Qualcomm社は、買収によって獲得した技術をベースに電動車両向けのワイヤレス給電システム「Qualcomm Halo」の開発を進めている。最近では、MERCEDES AMG PETRONASのF1チームとの共同研究も始めた(関連記事3)。
図2 Qualcomm社の3.3k~20kWの出力範囲で対応可能なワイヤレス給電システム
Qualcomm社のワイヤレス給電システムの特徴の1つは、複数の出力に対応できる点である。受電コイルが3.3kW品と6.6kW品、20kW品があり、送電コイルは20kWまでのすべての出力に対応する(図2)。自宅で夜間に8時間掛けてゆっくり充電するだけなら3.3kWあればよい。外出先で急速充電したい場合は20kWに対応するワイヤレス給電システムを選択するといった具合だ。
技術課題として長らく指摘されてきた送電コイルと受電コイルの位置ずれの問題は、自動駐車技術との組み合わせで解決できる。本連載の前編で紹介したホンダだけでなく、デンソーも自動駐車とワイヤレス給電機能を組み合わせたシステムを開発した。2013年10月に開催された「第20回 ITS世界会議 東京2013」でデモンストレーションを披露した。
デンソーは、自動駐車と自動充電が可能なシステムを「スマートチャージング」と名付けて提案した(関連記事4)。管制センターの指示によって、駐車場においてある車両を自動走行させ、車両を指定時刻に指定場所へ自動で移動させるデモンストレーションだった(図3)。
自動走行には、前後左右を見る4個のカメラと、前方の物体を検知するレーザ・レーダ、位置精度を向上させる準天頂衛星による測位、内蔵の地図データを用いた。
図3 デンソーの自動駐車と自動充電が可能なシステム「スマートチャージング」のデモ
自動駐車に関しては、ドイツRobert Bosch社も実用化を後押しする。Bosch社が開発したシステムでは、駐車場内に入ったら運転者は車両から降り、スマートフォンなどで「自動駐車開始」の指示を送る。まずは安全を考慮して運転者が立ち会った状態で使えるようにする。周囲の状況把握には、欧州で広く使われている超音波センサ(ソナー)を中心に用いる。
位置ずれ対策としては、送電/受電コイルの構造を工夫することも有効だ。ワイヤレス給電用のコイルの形状は、円型と角型の2種類に大別できる。歴史の長い円型品は、コスト面などで優位性がある。一方の角形品は、水平方向の位置ずれに対する許容量が大きい優位性があるという。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20150309/408249/?ref=RL3&n_cid=nbptec_tec00001
前編では送受信に使う電波の周波数帯の規格の話や、送受信コイルの位置決めをどのようにするのかの各自動車会社の工夫を述べている。
そして中篇では自動車メーカーだけでなくIT企業や自動車部品メーカーもこのワイヤレス給電事業に参入して、自動駐車機能でワイヤレス給電を実施しようとする試みを紹介している。
そして次の後編では、走行中給電に言及している。しかし実用化は相当先のようだ。
動き出した自動車向けのワイヤレス給電(後編)
まだ主導権が握れる走行中給電
久米 秀尚
2015/03/13 03:20
無線で電力を伝送するワイヤレス給電技術。既にスマートフォンなどの携帯機器では製品化済みだが、自動車でもいよいよ実用化のフェーズに突入する(関連するセミナー)。国際標準規格化の議論が大詰めを迎えており、2015年5~6月にも方向性が固まるためだ。
これにより、自動車が止まった状態でのワイヤレス給電技術を用いた充電(定点充電)機能を市販車に搭載する環境が整う。本稿では、自動車向けのワイヤレス給電技術を巡るここ数年の動きを振り返ることにする。
自動車メーカーの動向を中心にまとめた前編は、こちら。エレクトロニクス業界を巻き込んだ開発競争を整理した中編は、こちら。
図1 Volkswagen社のEV「e-up!」は、フロントフードの下のエンジンルームに普通充電口を配置した。充電ケーブルを差し込むには、まず後部の荷室内から充電ケーブルを出して、フロントフードを開ける必要があり、やや使い勝手が悪い。
間もなく実用化が始まる、自動車が止まった状態でのワイヤレス給電技術を用いた充電(定点充電)。第1弾の製品に向けた技術開発の目途は立っている可能性は高いが、これで開発が終わるわけではない。
電動車両およびそのワイヤレス給電システムが普及期に突入する際には、更なる電力伝送効率の向上やコストの低減が欠かせないからだ(図1)。
経済産業省の担当者は、「電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を普及させる上で、充電インフラの拡充は欠かせない。その点で、ワイヤレス給電への期待も大きい」と語る。
自動車向けのワイヤレス給電に関してはもう1つ、将来大きな成長が期待される市場がある。それが、走行中車両への充電(走行中充電)システムだ。走行中の電力供給を可能にすることで、電動車両に搭載する2次電池の容量を抑えて車両コストを低減しながら、航続距離も延ばすという発想である。
「100年後のクルマは『エンジン』『電池』『急速充電』ではなく、『モーター』『キャパシター』『ワイヤレス』で走るだろう。走行中のワイヤレス給電システムには新しい技術が必要」――。走行中のワイヤレス給電システムに向けた新たな技術開発の重要性を説くのが、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授で、自動車技術会では技術担当理事を務める堀洋一氏だ。
実用化はまだ先で、「2020年の東京オリンピックで技術をアピールし、2030年ごろの普及を目指す」といったシナリオを書く研究者が多い。つまり、開発した技術次第で市場で優位に立てる可能性が大いにあるわけだ。
だが、うかうかしていられるほどの余裕はない。自動車技術会 ワイヤレス給電システム技術部門委員会 幹事の横井行雄氏は「日本は出遅れている。指をくわえて見ているのはもったいない」と警鐘を鳴らす(関連記事)。
日本勢にとって脅威となるのが、韓国の政府系研究機関であるKAIST(Korea Advanced
Institute of Science and Technology、韓国科学技術院)だ。横井氏によれば、KAISTは「1MW級の走行中充電技術を今後5年以内に確立しようと精力的に開発を進めている」という。
図2 KAISTが2009年2月に発表した第1世代のOLEVであるゴルフカート
(続く)