統領は、日本が武力によって中国か

ら奪った中国の東北地方の4つの省、台湾および澎湖諸島(Penghu Islands)

(Pescadores:澎湖諸島)は、戦後、中国に返還されなければならないということで意見が

一致した。そしてこの中に遼東半島とそこにある旅順と大連という二つの港が含まれるとい

うことで認識を共有した。

 ルーズベルト大統領は琉球群島に関して言及した。そして中国が琉球群島を欲しいか否

かを一度以上聞いた。
蒋介石は「中国は米中両国による共同占領に参加することに関して

は賛同するが、但し、実際上は国際組織による信託統治の下で両国の共同管理に参加す

ることには賛同する」と答えた。

 アメリカ公文書にあるのはここまでだ。中国共産党新聞および新華網にある「カイロ密

」の後半部分は「記録」にはない。

 なお、ここにある「中国の東北地方の4つの省」とは「吉林省遼寧省黒竜江省および当

時の熱河省(現在の内モンゴル自治区の東部を中心として河北省と遼寧省の一部を含

む)」を指すものと解釈される。また澎湖島に関しては英文に二種類の表記があったので、

その二種類をそのまま忠実に列記した

(続く)