ならず者国家・中国、アレコレ!(34)

ネット上で簡易裁判を実施

:「ネット強国」は「オープンイノベーション」と言い換えることができます。13億に及ぶ国民みながイノベーションに携わり、彼らが生み出した革新的な技術をインターネットを通じて在来産業も利用できるようにし、その生産性を高めるのに役立てる。

---いま先進国では「IoT(モノのインターネット)」とか「インダストリー4,0」といった取り組みが進んでいます(関連記事「インダストリー4.0とは何か?」)。「ネット強国」はこうした取り組みも包含するイメージですか。http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20140717/268842/

:その通りです。中国も当然、そうした取り組みを進める考えです。

 ネットを利用したイノベーションの一例を紹介しましょう。「ネット法廷」を10月の最終週に開廷させました。電子商取引にかかわる訴えを裁く簡易裁判所です。電子商取引が拡大するにつれて詐欺などの被害が増大しています。こうしたトラブルにおける訴えや主張、証拠の提出などをすべてネットを通じてできる仕組みです。中国の1111日は「独身の日」で一大ショッピングデーになります。ネット法廷が効果を発揮するかもしれません。

---ネット上で簡易裁判を行う取り組みは世界で初めてではないですか。

:そうかもしれません。

---お話しをうかがっていると、第1の原則である「イノベーション」は攻めの姿勢を前面に押し出していますね。

:私も同じ印象を持っています。

---でも、イノベーションを重視するならば知的財産権を保護する制度の整備が必要ではないですか。

:おっしゃる通りです。中国政府もその点は気に留めて、法整備を進めていくと思います。しばらくしたら、中国企業が自ら生み出した知的財産の権利を主張して外国企業を訴えるケースが大量に出るかもしれません。

農民工を消費者として育てる

---2つめの原則である「釣り合いのとれた発展(協調)」は何を意味するものですか。

都市地方格差を解消するとの意味です。具体的には「戸籍人口の都市化率」を高める施策を進める。

---「戸籍人口」とは何ですか。

2.5億人に上る地方の農民が都市に出て働いています。「農民工」と呼ばれる人たちですね。彼らを含めた都市の住民は中国の全人口の53に上ると言われています。しかし「都市戸籍」を保有している人は37程度にとどまる。このため、都市戸籍を持たない農民工社会保障や教育などの公共サービスを受けることができずに難渋しています。

 こうした農民工都市戸籍を与えることで安心して暮らせる環境を整える。そうすることで彼らが持つ購買力を顕在化させ、住宅・教育といったサービスへの需要を拡大させる意図です。中国は投資依存で成長してきた経済を、消費依存に変える方針です。これを推進するための需要サイドの政策と言えるでしょう。

---「健康中国」という文言が資料に見られます。これも同様の意図のものでしょうか。

:その通りです。「健康中国」も今回のコミュニケで初めて登場したものです。「医療保険」「都市・農村をカバーする基本医療衛生制度」「食品安全戦略」を実施することが盛り込まれています。こうした仕組みを整備することで、安心な暮らしを実現し、消費を拡大させる意図です。医薬品・医療機器、医療サービス・高齢化ケア事業・リハビリ―サービス、そして健康保険、スポーツ産業、さらに環境関連ビジネスなどの市場拡大を見込むことができるでしょう。中国では、この10兆元(約200兆円)市場を巡って争奪戦が始まると言われています。

「最も厳格な環境保護制度を実行」

---原則の3つめである「環境に配慮した発展(緑色発展)」はどういうものですか。

:文字通り、環境政策です。世界で「最も厳格な環境保護制度を実行」すると謳いました。

---大気汚染や水質汚染などが深刻な状況に陥っていることが報道されていますね。

:はい。そのため、国民が安心して暮らせる環境を守る必要があります。

 ただし、「環境に配慮した発展」が意味するのはそれだけではありません。まず、大気汚染や水質汚染を防ぐ仕組みを整備することは、そうしたサービスの市場が立ち上がることを意味します。市場が生まれれば、そこにイノベーションが生まれる可能性があります。例えば、環境に優しい家電製品を購入するために日本に行く消費者がいます。国内で同様の製品を開発することで、こうした需要を取り込むための製品が中国で生まれるかもしれません。

 「イノベーション」と「環境に配慮した発展」に共通するのは、供給サイドの改革です。人々が日本に爆買いしに行くほど需要があるにもかかわらず、その要求を満たす製品を供給する力が国内に不足しているわけです。これを解消しようという意図が背景にあります。

投資前の内国民待遇とネガティブリスト方式で経済開放進める

---4の「開放的発展」は、鄧小平が主導した改革・開放とは違うものですか。

:より徹底した改革・開放です。加えて、政府の担当役人などの恣意によらない透明で予見可能な経済を目指す意向を示すものです。

 まず、投資前の内国民待遇でネガティブリストに載ったもの以外は海外に向けて開放するオープン経済を目指します。ネガティブリストを定めることが、ここでのキモです。政府の恣意によって許可したり、しなかったりすることができなくなるからです。これが透明性につながります。

 もう一つ大事なのは、中国は新興国・途上国に対してだけでなく、先進国に対しても経済を一層開こうとしていることです。一帯一路構想などが脚光を浴びています。確かに、これは中国と一帯一路の沿線・沿岸の途上国との絆を深めようとする取り組みです。これに対してネガティブリスト方式の経済開放は先進国との関係強化を念頭に置いています。先進国が中国国内で行った投資を促進・保護する意思を示した原則ですから。

 「改革・開放」については、さらにもう1つ重要な要素があります。世界の経済ルール作りに中国も参加することです。中国はこれまでにGATT(関税及び貿易に関する一般協定)やWTO世界貿易機関)に加盟してきました。これらは、「入関」(GATT加盟)、「入世」(WTO加盟)と言われるように、既に出来上がっているルールに加盟する受け身の取り組みでした。中国では「与世界接軌」と呼んでいます。これからは、新しいルールを作る段階から主体的に参加していく考えです。

---中国はRCEP東アジア地域包括的経済連携ASEANに加盟する10カ国と日中韓印豪NZ6カ国が加盟するメガFTA)やアジアインフラ投資銀行AIIB)などの取り組みを進めています。

RCEP;Regional Comprehensive Economic Partnership 東アジア地域包括経済連携

:そうでね。これらの新しいルール作りを進めていくでしょう。

(続く)