続・戦後70年談話はヒストリーで!(18)

オバマ大統領が4月の安倍首相との会見で強調したこと

日中関係が厳しいだけに、(2014)424の東京におけるバラク・オバマ大統領と安倍首相による共同記者会見は強い関心を集めました。

マコーマック氏オバマ大統領は会見で尖閣諸島について触れた時、「安倍首相には会談で、この問題をこれ以上悪化させるのではなく、相手を刺激する発言好戦的な行動は控え、平和裏に解決することの重要性を強調した…(中略)。この問題について日中間で信頼関係の構築、対話をせずに、事態を放置するような対応を取ることは深刻な間違いになると伝えた」と発言していました。

 日本メディアはこの発言部分をあまり報道しなかったようですが、私にはオバマ大統領が安倍首相に「とにかく座ってきちんと中国と交渉をしろ」と命令しているように聞こえました。会見全体もオバマ大統領の安倍首相への不満によるものなのか、何かぎくしゃくするものを感じさせました。米国にすれば、中国との不必要な対立は米国の国益を損なうことにつながるとの危機感もあるのでしょう。

 その後の韓国訪問においてもオバマ大統領は従軍慰安婦について「この問題は解決されていない。あらためて取り組む必要がある」という趣旨の発言をしましたが、あれもまさに安倍政権に向けて「きちんと座って韓国とも交渉せよ」という発言でした。米国としては、歴史修正的な見解は認めないという強いメッセージでしょう。

オバマ大統領の会見における発言で日本で最も注目を集めたのは、(★0)尖閣諸島日米安全保障条約の適用対象だ」と明言した部分でした。クリントン国務長官2012年にそう発言しましたが、やはり米国の軍最高司令官であるオバマ大統領が明言した意味は大きい、というのが日本の受け止め方です。尖閣諸島を巡る中国との緊張が続く中、安堵感を覚えた日本人も少なくなかったと思います。

安全保障条約5条の対象とはどういうことか

マコーマック氏:しかし、日本人はこの発言をどう理解したのでしょうか。日米安全保障条約5条が定めているのは、米国は米国の憲法の定めるプロセスに沿って大統領が議会に対して、こう聞くことを定めているだけです。(★7)東シナ海で、誰も住んでいない島々を巡って問題が発生しており、日本は米国にこの件で中国と戦争してほしいと言っている。議会としてはどう考えるか」――と。想像してみてほしい。それで米国が軍を派遣して、中国と戦争するという結論を出すでしょうか。あり得ないでしょう。

 

 私がむしろ強く思うのは、日本は戦後、ずっと続いてきた米国との関係の在り方についてもっとよく考えるべきだ、ということです。

日本米国の属国」とかねて指摘されている点ですね。

マコーマック氏:そうです。米国は「日本は強く言えば思い通りに動く」と考えている。この点にもっと思いを馳せるべきです。

 例えば昨年(2013)2に安倍首相が訪米した時のことを思い出してください。オバマ大統領との晩餐会もなく、安倍首相に出されたのはランチだけ。通常なら首脳会談後には行われる共同記者会見さえもありませんでした。共同声明こそ出ましたが、それは安倍首相が当時、期待していた日本の尖閣諸島の領有権については何も触れておらず、米国政府の強い関心事であるTPPに関するものだけでした。

 米国は90年代にも、日米構造協議と称して徹底して改革の要望リストを日本に突きつけました。リストには予算から税制の改革、株式の持ち合いの見直し、果ては週休2日制の実現といった経済面のみならず、社会面に至るまで200項目以上もの要求が並んでいたといいます。当時、駐米日本大使を務めていた村田良平氏は、著書で「あれは第2の(米国による)占領に等しい」と表現していますが、今回のTPP含め、米国は軍事面から経済、社会面に至るまで常に徹底して日本に要求を重ね、従属させてきたのではないでしょうか。

 ちなみに冒頭のCSISのペーパーですが、米政府及び米政府の意向を受けたシンクタンクが、日本に対する要望をレポートにまとめたのは、1995年、2000年、2007年を含めこの20年間で4回にも及びます。他国に対して、安全保障政策から経済、社会政策に至るまで徹底して「こうすべきだ」と要求するレポートを出すというのは通常では考えられないことです。

「『失望した』という表現は通常、他国に対しては使わない」

 そして、日本は従うものだと思っているから、期待外れな事態が起きたりすると、その反応も凄まじい。昨年12に安倍首相が、米政府による再三の反対にもかかわらず、靖国神社参拝をした時、米政府は「失望した(disappointed」という表現を使いました。

 私も安倍首相は靖国神社に参拝すべきではなかったと思いますが、(★8)「失望した」などという言葉は、通常、同じ主権を有する他国に対して使う言葉ではありません。親が子供に対して試験の結果やゲームで負けたりすれば「(期待していたのに)失望した」と言う。あるいは上司が部下にがっかりした場面で使う言葉です。恐らく米国はいかなるほかの主権国に対してもあのような言葉を使ったことは日本以外にないでしょう

 こうした態度は、安倍首相に対してだけというわけではありません。蜜月の仲だったとされるジョージ・ブッシュ大統領と小泉純一郎首相の時も同じです。イラク戦争における協力から郵政民営化に至るまで、ことごとく米国政府の要求に応え良好な関係を築いた小泉首相のことをブッシュ大統領が「(何でも言うことを聞く)小泉軍曹(sergent」と呼んでいたことは少なからず知られています。

 小泉首相はあれだけブッシュ政権に協力したものの、靖国神社参拝をやめなかったために最後の訪米の際にも米議会において演説をすることは許されませんでした。だから、ブッシュ大統領の地元テキサス州を訪問したのです。

昨年5月に訪米した韓国の朴大統領は米議会で演説しました――。

マコーマック氏:はい、ちなみに韓国の大統領が米議会において演説をしたのは朴大統領、その前任者である李明博大統領を含め5人います。しかし、日本の首相で米議会において演説する名誉を与えられた人はいません。

 つまり、言いたいのはなぜ日本はこうした扱いを米国から受けてきたのか、という点に思いを馳せてほしいということなのです。

ジョセフ・ナイ氏の興味深い見解

それが、マコーマックさんがかねて指摘されてきた「日本はサンフランシスコ講和条約に遡って考える必要がある」ということですね。

マコーマック氏:そうです。先ほど米国軍のCommander in Chief(最高司令官)であるオバマ大統領が、尖閣諸島日米安全保障条約の適用対象だと明言したからこそ、日本人にとってその発言内容の意味は大きかったと言われました。米国は終戦に伴い、第2次大戦におけるまさに日本のCommander in Chiefである昭和天皇の責任を問うことはしなかった。なぜか。

 それは、連合軍のマッカーサー司令官天皇を残した方が日本を米国が思うような国にできる、つまり米国のことをよく聞く、従う国にできるとの判断が働いたからでしょう。そして実際、戦後何十年にもわたって日米関係は米国の思惑通り、ある程度うまく機能してきたと言えるのかもしれません。

 しかし、安倍氏が首相として登場して以来、何かが違ってきた。もちろん自民党には安倍氏だけでなく、保守本流と呼ばれる政治家は何人もいました。彼の祖父である岸信介氏はもちろん、中曽根康弘元首相もその一人でしょう。しかし、安倍氏ほど強烈に「戦後体制からの脱却」が必要だとして、「美しい日本」というコンセプトのもと、教育基本法まで改正し、歴史修正的立場を強く打ち出した首相はいません。

 それだけに米国はここへ来て安倍政権に対する困惑の度を深めています。今年1ジョセフ・ナイ氏がジャパンタイムスの記事で興味深い見解を披露していました。

 安倍首相が一方で、戦略面や軍事面において米国を喜ばせようと必死の努力をしつつ、もう一方で歴史問題やイデオロギー問題で時代に逆行するような動きを強めつつあるのは、いわば「よい」軍事的取り組みを「1930年代の古い包装紙」で包んでいるようなものだ、と――。そして、「日本を孤立させているのはまさに日本自身に原因があるのであって」、その点について日本は相当“成果”を上げている」と。

 冒頭にも出てきたナイ氏は、ご存じのように冷戦後の日米関係において最も中心的な役割を担ってきた重鎮中の重鎮です。その記事を読んで、ナイ氏はどうも「包む紙」さえ替えれば、包む中身は素晴らしいのだから問題は解決するはずだ、と考えているように感じました。

(続く)