次世代エコカー・本命は?(40)

報告書のWell-to-Wheel評価の「標準ケース」の結果の整理(p.90)にも次のように記述されており、上記と同様の結論になっている。

① 水電解を除くすべてのFCVパスで,ICEVより必要エネルギー,CO2排出量とも改善される。
② FCV
HEVを比較すると,必要エネルギーはHEVの方が少ないが,CO2排出量についてはFCVの方が少ない場合もある。
オフサイト大規模NG 改質CHG 輸送のFCVHEVよりCO2排出量が少なくなっている。
オンサイト都市ガス改質およびオンサイトLPG改質のFCVは,ガソリンHEVに比べてCO2排出量が下回る。
⑤ CHG
輸送とLH輸送のFCVを比較すると,必要エネルギー,CO2排出量の両方でLH輸送の方が大きい。
必要エネルギー,CO2排出量とも最も少ないのはBEVおよびPHEVEVである。

以上、水素燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車(ハイブリッド自動車プラグインハイブリッド車電気自動車)および従来型エンジン自動車と比較した標準ケースの結果を総合して、

エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、水素燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る

と言えよう。

なお、このJHFCの検討では上記日本の平均電源構成(J-MIX)を用いた「標準ケース」のほか、電力では一次エネルギーを一つに固定するケース(no-MIX)について、また水素製造では副生水素、バイオマス起源水素、再生可能エネルギー電力による電解水素(国内のほか海外のパタゴニア風力発電、オーストラリアの太陽光・太陽熱発電の電解水素を船で輸送するケースを含む)についても評価している。

また、発電プラントや水素製造プラント(オフサイト大規模改質装置のほかオンサイトの都市ガス改質装置)でCO2を回収し貯留サイトまで輸送して貯留するCCSCO2回収・貯留)のケースも評価している。これらの検討対象のエネルギーパスは80パスあり、主要なケースの各自動車のエネルギー消費率とCO2排出量についてはデータのほか比較図が示されている。

一次エネルギーを天然ガスのみに固定した場合

ここで一次エネルギーを天然ガスのみに固定した場合についてJHFC報告書の評価結果をもとに考察してみる。

天然ガスシェールガス採掘技術の確立により一気に供給量が増え、石炭・石油よりエネルギー量当りのCO2排出量が少ないこともあり、天然ガスの輸送燃料としての需要は今後増大していくと見られている。(OECD/IEAMedium-Term Gas Market Report
http://www.iea.org/newsroomandevents/pressreleases/2013/june/name,39014,en.html


天然ガスの水蒸気改質法は、従来から大量の水素を安価に製造する工業的に主流の水素製造方式である。JHFC評価においてはFCVへの水素供給16方式の内6方式が天然ガスベースであるが、これら各種方式の中で水蒸気改質の水素製造法が最も効率が良いので、オンサイトおよびオフサイトの改質水素方式について評価する。

一方、エンジン自動車に天然ガス燃料を使用する圧縮天然ガスエンジン自動車(CNGVの開発・導入が加速しつつあり、これが今後ハイブリッド自動車、さらにプラグインハイブリッド車と電動化していくのは当然の方向と考えられる。そこでガソリン燃料の場合と同様に天然ガス燃料の場合も、エンジン自動車・ハイブリッド自動車プラグインはブリッド車について評価する。

一次エネルギーを天然ガスのみに固定して次世代自動車のエネルギー・環境性能を比較する際には、電気自動車プラグインハイブリッド車燃料電池車(水電解水素供給)への電力の供給は天然ガス火力発電を想定することになる。

一次エネルギーを天然ガスに固定した場合のJHFCのエネルギー投入量・CO2排出量の評価結果は報告書p.101の図5-12に示されている。この図に示されているデータをもとに、下記の7車種(エンジン自動車と次世代自動車6車種)について1km走行当りの一次エネルギー投入量とCO2排出量を比較してみる。

 ① 都市ガス圧縮充填の圧縮天然ガス燃料エンジンCNGV「エンジン自動車」
 ② 都市ガス圧縮充填の圧縮天然ガス燃料エンジンCNGVの「ハイブリッド自動車*
 ③ 都市ガス圧縮充填の圧縮天然ガス燃料エンジンCNGVの「プラグインハイブリッド車*
 ④ 天然ガス火力発電の電力による電池充電のBEV「(電池)電気自動車
 ⑤ 水素ステーションで都市ガスを改質する天然ガスオンサイト改質水素使用のFCV燃料電池車(オンサイト改質)」
 ⑥ 集中型プラントで天然ガスを改質し水素ステーションに輸送する天然ガスオフサイト改質水素使用のFCV燃料電池車(オフサイト改質)」
 ⑦ 天然ガス火力発電の電力による水素ステーションにおける水電解天然ガス電力-電解水素使用のFCV燃料電池車(水電解)」

上で*印の車種についてはJHFC報告書では評価されていないが、筆者がJHFC評価のガソリンエンジン車のICEV-HEV-PHEVの関係からエネルギー消費量・CO2排出量ともにHEV/ICEV=0.65として推算した。なお、天然ガス燃料のPHEVの電力走行距離割合(ユーティリティファクター)はガソリン燃料の場合と同じUF0.5を想定した。

一次エネルギーを天然ガスに固定した場合のこれら7車種のエネルギー投入量とCO2排出量の比較を標準ケースと同じグラフ形式で表示すると下の2図になる。

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上の2図から、一次エネルギー源を天然ガスに固定した場合の水素燃料電池車と他の次世代自動車および従来型エンジン自動車のエネルギー消費量とCO2排出量の比較結果は次のようにまとめられる。

エネルギー消費量(1km走行当たりの一次エネルギー投入量)

1.オンサイトおよびオフサイト改質水素を使用する燃料電池車の一次エネルギー投入量はハイブリッド車と同程度で、プラグインハイブリッド車電気自動車より大きい。
2.電解水を使用する燃料電池車の一次エネルギー投入量は、エンジン自動車と同程度でハイブリッド車プラグインハイブリッド車電気自動車よりはるかに大きい。

CO2排出量(1km走行当たりのCO2排出量)

1.オンサイトおよびオフサイト改質水素を使用する燃料電池車のCO2排出量はハイブリッド車と同程度で、プラグインハイブリッド車電気自動車より大きい
2.電解水を使用する燃料電池車のCO2排出量は、エンジン自動車と同程度でハイブリッド車プラグインハイブリッド車電気自動車よりはるかに大きい

以上、一次エネルギー源を天然ガスに固定した場合の水素燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車および従来型エンジン自動車と比較した結果を総合すると、

エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、オンサイトおよびオフサイト改質水素を使用する燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る

という標準ケースと同様の結論になる。

(続く)