続・戦後70年談話はヒストリーで!(7)

さてこれに対して、朝鮮・韓国の朴槿恵の反応や如何?


 

朴槿恵大統領はなぜ、日本に反撃しないのか「安倍談話は韓国を陥れる嵌め手だ」

2015821日(金)鈴置 高史

(前回から読む)

 「安倍談話」は韓国完全に無視した。ではなぜ、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領は怒らなかったのか。

韓国の要求をうっちゃる

安倍談話は、韓国徹底的に無視したものだった、という話で前回の「『韓国外し』に乗り出した安倍政権」は終わりました。

鈴置:韓国は日本に対し、3つのキーワードを提示して「これらを必ず談話に入れて謝れ」と要求しました。しかし日本は、それらを全部盛り込みながらも、事実上、韓国謝罪の対象から外したのです。

 ただ、韓国以外の国に関しては過去を率直に語り、反省すべきところは反省し、謝罪すべきことは謝罪しました。

 安倍政権はこの談話を、世界の国々と手を携えて生きていく決意を改めて表明する機会に使いました。西欧に対しては「植民地経営の先輩!」とチクリとやっていますが。

夕刊紙なら「ガン無視」

韓国紙は「無視」をどう書いたのですか?

鈴置:興味深いことに、初めはあまり気に留めなかったようです。談話の翌日の815日付朝刊で、韓国各紙は一斉に「謝罪には心がこもっていなかった」式の批判を繰り広げました。

 「韓国への謝罪にはさほど重きをおいていない」と書いた新聞もありましたが、批判としては二の次でした。

 一方、同日付の日本の新聞のいくつかは「無視」とまで露骨には書かなかったものの「韓国は軽視」といったトーンで書いた。例えば日経の解説記事の1本の見出しは「中国へ配慮 韓国には冷淡」です。

 日経は上品な新聞なので(笑い)「冷淡」程度で留めました。夕刊紙なら「安倍、朴クネをガン無視」といった見出しをつけたところでしょう。

 こうした日本での報道を見たこともあったのでしょう、韓国メディアは微妙に軌道修正しました。朝鮮日報の社説(韓国語版)では、談話への評価は以下のように変わりました。

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『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』

安倍首相の米議会演説阻止、日本の世界遺産登録は挙国反対……韓国の執拗な「終わりなき反日」が続く。これまで無関心だった日本人もさすがに首をひねる異様ぶりが際立つ。
事あるごとに日本叩きの共闘を迫られる米国も、もはや「韓国疲れ」。「対中包囲網」切り崩しを狙う中国も、日本の懐柔に動き、韓国は後回し。国内外で「独り相撲」を繰り広げ、韓国は土俵を転げ落ちた。
「二股外交」破綻の先の「中立化」そして「核武装」を見据える韓国が招く北東アジアの流動化。新たな勢力図と日本の取るべき進路を、見通す。

『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』に続く待望のシリーズ第6弾。817日発行。

韓国人も気づいた「韓国外し」

  • 815日付「巧妙な言葉で『植民地支配謝罪』を避けた安倍談話」=他人の口を借りて反省・謝罪している印象を与える。心から反省して謝罪したと受け入れることは到底できない内容だ。

  • 818日付「腰定まらぬ対日外交 外交チームへの問責も説明もない」=内容のない巧妙な言葉遊びにすぎないものだった。安倍政権が韓国に対して今後も配慮する考えのないことが、この談話を通じて改めて明らかになった。

 815日付では「心からではない」としながらも「安倍は反省した」との認識です。それが3日後の818には「単なる言葉遊び。韓国には配慮しない安倍」へと変化しました。

 同日、世宗研究所のイ・ミョンウ首席研究委員も「日本の韓国外しが始まった」と指摘する「安倍談話への評価と今後の韓日関係」(韓国語)というレポートを発表しました。

黙って距離をとる日本人

韓国紙が当初「無視」に気がつかなかったのはなぜでしょう。

鈴置:談話には韓国が要求していた3つのキーワードが一応入った。「安倍はどうせ入れないだろう」と考えていたところに入ったものだからほっとして分析が甘くなり、少しは韓国の意向をくんで談話が書かれたと思い込んだようだ――とある日本の外交専門家は見ています。

 もう1つの理由は「要求すれば必ず謝るはずの日本が、韓国を無視する」とは想像もしていなかったからでしょう。

 韓国人は、不満があれば大声でぶつける。しかし日本人は、嫌な相手は黙って避ける。こんな日本人の対韓嫌悪の深さを理解していなかったこともあると思います。

 そして新聞を作る立場から言えば「心のこもらない謝罪」という批判なら“倫理的に劣る日本”を上から目線で叱りつけるわけですから、読者に快感を与えられる。それが「日本から無視された」では読んだ韓国人は相当に不快になる。「無視」とは書きにくいのでしょう。

日本は再び米国を攻撃する

そもそもの質問です。外国と摩擦を起こしかねない「戦後70年談話」をわざわざ発表すべきではない、との意見も多かった。

鈴置:中国と韓国が世界中で「日本は再び軍国主義に戻り始めた」と宣伝しています。日米を離間させ、中国包囲網を作らせないようにするのが狙いです。

 日本にいるとこの動きを見落としがちですが、普通の日本人が考える以上に、こうした見方が世界に広まっています。中韓が驚くべき執拗さで宣伝しているからです。

 例えば、中央日報の李夏慶(イ・ハギョン)論説主幹は201395日の同紙・英語版に「Korea knows Japan's intensions」を書きました。ポイントは以下です。

  • 安倍晋三首相とその右翼政権は、自制してきた集団的自衛権を解禁しようとしている。彼らは平和主義的な戦後憲法を再解釈し、完全な軍備を整えたいのだ。

  • 我々はワシントンに問わねばならない。帝国海軍による真珠湾奇襲の歴史は忘れ去られたのか、と。

  • 当時、独立運動家で、後に韓国の初代大統領となる李承晩(イ・スンマン)は米国に対し、日本が戦争を始めると警告していた。だが、それは無視されてしまった。

  • 日本が平和的な姿勢をかなぐり捨て、再軍備しようとしているとの韓国と中国の警告に、米国は注意を払わねばならない。オバマBarack H. Obama )は、72年前のフランクリン・ルーズベルトFranklin D. Roosevelt)の失敗を繰り返してはならない。

なりふり構わず日米間にくさび

「告げ口」は大統領だけではないのですね。新聞がこれほど露骨な日米離間記事を載せるとは。驚きました。

鈴置:安倍の好きなようにやらせておくと、いずれ米国は日本に後ろから殴られるぞ――という荒唐無稽な主張です。すべての人が信じるわけではありませんが、こうした話は俗耳に入りやすい。

 フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッドEmmanuel Todd)が「力を付けたドイツが再び帝国を作ろうとしている」と訴えています。そして彼の著書『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』が日本でもベストセラーになったではありませんか。

 韓国も必死なのです。「日―米―韓」の3国軍事同盟に組み込まれたら、中国からどんなイジメに遭うか分からない。そこで、なりふり構わず日米関係を破壊しようと画策するのです。

 こうした宣伝に対抗するためにも平和国家日本」を訴える談話が必要だと安倍政権は判断したのでしょう。

(続く)