尖閣諸島問題その3(44)

時論公論 「どうなるのか中国 全人代開幕」
2013年03月05日 (火)   加藤 青延 解説委員

こんばんは。時論公論です。中国では、きょうから始まった全人代全国人民代表大会で、

国家と政府の指導者の顔ぶれが大幅に入れ替わり、新しい政権がスタートします。そこで

今夜は、近く発足する新体制の下で、中国がどのように変わるのか。あるいは変われるの

かについて考えてみたいと思います。

【VTR:全人代開幕】
中国の議会にあたる全人代、初日のきょうは温家宝首相が、政府活動報告を行いました。

温家宝首相は、今回の全人代で引退するため、きょうの活動報告は、温家宝氏自身の方

針表明というよりは、むしろ、新政権の意向を十分組み入れた方針といえるでしょう。


今回の活動報告で、特に際立っていたのは、安全保障の面で、私たち日本にとっても、大

変気がかりな言葉がちりばめられていたことです。


たとえば、国防政策の成果について、「国防・軍隊の建設では新局面を切り開いた。軍事

闘争の準備
を絶えず深めた」と述べ、あえて「軍事闘争」というきな臭い言葉を使うことで、

中国軍が、実際の戦闘準備に入りつつあることをほのめかしていることは注目に値します。

軍事闘争の準備をする」という言葉は、習近平が去年、共産党総書記になって以

来、各地の軍部隊を視察した際に、繰り返し強調している言い方で、政府活動報告にま

で、書き込まれたことはきわめて異例といえます。


さらに、今後の国防政策について、「われわれは、国防と軍隊の近代化を加速し、強大な

軍隊
を建設することで、主権や領土を断固守らなければならない」と述べ、中国の軍備増

強が、尖閣諸島をめぐる日本との対立や、南シナ海をめぐる周辺国との衝突を意識したも

のであることを示しました。


それにしても、中国が、政府活動報告の中で、どうしてここまで強気の立場を示すように

なったのでしょうか。私はこうした姿勢は、過去二十年以上、ほとんど二桁の伸びで、膨れ

上がってきた巨額の国防費に裏付けられているのではないかと思います。

【VTR:軍事パレード】

二十年以上二桁の伸び、と申し上げましたが、実は、例外として二○一○年だけ、前の年の

支出に比べた予算額はひと桁台の伸びにとどまりました。しかし、それは、前の年二○○九

年に、大々的な軍事パレードを行い、予算枠を大幅にオーバーしたためで、本来の予算額

同士の比較では、二○一○年も二桁の伸び、つまり、二十四年間二桁の伸びが続いてきた

というのが実態です。


そして、今日明らかになった中国のことしの国防費も、二桁の伸び、去年の実績に比べて

10.7パーセント増えました。確かに、中国はこのところ、空母を就航させたり、武装ヘリコプ

ターを配備したりするなど、着実に軍事力を強め、最近、日本側の発表では、東シナ海

自衛隊護衛艦射撃管制レーダーを照射するという事件も起こしています。このような

覇権主義とも取れる中国軍の動きに対して、日本など近隣諸国は、今後ますます警戒を

強め、より神経質にならざるを得なくなるでしょう。


さて、今回の全人代のもうひとつの焦点。それは、国と政府の指導者が大幅に若返る政権

交代が行われることです。


具体的には、胡錦涛国家主席温家宝首相という胡・温体制から、去年秋の党大会で共

産党のトップになった習近平氏と李克強氏という習・李体制に入れ替わることになります。

ただ、これからスタートする新政権の船出は、決して順風満帆とは言えないでしょう。


たとえば、透明性がないまま、どんどん軍備増強を進めれば、東シナ海南シナ海をめぐ

って中国と向き合う日本東南アジア諸国との摩擦は、ますます深まることになるでしょ

う。また、同時に深刻なのが、中国国内に抱える数々の矛盾や難題です。新政権は、まさ

に前途多難の船出になると言えるのではないでしょうか。

実は、中国が国内に抱える矛盾や難題は、いずれも、即効薬のような効き目の早い解決

手段が見つからない、大変厄介なものばかりです。たとえば、日本にまで影響が心配され

る環境破壊の問題。


特に、今一番問題になっているPM2.5という微粒子による大気汚染は、喘息など子供た

ちの健康に被害をもたらす心配が強まっているものの、即刻発生源をたつことは事実上不

可能に近いのです。中国は、ことしも、7.5%という、比較的高い経済成長率を目指してい

ますが、今中国で猛威を振るっている公害問題は、まさに、これまでの経済成長の副産物

ともいえます。これからも、中国が、高い経済成長を維持しようとすれば、どうしても、ある

程度、環境破壊は起きてしまう。逆に、環境保全を徹底し、公害を完全になくそうとすれば、

経済成長にブレーキがかかりかねない。新政権は、経済成長をとるか、環境保全を優先す

るか、スタート直後から大きなジレンマに悩まされることになるでしょう。

そして、もうひとつ、中国の国民の不満の大きな火種になっているのが、公務員の汚職腐敗

と、役所や国有企業が既得権益を独占していることです。
 


国がいくら経済成長を遂げても、自分たちは、ちっとも豊かになれないという庶民の不満

は、中国全土に広がり、爆発寸前といわれています。中国政府は、所得の再分配や汚職

取締りの強化など、こうした矛盾に取り組む一方、今回の全人代で、鉄道省など既得権益

の牙城
といわれた省庁の整理統合に踏み切る方針ですが、既得権益にしがみつくグルー

プの抵抗は非常に大きく、仮に、組織を再編できても、共産党一党支配の下で、政治と経

済が癒着する弊害にどこまで切り込めるか、その効果を疑問視する見方も出ています。

そして、何より、中国共産党政権が、これまでずっと後回しにしてきた政治体制改革も、も

はや、まったなしの状態にまできていると思います。かつて温家宝首相は、政治体制改革

の必要性を声高に訴えました。しかし、その声は、ここ数年、年を追うごとに小さくなり、今

回の政府活動報告には、「政治体制改革」という言葉さえありませんでした。中国では、経

済成長で人々の暮らしが先進国に近づくにつれて、政治面でも、先進国のような言論の自由

を求める声が国民の間に広がっています。


しかし、中国当局の態度は、相変わらず。むしろ、これまでよりより厳しくなってきた面すら

あり、言論の自由民主化を求める人たちが多く拘束されています。最近では、政治体制

改革を求める社説を掲載しようとした広東省の新聞、南方週末が、当局の介入を受け、社

説そのものを書き換えられるという事件がありました。

いくら経済が成長しても、自由に意思を表明できないようでは、真の幸せは得られないでし

ょう。今回の全人代で発足する新政権は、政治体制改革を求める国民の声にどうこたえる

のか。力で押しつぶすのか、それとも、民意を反映する政治システムを構築できるのか、

その手腕が試されることになるでしょう。最後に、今後の日中関係がどうなるのかについて

考えてみたいと思います。先ほども申し上げたとおり、中国は、軍備の増強で、自国の主権

や領土を守るという強硬な一面を覗かせました。ただ、それと同時に、外交面では、平和を

尊重する立場
も示しています。日本との尖閣諸島をめぐる問題でも、対話の道が閉ざされ

たわけではありません。そこで一番注目されるのが、新政権で誰が、次の外相になるかとい

うことでしょう。
 


現在、外相を務める楊潔チ氏は、新政権では、さらに昇格して副首相クラスの外交担当国

務委員になると予想されています。その後の外相には、一時、外務次官の張志軍氏の名も

あがりましたが、最近は、かつて駐日大使を務めた王毅氏が有力視されています。日本語

が達者で、日本に対する理解も深い王毅氏が外相をつとめることになれば、日中関係の改

善につながる可能性もありうるでしょう。

いずれにしても、中国の新政権には、「軍事闘争の準備」などと、きな臭いことを言うのは

やめにして、世界屈指の大国にふさわしい、礼節をわきまえた、いわゆる「王道」の道を歩

んでほしいと思います。

 
(加藤青延 解説委員)
  http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/148470.html

 

まあいくら逆立ちしても、中国が「世界屈指の大国にふさわしい、礼節を弁えた、いわゆる

王道の道
」なんぞを歩む筈が無い。平和を尊重する立場、を示していると言っているが、こ

れなんぞは全くの空約束のゼスチャーなのです。
信用するわけにはいけません。
(続く)