続・次世代エコカー・本命は?(23)

 

巨大企業・VWの不正暴いた小さな研究所

WV(ウエストバージニア)大がVWフォルクスワーゲン)ひっくり返す

f:id:altairposeidon:20160503223649j:plain20150930日排ガス不正が行われたVWの「パサート」(ICCTのウェブサイトから)

 

 世界最大級の自動車メーカーの不正を暴いたのは、大学の小さな研究所の研究者たちだったーー。独フォルクスワーゲンVW)が排ガス規制を逃れるソフトウエアを搭載したディーゼル車を販売していた問題で、非営利団体の委託を受け、実際にディーゼル車を走行させて排ガス試験を行ったのが米ウエストバージニア大学WVUの「代替燃料・エンジン・排ガスセンター(CAFEECenter jor Alternative Fuels Engines and Emissions」。米環境保護庁(EPA7年間も見抜けなかった不正を、地道な試験を繰り返し行うことであぶり出した。米国のメディアでは今やヒーロー並みの扱いだ。

 CAFEEのウェブサイトによると、この研究所は教員7人、フルタイムのエンジニアおよび実験助手が5人ずつ、博士課程および修士課程の大学院生が30人以上の所帯。サイトにはその特徴として、世界で初めて持ち運び自由車載用の排出ガス試験システムを開発したなどと書いてあるが、後で出てくるCAFEE助教Arvind Thiruvengadamさんに言わせれば、大学のキャンパスでも取り立てて人目を引くようなラボではないという。
http://cafee.wvu.edu/

 ナショナル・パブリック・ラジオ(NPRの報道によると、Thiruvengadamさんと同僚の研究者らがディーゼル車とエンジンの排ガス試験に乗り出したのは2012補助金をもらって試験ができるということ自体が非常にうれしかったという。「自分たちがディーゼル車の路上での排ガス試験を初めて行うんだ。よし、これでジャーナルに投稿する論文を何本も書くぞ。それを3人ぐらいに読んでもらえたらうれしいんだが」程度の考えでいた。

 彼らに米国でのディーゼル車の排出基準テストを委託したのは、国際クリーン交通委員会(ICCTThe International Council on Clean Transportation。ワシントンDC、ベルリン、サンフランシスコに拠点を持つ独立系の非営利団体で、政府機関に対し環境規制についての科学的な助言を行っている。

 しかも、ICCTのワシントンDCの事務所がCAFEEに求めたのは、これまでのような実験室でではなく、ディーゼル車が実際に走行しているのと同じ環境で行う排ガス試験。なぜかというと、もともとディーゼル車が少ない米国にVWが「環境に優しく低燃費」という誇大広告気味のキャッチフレーズで盛んに売り込みをかけている一方で、走行時の排ガス試験がなおざりにされていたためだ。

 VWは米国市場でディーゼル車の性能の高さとともに出荷台数の多さを強調していた。だが、ThiruvengadamさんらがVW2台の車種をテストしたところ、実験室では窒素酸化物(NOx)のレベルが基準より低いのに、路上走行だとまったくそうならないことがわかった。NOx排出量は道路や運転状況によって異なるが、「ジェッタ」は米国排ガス基準(1km当たり31mg)の15-35、「パサート」でも5-20あった。それに対し、BMWの「X5」では田舎での上り坂を除いて排ガス基準を下回っていた。

 「(VW車で)州間幹線道路(インターステート)を運転した時、そのほとんどでNOxの排出レベルが下がらなかった」とThiruvengadamさん。とはいえ、おかしいと思いつつも、これで「VW車=クロ」という結論に飛びついたわけではない。

 試験のやり方に問題がないか、チェックにチェックを重ね、「同じミスが起きるはずがないというぐらい何度も何度もテストを繰り返した」うえで、「VWは不正をしている」とプロジェクトのメンバー誰もが確信するようになったのだという。だが、相手が大企業と言うこともあり、慎重を期して、その事実をあえて口外しないでいた。

 一部で報道されたように、VWの不正行為をCAFEEEPAに通報したわけではないようだ。CAFEE暫定所長のDan CarderさんがIEEEスペクトラム(米国の電気工学技術の学会誌?)に語ったところによれば、CAFEE2014年春にサンディエゴ公開討論会を開き、排ガス測定を行った2台のVW車についてプレゼンを行った。その会場にEPA職員が来ていたのだという。

 その後、排ガス試験に資金を提供したICCTがインターネットでこの測定結果を公表したものの、報道機関はその重要性に1年以上も気がつかないままでいた。一方、CAFEEの結果報告に驚いたEPAではテストを繰り返し、必要な手続きを踏んだうえで、VWに対しついに追及の矢を放つ。同社はしばらく抵抗をみせたが、観念して不正を働いていたことを認め、922には排ガス規制逃れを行っていたことを対外的に公表。(2015.9.)25にはEPAが排ガス試験を厳格化する方針を打ち出した。

 Thiruvengadamさんは今回の件で、自分たちが正しいことを証明し、報われた気がするかとNPRに問われ、「正しいことを証明したという言葉とは違うと思う。われわれが公衆衛生に大きなインパクトを与えるのに貢献したということに満足を感じる」と控えめに語っている。

ニュースイッチオリジナル
NPR
の報道 http://www.npr.org/2015/09/24/443053672/how-a-little-lab-in-west-virginia-caught-volkswagens-big-cheat

http://newswitch.jp/p/2187

 

 

ちなみにこのWV大学のCAFEEが計測に使用したいた計測器は、日本の堀場製作所の計測器であった。CAFEEのホームページにはその計測器の車載状態の写真が掲載されている。

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CAFEEのホームページ(http://cafee.wvu.edu/)より。

 

Portable Emissions Mesurement System Horiba OBS 2200 and OBS-ONEとして説明文も乗っているので、英文が苦にならなければ是非紐解いて頂きたい。

http://cafee.wvu.edu/laboratories/portable-emissions-measurement-system

(続く)