続・次世代エコカー・本命は?(8)

電気自動車走り出すホンダの燃料電池車、その未来を左右するGMとの提携戦略201603110700分 更新

ホンダは新型の燃料電池車「CLARITY FUEL CELL」の販売を開始する。まずは企業や自治体を中心にリース販売を行い、1年半後をめどに一般発売も開始する計画だ。普及が期待される燃料電池車だが、乗り越えなくてはならない課題も多い。ホンダは会見で今後のさらなる普及に向けた課題や取り組みの方針について語った。

[陰山遼将スマートジャパン]

 

 ホンダは2016310に東京都内で会見を開き、同日より燃料電池車(FCV)「CLARITY FUEL CELL」(クラリティ)の販売を開始すると発表した(図13)。まずは自治体や企業を中心としたリース販売を行い、1年半後をめどに一般販売も開始する計画だ。初年度のリース販売計画は200を見込んでいる。2016年中に米国や欧州でも展開していく方針だ。

1 販売を開始する「CLARITY FUEL CELL」(クリックで拡大) クラリティrk_160310_honda01

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2 正面からみたクラリティ/図3 側面から見た様子 (クラリティ)
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 水素と燃料電池で発電した電力で走行し、CO2を排出しない「究極のエコカー」と呼ばれるFCV。ホンダに先行して販売が始まったトヨタ自動車の「MIRAI(ミライ)は、発売から1カ月で当初の予定を大幅に上回る1500台を受注するという売れ行きを見せた。現在の納期は数年待ちの状態だ。

 ホンダのFCV開発が本格的に始まったのは1999年にさかのぼるが、リース販売だけでなく一般販売も計画するFCVは今回のクラリティが初の車両だ。ミライに続いてクラリティの一般販売が始まれば、一般消費者でも購入できるFCV2車種になる。





rk_160310_honda00.jpg 会見に登壇した八郷氏 八郷rk_160310_honda00

 会見に登壇したホンダ 代表取締役社長 社長執行役員の八郷隆弘氏は「水素はさまざまなエネルギー源から製造が可能であり、貯蔵や運送にも適している。水素で走るFCVは将来的にガソリンエンジン車に置き換わる有望なモビリティだと考えている」と述べ、FCVに対する期待を語った。

 クラリティの水素タンク容量は141リットルで、70メガパスカルの圧力で水素を貯蔵する。水素は約3分で充填(じゅうてん)可能で、航続距離は750キロメートルを達成した。価格は税込み766万円でミライよりも約43万円高いが、航続距離では100キロメートルを上回った。この他にもクラリティはミライと比較して異なる部分が複数ある。そこにあるのはホンダが将来の事業構想として描く、クラリティで培ったFCV技術の他車種への横展開だ。

小型化した「燃料電池スタック」をボンネット下に収納

 ホンダがクラリティの性能について特に強調しているのが「ガソリン車と同等の利便性を追求した」という点だ。いくら環境性能が高い「究極のエコカー」といえど、モビリティとしての利便性や性能を犠牲にしては将来の大規模な普及は見込めないという考えがある。これが最もわかりやすく現れているのが乗員人数だ。ミライは4人乗りだが、クラリティは一般的なセダンと同等の使い勝手を意識して5人乗りの設計となっている(図4)。

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4 クラリティは5人乗りを実現 出典:ホンダ クラリティrk_160310_honda04

 5人乗りを実現するためにホンダが取り組んだのが、FCVの肝となるFCスタックの小型化とレイアウトの工夫だ。まず、トヨタのミライの場合はパワーコントロールユニットと駆動用モーターをボンネット内に設置し、FCスタックなどはフロントシートの下部に、バッテリーは後部座席下部に置いており、4人乗りとなっている(図5)。

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5 トヨタのミライの構成 出典:トヨタ クラリティrk_160310_honda05

 一方ホンダのクラリティは、FCスタックを従来の「FCXクラリティ」より33%小型化し、駆動モーターユニットなどとともに燃料電池パワートレインをまとめてボンネット下に集約しているのが大きな特徴だ(図6)。FCスタックの出力は103kW(キロワット)リチウムイオンバッテリーは前座席の下部、水素タンクは24リットル117リットル2つに分けて、後部座席のあたりに配置している(図7)。

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6 クラリティのパワートレイン部分のモックアップ/図7 燃料電池タンクは2つに分けて後部座席部分に配置(クリックで拡大) クラリティrk_160310_honda06 クラリティrk_160310_honda07

 こうした構成によってクラリティでは5人が乗車できる空間を確保した。トランク部分も9.5型のゴルフバッグが3つ積載できるトランク容量を確保している。そしてこのボンネット下にパワートレインを集約するという構成は、通常の前輪駆動のガソリンエンジン車と同様であり、将来の他モデルへも展開もしやすくしている(図8)。なお、クラリティのパワートレイン部分は、ホンダのV6気筒のガソリンエンジンと同等のサイズになるという。

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8 クラリティの構成イメージ(クリックで拡大)出典:ホンダ クラリティrk_160310_honda08

他モデル展開には量産課題のクリアが必須に

 クラリティのFCスタックを33%小型化できた主な理由は2つある。1セル当たりの発電性能を従来比で1.5倍に向上できたため、積層するセル数を30%削減できたという点だ。もう1つはFCセルの小型化で、従来比で厚さを20%削減している。セル数が減った分の電圧は、昇圧コンバータの採用でカバーする仕組みだ(図9)。


9 FCスタックの改良に向けた取り組みの概要 出典:ホンダ(クリックで拡大)
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 八郷氏はこうして改良を重ねてきたFCVのシステムについて「ホンダはFCV開発のリーディングカンパニーであるという自負がある。クラリティ以外にもさまざまな車種展開を考えていきたい」と語る。現時点で具体的な計画を公表しているわけではないが、ホンダは2030年をめどに商品ラインアップにおける販売数の3分の2を、FCV電気自動車EV)、プラグインハイブリッド車PHEVなどの電動車に置き換える方針だ。その際の販売台数のうちFCVEV15%程度を占めると見込んでいる。

 将来の他車種への展開やFCVの促進において必須になるのが、量産化に向けた課題のクリアだ。ホンダは初年度200台のリース販売を目指すクラリティの生産を栃木県高根沢町の拠点で行う計画だが「品質問題にも徹底的に配慮していることもあり、他のガソリンエンジン車のような速度で生産するには程遠い」(ホンダ)という。現在、トヨタのミライも生産能力は1日あたり23台程度と少なく、FCVの量産は共有課題だ。

 量産速度を向上する大きな鍵となるのはFCスタックの部分だという。「多くのセルを積層して生産するFCスタックの生産性はまだまだ低い」(ホンダ)。そして将来的にFCV多モデル展開を考えた場合「クラリティのFCスタックはホンダのV6気筒エンジンと同等のサイズ。将来、一般的な車両にも展開していくと考えた場合、さらなる小型化は必須」(同社)となる。

(続く)