次世代エコカー・本命は?(85)

FCVは究極の環境自動車か

 FCVについても可能性と疑問が同居する。燃料電池は確かに見かけ上はゼロエミッション車といえるが、ライフサイクル全体を見渡せば搭載する水素燃料の大半は天然ガスからの改質で生産され、その際に二酸化炭素を排出している。この議論をすると、EVに供給される電力化石燃料発電で二酸化炭素を排出するので同じことになる。

 将来的には、二酸化炭素フリーで水素を生成するプロセスの構築、そして水素燃料価格の低減が求められる。もちろん、車本体の価格は重要な要素である。筆者がホンダを去った2004年の段階では、FCV1台あたり1億円以上していた。10年を経て2015に自動車大手から発売されるFCVについて、具体的な販売価格は明らかにされていないものの、おおよそ500万~1000万円の範囲かと考える。

 経済産業省2000年頃に、FCVの活発なプロモーションと開発支援をしていた。その後、FCVが時期尚早であることから過熱気味の雰囲気が途絶えた経緯がある。

 量産体制になれば大幅なコスト低減が図れるという目論見はあるが、必ずしもそうならない部分もある。酸素と水素の反応を促進する白金触媒がそうだ。かつて100kW燃料電池を搭載すると1台当たり100gの白金が必要だった。その後の研究開発で白金の使用量は大幅に減少できたと各社は発信しているが、具体的な数値は明らかにされていない。

 仮に50%削減できて50gになったと仮定しても、白金の実勢価格からすると1台当たり20万円に相当する。FCVの量産が拡大すれば白金価格はコストダウンどころか高騰する可能性すらある。ならば白金に依存しない新規触媒に期待かかるが、多くの研究がなされているものの見通しは得られていない。

 同じことはガソリン車の排ガス制御触媒でも言える。筆者がホンダに入社した1978年、三元系触媒である白金-ロジウム-パラジウムの開発が始められていた。排ガス規制に対応できたものの、触媒にはこれらの元素が必須であり続けるため、ロジウムの価格が高騰した時期は大変な騒ぎになった。燃料電池における白金の触媒効能は高く、代替触媒の実現には大きな関門がある。

 燃料電池については、「固体高分子」による電解質も必須部材であるが、これは化学メーカーが既に量産しているため、FCVの量産効果によるコストダウンは期待できない。これらを加味したうえで、量産効果でどこまでFCVのコストが下がるかを定量的に分析する必要があるだろう。

 EV同様、FCV分野でも日本の開発力は世界の先頭を走っている。部材メーカーの技術力を基盤に、日本の自動車大手が開発投資を実施してきた背景と、EVHEV開発の実績で電動化技術を確立してきた実績がある。FCVの特許でも日本は大きな存在感を示している。

 韓国では現代自動車FCVの開発を行ってはいるものの、日本勢に比べたら存在感は小さい。これも開発着手が遅かったことと、韓国の部材メーカーの弱体体質があるためだ。

トップを走る日本、逃げ切れるか

 とはいえ、2025ZEV規制で、自動車大手はPHEVEVFCV3カテゴリーの販売比率を15.4%に高める(2018年規制では22%となっている筈だか?2014.12.2NO.6参照の事)必要がある。日本の自動車大手幹部は、「究極の環境自動車を決めつけられないから全方位での開発が必要」と述べていることは極めて妥当な戦略だ。

 しかし開発資源を考えると、大手だから実施できるわけで中堅規模の自動車メーカーではすべての技術を開発できない。車両の電動化が進めば、自動車業界の技術提携やライセンス供与などのビジネスモデルが、一層増えてくるだろう。

 さらに日韓欧米の市場に加えて、今後は中国市場を見過ごすことはできない。中国での自動車市場で力強さを発揮しているのはVWGMであり、日本勢では日産が奮闘しているものの差は依然として大きい。GMはいち早く先端技術研究所を開設して機能拡充を図っている。

 トヨタホンダもこれまでは中国市場での存在感が乏しかった。しかし、今後は両社とも電動車両の技術開発中国で展開し、車両の現地生産を計画している。そのための研究開発機能も拡大しつつある。電動化の市場拡大を考えれば今後の日本勢の巻き返しも可能となる。

 その際に課題となるのは各業界の協業スタイルである。中国では地元企業との合弁会社設立が前提となり、資本比率も外国企業が49%以下という制限が加わる。中国市場のマーケティング、政府機関とのネットワークや人脈創り、部材のサプライチェーン構築、中国独自のリチウムイオン電池に関する安全性評価基準策定など、さまざまな制限がある中で、どのようなビジネスモデルと事業戦略が最適かを考えることが特に重要になってくる。

 電動車両普及の最大のカギ電池である。世界を見渡しても、車載用電池ビジネスを本格的に推進できるのは日本と韓国だけだ。現状、日韓に技術の差はあり、そして欧米中の電池企業の力は乏しい。しかし、電池の安全性に関する国際標準などではドイツやフランスなどの欧州勢が活発に活動している。

 果たして、日本が逃げ切れるか。各分野での今後の陣取り合戦の行方が注目される。

技術経営――日本の強み・韓国の強み

 エレクトロニクス業界でのサムスンLG、自動車業界での現代自動車など、グローバル市場において日本企業以上に影響力のある韓国企業が多く登場している。もともと独自技術が弱いと言われてきた韓国企業だが、今やハイテク製品の一部の技術開発をリードしている。では、日本の製造業は、このまま韓国の後塵を拝してしまうのか。日本の技術に優位性があるといっても、海外に積極的に目を向けスピード感と決断力に長けた経営体質を構築した韓国企業の長所を真摯に学ばないと、多くの分野で太刀打ちできないといったことも現実として起こりうる。本コラムでは、ホンダとサムスンSDIという日韓の大手メーカーに在籍し、それぞれの開発をリードした経験を持つ筆者が、両国の技術開発の強みを分析し、日本の技術陣に求められる姿勢を明らかにする。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140310/260875/?n_cid=nbpnbo_eco

 

この記事は丁度一年前のものなので現在の状況は進んでいるのであろうが、この論考で言及されているポスト・リチウムイオン電池と目される「リチウム空気電池」と呼ばれる新型電池とは、どんな電池なのであろうか。

 

まあこの論考でも言及されているが、走行距離が短く、充電時間が長く、しかも価格が高すぎて、更にはバッテリーの経年劣化問題もある。リチウムイオン2次電池と言えども、これらの問題が解消しなければEVの爆発的な拡大は望めないだろう。それでも、いわゆるそこそこの普及に留まらざるを得ないのではないのかな。

 

まあ各社必死で研究開発を進めているので、その内に何らかのブレークスルーが起こってくるのではないのかな。太陽光などの自然エネルギーで電気を起こし水を電気分解して水素をつくり、燃料電池車にその水素を供給する過程でも、何らかのブレークスルーが起こってくるものと思っているが、この2次電池の開発水素の製造でのブレークスルーは、お互いに競合して新しい技術開発が沸き起こってくるものと確信している。この水素は、資源のない日本で唯一国産化できると思われるエネルギーとなる可能性があるので、将来が楽しみである。


それでは空気電池に関する論考を次に載せよう。

(続く)