■庶民にはびこる腐敗
中国には誰もが知る有名なことわざがある。
「過了這個村,没這個店」
村をいったん通り過ぎてしまえば、もうお店を見つけることはできない――。日本のことわざで言うなら、「柳の下の泥鰌(どじょう)」。柳の下で一度、泥鰌を捕まえたからといって、いつもそこに泥鰌がいるとは限らない。いつも幸運を得られるものではないという戒めを込めたことわざだが、今の中国では、こんな解釈がはやっている。
「その職場で、権限を使わないと、2度とチャンスは訪れない」――。
習近平は「虎(大物)もハエ(小物)も同時にたたく」とのスローガンを掲げ腐敗撲滅運動を推し進める。共産党内部の権力闘争はいまだ冷めやらず、大物取りが連日、報道で伝えられる。それを見てスカッとしている庶民が実は腐敗に漬かっているのだ。
子供を有名大学に入れるための袖の下は序の口だ。将来自分の子を共産党幹部にしようと、小学校の学級委員にさせたり、病院で不機嫌な看護師から機嫌良く注射1本を打ってもらったり、ただそれだけのためにカネが動く。社会のありとあらゆるところで、賄賂の類いが頻繁に行き来する、それが中国の一面である。
中国では、一般の民間企業に勤める社員が、激しい中国ビジネスの競争を勝ち抜くのは、容易な事ではない…(9月、広東省広州市)
中国競争社会-DSXMZO9284153015102015000001-PN1-33
日本の場合、一般企業でも従業員が取引先から裏リベートを受け取れば就業規則違反による懲戒免職に相当する。それだけでなく、本来値引きで会社の利益になる分をキックバックとして受け取ったことが立証されれば、背任や詐欺、業務上横領などの刑事責任を問われる可能性もある。雇用主の企業にとっては思わぬイメージダウンにつながりかねない。独フォルクスワーゲンや東芝の不祥事で企業統治にこれまでにない厳しい目が注がれる中、日系企業はいつまで見て見ぬふりをできるだろうか。
今年1月、日立製作所の中国エレベーター合弁子会社のトップが突然、当局に拘束されたことが明らかになった。汚職容疑だった。容疑は日立合弁での業務に関わるものなのか、別にトップを務める国有企業でのものなのか明らかになっていない。だが、彼の下で仕事をしていた中国人社員が最近、こんな事を話してくれた。
「捕まったあの方は、我々のような日系の外資企業が、中国ビジネスでいかに勝ち抜くか、まさにそれを全身で教えてくれた立派な人でした。だからこそ、うちは中国では大きくなれました。ですが、あの方が突然いなくなり、今後、うちのような日系企業がどうなるのか心配です。中国では建前だけでは会社は大きくはなれません。大きな仕事を取るためには、人脈が必要です。人脈をつくるには、多くのお金がかかるのが現実です」
今回の取材では、紹介し切れぬほど、数多くの日系大手の企業の名前が挙がってきた。改めて、中国に駐在する日本人ビジネスマンに感想をたずねてみると、こんな答えが返ってきた。
「これ(腐敗)は、もはや中国の商習慣なんです」「中国の文化、必要悪なんです」「いまさら言ったところで、しょうがない」「目をつぶっておいた方がいいんですよ」「知らないふりが一番」
「そっとしておいた方がいいんですよ」
=敬称略
(広州=中村裕)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO92847300V11C15A0I00000/?n_cid=MELMG001
これを読むと、中国で汗水たらして働いている日本人のご苦労振りに頭が下がると言うものである。こんな状態であるからして、習近平の「”虎”も”ハエ”も一緒に叩く」と言う腐敗撲滅運動の必要性もわからないでもないが、問題は共産党一党独裁政治にその原因がある、と言うことに気付こうとしないところが大問題なのであろう。
先に紹介したPHPの雑誌・Voiceの10月号の福島香織氏の寄稿文「天津爆発をめぐる政治の暗闘」の末尾には、「報道の自由、言論の自由による事件の検証と、法の下のフェアな責任追及と再発防止策しかないのだが、それらは習近平政権に最も欠けているものである。」と書かれているように、自由・民主・基本的人権・法の支配と言った民主的国民国家を形成する理念なくしては、この問題の再発防止は無理なことであろう。
こんな状況であるから、天津大爆発事故の責任問題と原因追求や再発防止もウヤムヤとなってしまうであろう事は、自ずと理解できてしまう。この上記の論考の表題に「習主席も止められない」とあるように、習近平の腐敗撲滅運動の成功は覚束ないもので、単なる権力闘争で習近平の政敵が排除されて終わるのではないのかな。
もうひとつ中国社会に腐敗がビルトインされている例を掲げる。
世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
「贈賄日記」「贈賄メモ」中国に汚職の種は尽きまじ
「反腐敗」に立ちはだかる「役人の伝統芸」
2015年5月15日(金) 北村 豊
2012年11月の中国共産党第18期中央委員会第1回全体会議で中央委員会総書記に選出された習近平は、就任後間もない2013年1月に「“老虎(トラ)”退治と“蒼蠅(ハエ)”駆除を同時に行う」と述べて“反腐敗(汚職撲滅)”運動を積極的に展開する決意を表明した。
トラとは庶民の上に君臨して大きな腐敗を行う指導幹部を指し、ハエとは庶民の周囲で小さな腐敗を行う官僚たちを意味する。それから2年が経過し、汚職撲滅運動は一定の成果を上げており、庶民は習近平が主導する汚職撲滅運動に喝采を送る一方、役人たちは身をすくめて嵐の通り過ぎるのをひたすら待ち望んでいる。
贈賄の詳細な日記が汚職逮捕の決め手に
そんな中、中国メディアは、トラが「贈賄日記」によって退治された事件とハエが「贈賄メモ」によって駆除された事件を個別に報じた。いずれの事件も、役人に賄賂を贈ることを迫られた被害者の贈賄を克明に記録した「日記」と「メモ」が汚職役人逮捕の証拠となったのだった。中国で巧みに生きて行くためには権力を握る役人と上手に付き合うことが必要だが、そのためには賄賂が不可欠である。その実態が見て取れる2つの事件の詳細は以下の通り。
1.「贈賄日記」によるトラ退治:
山東省“徳州市”は省の西北部に位置する560万人の常住人口を擁する地方都市であり、同市に属する“平原県”は人口45万人規模の小都市である。2015年4月2日、“徳州市紀律検査委員会”と“平原県紀律検査委員会”は“照東方紙業集団”を経営する“趙傳水”から提起された贈賄事件の告発を受けて、賄賂を受け取ったとして29人の党員幹部の処分を発表した。さらに翌3日には“徳州市中級人民法院(地方裁判所)”が“平原県政治協商委員会”の元副主席で、同県財政局の元局長であった“宋振興”に対し汚職と収賄の罪により懲役14年、30万元(約580万円)の財産没収の判決を下した。
(続く)