日清戦争開始120年に考える。(14)

第3:周立件を見せしめに
他の大物トラは叩かない


 周を「倒した」後に、他の噂されている大トラ(温家宝などは外国メディアにときどきその

家族の腐敗ぶりを報道されていた)や年老いた大トラ(とくに電力関連の李鵬一族について

はいろいろな噂がされている)を次々と捕えるのか。これは、中国社会の関心事であり、ま

た待ち望むことでもある。この可能性は、現指導部の第一任期期間中(2012年~17年に)

には、小さいと言えるだろう。2期目に至ったら大トラを捕えるかどうかは、今後の情勢発展

次第である。


 実は、周立件の目的は「刑罰は常務委員に及ばない」という不文律を壊すだけではなく、

数件の指標的意味のある案件の処理で権威を作り、幹部たちを抑圧し、腐敗に手を出せ

ない
ようにすることにある。言い換えれば、強力な腐敗摘発によって、習総書記腐敗しな

い官僚チーム
を構築していくことを狙っている。


 当面の腐敗情勢から見れば、党幹部で腐敗とまったく関わっていない者は恐らくごく少

数で、他人に揚げ足を取られる者がたくさんいるだろう。そういう状況の下で「恐怖のバラ

ンス
」が生じ、過去の腐敗摘発が深くまで進められなかった原因となっている。今回発表さ

れた周立件も、各方面の大物がお互いに取引し妥協した結果であるはずだ。


 しかし、こうした取引と妥協は必ずしも悪いことではない。周立件を取り上げて言えば、習

政権への反対者たちにとっては、トップクラスの意志に従わざるをえないこと、習総書記

権威を事実上に認めたことを意味しており、今後は二度と政権に対する牽制となる可能性

がなくなることを意味している。


 しかし、もし勝利後にすぐ敵を追い、周立件後に引き続き他の大物トラを攻撃すれば、み

んなが戦々恐々とする状況に陥って、習総書記と他の勢力との間でバランスと妥協がとれ

なくなり、かえて習総書記の地位を脅かすことになる。次々と大物トラをたたけば、自然と社

会の新しい期待への刺激となる一方、一旦、失敗したら、習総書記のイメージと中国共産

党の政権正統性が傷つくかもしれない。


第4:トラ退治は一段落
課題は腐敗摘発の制度構築


 薄熙來案件と比較すれば、今回は間違いなく周を司法処理(裁判)に移すだろう。裁判を

せず、党内の規律に基づいて党籍を剥奪するだけでも処罰になるが、もし周案件が党内処

理だけで済むのであれば、それを対外的に発表する意味もなくなる。


 今回、周立件の発表と同時に十八期四中総会の日程とテーマも発表されており、それは

周を司法処理に移すことを示唆している。中国共産党の言葉で言うと、いかに職位が高く

功労が大きいとしても、党の紀律と法律に違反すれば、法律に基づいて、厳しく処理すると

いうことだ。もし周が最後に「ソフトランディング」すれば、いわゆる法治は説得力のないもの

になるからで、常識的に見れば、周は司法処理に移されるに違いない。


 問題は、四中総会で検討しようとする「法律に基づく治国」は、腐敗摘発にとって、どんな

意味を持っており、今現在の腐敗摘発態勢をどう変えることになるのか、にある。現段階で

の腐敗摘発は二つの特徴がある。一つは、基本的に周をめぐって行われたことで、「倒れた」

大物幹部の大半が周と絡み合っている。二つは、問題を起こした高級官僚を厳しく処罰し

たが、他の官僚が同じ問題を起こすことについては再発防止をあまり考えていないことだ。

組織としていかに腐敗から断ち切るか。すでに党の内規だけでは取り締まることはできなく

なっている。


 周が「倒れた」ことによって、一つ目の特徴は一段落ついた。二つ目の特徴をめぐって

は、中国社会でのいろいろな論争が存在している。このやり方に反対の論者は、政治運動

式の腐敗摘発は法治を潰す恐れがあり、あまりに権力闘争を念頭に置くのには懸念がある

とする。客観的に言えば、中国共産党の腐敗問題の深刻さから見れば、高圧的な腐敗摘

発態勢が必要だが、周立件が明らかになり、多くの官僚が倒れた後、腐敗摘発を段階的に

切り替える時期に入り、今までの運動式の腐敗摘発から制度構築に顔を向けて、根本的

に問題を解決できる、いわゆる「根治」制度と措置をまとめなければならない。


中国国内では少なくとも
市民は習総書記を支持


 日本など西側の世論を読むと、習近平総書記の腐敗一掃はいかにもやりすぎで、徐々

に難しい局面に入り込んでいると強調しているが、中国国内では少なくとも市民は習総書

記を支持している。腐敗一掃を通じて目に見えるのは、習近平総書記への権力の集中で

あり、その政治基盤がより強化されると中国では思われている。


旧ソ連などの改革を見ると、守旧派の反発は極めて激しい。ただし、市民は改革側にい

ることも明らかである。中国でももし共産党内部の守旧派が何か行動を取ったら、恐らく市

民は天安門広場に集まり、習近平支持の態度を明らかにして、より激しく腐敗一掃を求め

るだろう。


 今回の腐敗一掃は、習近平総書記の権限を強め、民衆を支持も得ている。戦々恐々とし

ているのは、腐敗横行の時に甘い汁を吸った高級官僚だけであろう。

http://diamond.jp/articles/-/57209

 

周永康の立件・処罰は、石油閥の腐敗を裁く事であり、習近平が「反腐敗運動」を開始した

事には違いないが、それは「派閥間の権力闘争」が「
腐敗撲滅」と言う形式を取ったものに

過ぎない、と言っている。されば習近平の狙いは何か。それは当然自身の権威を確固たる

ものにすること、に違いない。


北京在中のジャーナリストの陳言氏の上記の論文を、小生なりに偏見と独断を駆使して簡

単にまとめておこう。どのように言っているのか、おさらいをしてみよう。


習近平狙いの第一は、習近平自身の政治的権威を確定させるためである。習近平は、

既得利益を潰し、腐敗摘発を促進して自分に権力を集中させなければ、「二つの百年目

」などの達成は出来ないとして、自身の政治的権威を高めさせる必要があった。


そのために大物権力者の周永康の処罰を急いだものと思われる。政治局常務委員であっ

周永康を、25年間の不文律を破ってでも立件した理由がここにあるのである。


本気で言っているのかどうかは判らないが、「二つの百年目標」とは次のものである。


(1)1921年共産党創立から100年2021年には、「小康社会の全面達」(GDPを

2010年から20年までに2倍に)を実現させる。そうすれば少しはマシな生活がおくれる事

になろう。少しマシな生活でよければ、中国共産党が軍事費に回している金を幾ばくかでも

人民の為に回せば、すぐにでも「小康社会」なんぞは実現できると思うのだが、当分は人民

共産党の犠牲にならざるを得ないようだね、中国では。


(2)1949年中国建国から100年2049年には、「新中国100年には、わが国を富強、

民主、文明、調和の取れた社会主義の現代化国家
に」すると言うもので、これは

2013.10.24~25の「周辺外交工作座談会」で、中国の部長級以上の幹部を前にして、習近

平が打った大演説である。


まあ言ってみれば、これが「中国の夢(中華民族の偉大な復興)」の一側面であろう。一側

面であると言ったのは、中国の真の夢は「世界征服」(アメリカを凌駕する)にあるからである。


(この解説は、以下の論考を参考にしている。

http://yuukouhachikara.dondon.cc/images/04%20koenkai%20kodera%20bun.pdf
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/china_research_conference/2013/chu25_11.pdf
(続く)