ならず者国家・中国、アレコレ!(35)

AIIBは世銀より優れたルール作りを狙う

 注意していただきたいのは、新しいルール作りといっても既にあるルールを否定するものではないことです。例えばAIIBが融資するルールは世界銀行やアジア開発銀行が既に運用しているルールを踏まえて作ります。したがって、日本や米国が危惧しているような、既存のルールに劣るものにはなりません。むしろ、現行のルールが持つ非効率な部分を是正する、より優れたものを目指すでしょう。

 ここで、もう1つ大事なのは、中国は制度的な統合(一体化)だけでなく、物理的なインフラ整備(物理的のネットワーク、一体化)を重視していることです。中国は2002年にASEAN諸国とのFTA自由貿易協定)に署名しました。しかし、思ったほどの経済効果は上がりませんでした。物品を運ぶ物理的なインフラが十分に整備されていなかったからです。せっかくおいしいバナナを輸入しても、輸送する途中で腐ってしまう。

 これが教訓になり、自由貿易ルール(制度的な統合)を拡大する時には物理インフラ(インフラの統合)も含めて整備する必要があるとの考えを持つようになりました。AIIBを設立し、一帯一路沿線・沿岸のインフラ整備を支援する取り組みは、ここにつながるものなのです。

 RCEPも新しいルール作りの1つに数えられるでしょう。

---中国はRCEPを、TPP(環太平洋経済連携協定)に対抗するものとして確立する意図があるとの見方があります。中国はTPPどう評価しているのでしょう。

:経済政策としてよりも、中国を囲い込むための安全保障政策として懸念する向きがあります。

---中国が加盟を考えた時、国有企業に対する規定などはクリアーしづらいものでしょうか。

:そんなことはありません。国有企業に関する規定は中国のWTO加盟議定書に書かれている規定と大差ありません。中国がその気になればクリアーできるものです。その他の規定(環境基準、労働基準)も同様です。なので、中国政府はTPP加盟するかどうかは別として、TPPのルールに合わせて水面下で準備を進めていると考えられます。

「ストックの改革」から「フローの改革」へ

---お話しを伺っていると、中国共産党が今回発表したコミュニケは、「イノベーション」だけでなく随所に「攻めの姿勢」を示していますね。その一方で、足りない部分はありませんか。

:国有企業の改革についての記述があまり見当たりません。この点には不満を覚えます。共産党は「国有企業改革については既にガイドラインを発表している」と言うかもしれませんが。

 ただ、今回のコミュニケは「ストックの改革」から「フローの改革」へ--という傾向が見て取れます。

---ストックとフローですか。

:中国の用語です。「ストックの改革」は国有企業改革など、既に明らかになっている問題点を改めること。「フローの改革」は、イノベーションの推進など、今ある力をより強めるための改革です。「ストックの改革」は既得権益を持つ勢力がおり、進めるのは困難を極めます。なので、進めるのが比較的容易な「フローの改革」に重心を移したのでしょう。

---中国が持つリアリズムが表われている気がします。鄧小平がかつて先富論を唱えました。同氏は「黒猫でも白猫でも、ネズミを捕るのが良い猫だ」と言い、「富むことができる人から先に富め」と主張しました。習近平指導部も同様に、進められる改革からどんどん進めよ、ということでしょうか。

習近平指導部は、そういう政策決定をしたのだと思います。ただし、詳細は記されていませんが、第5の原則である「共亨」によって、発展の成果が国民一人ひとりに行き渡るようにする、すなわち「猫理論」を補正する政策も用意していくと考えられます。

 もう1つ不満なのは、イノベーションの推進やネット強国となることを掲げつつ、今のところ、その枠が小さいことです。例えば私が中国に行くと、日本でアクセスできるサイトの半分くらいはアクセスできなくなります。ネットの世界を中国国内に留めたままでは、大きなイノベーションを生み出すことはできません。

中国は「政経分離」にかじを切った

---最後に日中韓首脳会談についての評価を聞かせてください。111日に、日本の安倍晋三首相、中国の李克強首相、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が会談しました 。

:私はポジティブに評価しています。日中韓3カ国によるFTAの交渉を加速化させる合意は朗報です。

 日中韓FTA3カ国のいずれにもメリットがあります。中国は東アジアの各国とFTAを結んでおり、唯一残っているのが日本です。韓国にとっても同様です。日本にとっても,

拡大が続く中国市場の門戸が広がることは朗報でしょう。

 加えて、この取り組みは、日中関係が再び政経分離に戻るスイッチになる可能性があります。日中関係は元々、政経分離で進んできました。政治でもめることがあっても、経済関係は安定的に深めてきた。しかし、日本政府による尖閣諸島国有化を契機にこれが政経一体化に変化しました。この間に政経分離を実践したのが欧州諸国です。

---101923日に習近平国家主席が英国を訪問 。その後、フランスのオランド大統領とドイツのメルケル首相が相次いで訪中しました。“中国祭り”さながらの様相を呈していました。

:そうですね。欧州諸国はかつての日中両国が「政経分離」で大きな成果を収めたことをならって「政経分離」の政策を実践しているように思われます。欧州諸国と日本とでは置かれた事情が異なるでしょうが、日中関係が元々の政経分離の状態に戻るのは悪いことではないと思います。

 中国は、既にその方向にかじを切っているのではないでしょうか。国慶節に多くの国民が日本を訪れました。ちょっと前の中国だったら、日本への渡航を規制していてもおかしくありません。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/110400013/?P=1

 

イノベーションを推進するためには、ここでは、三つの組織で推進してゆくと言っている。

 

一つ、政府主導の研究機関、国有企業や公立の研究所等だ。

二つ、私営組織、民間企業などだ。ここではファーウェイやアリババなどを挙げている。

三つベンチャー、大学・高校の学生や職人とベンチャー企業を挙げている。

 

そのため起業支援の政策を充実させるとも言っている。そして注目点としてはサイバー関係を重視することもうたっている。もともと中国は人民解放軍内にサイバー部隊を持っているので、アメリカを始め日本にも散々サイバー攻撃を掛けてきている。それを更に全人民(草の根)にまでネットに精通させようとしている。

 

今後中国からのサイバーアタックは、ますます増加する筈だ。日本もその防御を更にしっかり固めなければならないのだ。ハードでもソフトでも、日本の高度な技術・知的財産・文化などを掠め取ろうとしてくることであろう。

(続く)