ならず者国家・中国、アレコレ!(73)

百年マラソンのベースとなる中国の戦略は次の九つの要素から成り立っている、とこの「China 2049」のP58には記述されている。この基本思想は大半が中国の戦国時代の教えを、中国軍将官が現代風に構築しなおしたものである。

 

(1) 敵の自己満足を引き出して、警戒態勢を取らせない。

(2) 敵の助言者をうまく利用する。-敵の指導者の周囲にいる助言者を味方に引き入れること。

(3) 勝利を手にするまで、数十年、あるいはそれ以上、忍耐する。

(4) 戦略的目的のために敵の考えや技術を盗む。-戦略上の利益のための窃盗を是認。

(5) 長期的な競争に勝つうえで、軍事力は決定的要因ではない。

(6) 覇権国はその支配的な地位を維持するためなら、極端で無謀な行動さえとりかねない。

(7) 勢を見失わない。-勢(Shi中国語とは(軽く言うと)政情の成り行き、力関係の行く末。

(8) 自国とライバルの相対的な力を測る尺度を確立し、利用する。-軍事力だけではない。

(9) 常に警戒し、他国に包囲されたり、騙されたりしないようにする。

 

 

 

2回 中国は2049年の覇権国を目指す
「中国には100年に及ぶ国家戦略がある」。『China 2049』のM・ピルズベリー氏に聞く

2015918日(金)石黒 千賀子

 鄧小平が、天安門事件で西側諸国による制裁を受けて出した外交方針「韜光養晦(とうこうようかい)」は、これまで「中国は、経済発展を最優先するので、海外との摩擦は最小限に抑え平和を求める」方針だと理解されてきた。

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China 2049

 しかし、マイケル・ピルズベリー氏は、「それは誤った解釈」で、「韜光養晦の本質は野心を隠す』」で、これこそ中国の長期的な野望を象徴していると語る。中国共産党には、中華人民共和国を設立した時から「再び世界の覇権国としての地位を奪還する」という目標があり、その実現のために100年に及ぶ戦略を実行していると、近著『China 2049』で指摘した。

 第1回でピルズベリー氏は、米中国交正常化への動きも、従来から信じられてきたようにニクソン大統領とキッシンジャー国家安全保障担当大統領補佐官(当時)が中国に働きかけて実現したのではなく、実は中国からの熱心な働きかけにより実現した事実を明らかにした。背景には、1969年以降の中国の深い戦略と意図があったという。

 第2回は、その戦略と意図具体的な中身を聞いた。

 また、記事の末尾にピルズベリー氏へのインタビューを一部収録した動画を掲載した。併せてご覧ください。

(聞き手 石黒千賀子)

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マイケル・ピルズベリー(Michael Pillsbury)氏 Mピルズベリー01.jpg
1945
年米カリフォルニア生まれ。米スタンフォード大学卒業(専攻は歴史学)後、米コロンビア大学にて博士課程を修了。196970国連本部勤務を経て、7377年ランド研究所社会科学部門アナリスト、78ハーバード大学科学・国際問題センターのリサーチフェロー、81国務省軍備管理軍縮庁のディレクター代行、84国防総省政策企画局長補佐、8690年議会上院アフガン問題タスクフォース・コーディネーター、9293国防総省総合評価局特別補佐官、982000国防総省特別公務員(米国国防科学委員会)、19972000年米国防大学客員研究フェロー、20012003国防総省政策諮問グループメンバー、20032004年米中経済・安全保障検討委員会シニア調査アドバイザー、2004年以降、現在も国防総省顧問を続けながら、ハドソン研究所中国戦略センター所長を務める。米外交問題評議会と米シンクタンク国際戦略研究所CSISのメンバーでもある。米ワシントン在住。 著書に『Chinese Views of Future Warfare』『China Debates the Future Security Environment』などがある。(写真:大高 和康、以下同)



前回おっしゃった中国が1969年以降、一貫して追求している戦略とは、一体どういうものなのでしょうか。

ピルズベリー氏:一言で言うと、「中華人民共和国建国100周年に当たる2049年までに、再び世界の覇権国となるべく、自分たちの実力を常に実力より低く見せて注意深く動く」――ということです。これが中国の戦略では、常に大きな部分を占めています。

 中国では196954人のトップクラスの将官が集まり、夏にかけて20回以上会合を重ねました。彼らは、そこで中国が進むべき道について議論し、それを戦略としてまとめ、毛沢東にメモを提出しています。

米国は『戦う二虎(中ソ)を山頂から眺めている』と見た中国

 この時、作成されたメモを中国は今でも機密扱いにしているので、その存在はほとんど知られていません。しかし、会合には4人の将官のほかに、当時、外務大臣を務めていた将官と書記係として熊向暉(ゆう・こうき Xiong Xianghuiという若い人物も参加していました。熊向暉は後に中国の有名なスパイとして知られた人物です。その彼が1999回顧録我的情報与外交生涯」を発表しました。

 熊向暉は2005年に死去しましたが、その回顧録の改訂版がその翌年に出ています。改訂版は、1969年に行われた4人の将官を中心とした多くの会合について触れているものの、その内容について少ししか明らかにしていません。しかし、それでも最終的に毛沢東に提出した報告書の中から最高機密に該当する、ある1ページの内容を明らかにしています。

 それを読むと中国がどのように考えて、米国接近を図ることにしたのか、彼らの考え方がよく分かります。会合ではこんな会話が交わされたそうです。

 まずある将官が、「今の時代(1969年当時のこと)は、2500年前の春秋戦国時代、あるいは200年頃の三国志の時代に似ている。私たちはこうした過去の時代から重要な教訓を引き出して、学ぶ必要がある。ソ連と中国に対する米国の今の戦略は、まさに『戦う二虎を山頂から眺める』である。この事態をよく考える必要がある」と。

 当時、中国はソ連軍から脅威を受けていることに加えて、経済成長が196364年以降、停滞していました。この将官は、「米国は、共産主義の一国がもう一国をむさぼり食うのを待っている」と戦国時代から伝わることわざで表現したといいます。また、別の将官は有名な「赤壁の戦い」を引き合いに出して、「北の魏に対抗するために東の呉と組む」という諸葛亮の戦略に学ぶところがある、と主張し、ソ連からの攻撃に備えて、米国というカードを使うかどうかを議論した。その結果、米国をまず味方につけること外交・軍事戦略の基本方針としたというのです。

新興国は覇権国に潰される運命にある」

――戦国時代の教えに従って、米ソ対立を利用して、米国を中国の味方につけることが米中国交正常化の狙いだった…

ピルズベリー:そうです。ご存じのように春秋戦国時代とは、500年にわたって政治闘争が続き、中国が形成された重要な時代です。後半の250年(戦国時代)は、争っていた7つの国が、秦王朝の下に統一されて終わる。その間、各国あるいは諸侯の間では権力政治や陰謀、策略が渦巻き続けた過酷な時代です。

 この時代から中国が引き出した主な教訓、戦略九つありますが、一番重要なのが覇権を握っている国に対して「自分の野心を決して見せないこと」です。

 どういう考え方か説明しましょう――。小さな国と既存の大きな覇権国があったとします。覇権国は当然、金も資金も技術も抱えている。春秋戦国時代にあったように、もし覇権国が、台頭し始めた新興国を見て「野心あり」と疑い始めたら、その新興国を必ず潰しにかかります。新興国というのは覇権国に潰される運命にある――。中国の将官たちはこう考えています。

 私は、熊向暉の回顧録を読んだだけでなく、中国の将校によって書かれた戦略に関する本をこれまで何冊も翻訳してきたので、彼らが春秋戦国時代から多くを学んでいることを知っています。

 彼らは、スペインやオランダ、フランス、イギリスといったかつて覇権を握っていた西欧諸国も研究し、その歴史からも学んでいます。「小さな国に過ぎなかったオランダがどうやって台頭し、あれだけの世界的な力を持ったのか」「スペインはそのオランダをどうやって負かしたのか」「そのスペインは英国にどうやって打ち負かされたのか」、そして「英国はいかにして米国に覇権の座を奪われたのか」――。こうした覇権国の変遷を徹底的に研究しています。

 将官たちは、西欧諸国の興亡の歴史春秋戦国時代三国志の時代から導き出す教訓は同じだ、と言います。つまり、こういうことです。

 まず、国力をつけるために資金と技術、科学、そして政治的な支援をその時代の覇権国(今の時代では米国)から取り付けることが重要だ。ただし、それを実行するには細心の注意深さが求められる。間違っても覇権国を敵に回してはいけない。敵に回せば、覇権国は台頭しようとする新興国を必ず抑えつけにくるに違いないからだ――と。


(続く)