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続・次世代エコカー・本命は?(28)

 

そろそろ「VWはなぜ排ガス不正に手を染めたのか?」の結論も、言い尽くした感がしないでもないが、それなりにまとまった論考があるので、それを次に紹介しよう。

 

 

なぜVW社は排出ガス不正問題を起こしたのか?愛知工業大学工学部教授(元トヨタ自動車)の藤村俊夫氏に聞く

2016/03/22 11:18

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愛知工業大学工学部教授(元トヨタ自動車)の藤村俊夫氏

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 ドイツVolkswagenVW)社排出ガス不正問題が収束を見せない。ブランドの毀損や米国や日本における販売低迷、1100万台ものリコール費用が同社に重くのしかかる。米国では、制裁金2兆円とも5兆円とも噂されている上に集団訴訟まで起こされた。VW社の排出ガス不正問題なぜ起きたのか

 トヨタ自動車でエンジンの設計開発に従事し、ディーゼル車用触媒システム「DPNR」の開発を手掛けた経験もある愛知工業大学工学部教授藤村俊夫氏に聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──VW社が排出ガス不正問題を起こしました。排気量2.0L4気筒ディーゼルエンジンEA189」に、排出ガス認証試験中であることを検知するソフトウエアを搭載。同試験中は浄化システムを作動させ、窒素酸化物(NOx)を低減して排出ガス規制をすり抜けた。搭載したディーゼル車は「Jetta」「Passat」「Golf」など。ところが、実走行時は排出ガス浄化システムを作動させず、同エンジンは米環境保護局(EPA)の規制に対して1040倍のNOxをまき散らしている──というものです。VW社は、なぜこのような不正を犯したのでしょうか。

藤村氏:結論から言いましょう。排出ガス浄化よりもコストを優先した結果ではないでしょうか。

 排出ガス規制はどんどん厳しくなっており、ここ数年は特に厳しさが増しています。ディーゼルエンジンガソリンエンジンに比べて燃費が良い半面、NOxに関しても粒子状物質PMに関しても低減対応が難しい。にもかかわらず、ガソリンエンジンに近い状態まで規制が強化されてきたといういきさつがあります。

 欧州では燃費優位性からディーゼル車を非常に重視し、市場でのシェアはディーゼル車が50%、ガソリン車が50%という状況になっています。かつてディーゼル車は黒煙(PMの一部)が出るということで嫌がられていましたが、欧州メーカーはそこに手を入れていきました。そして、走りはディーゼルエンジン車の方がガソリンエンジン車を上回るレベルとなり、高速走行を続けても燃費経済性が良いということで、欧州ではガソリン車と肩を並べるポジションを得ています

 日本でも、排出ガス規制がそれほど厳しくない1990年代まではディーゼル車が販売されていました。ところが、ガソリン車と同様にディーゼルも排出ガス規制が米国、日本、欧州で強化されていきました。こうして規制が強化される中で、ディーゼル車の排出ガス規制に対応するには技術的に難易度が高くコストも掛かります。もともとディーゼル車はガソリン車よりも価格が高く、ここに排ガス浄化システムの開発費や部品コストが上乗せされれば車体価格はもっと高くなってしまう。こうした背景と、日本では走行距離があまり伸びないためディーゼルの燃費経済性が良くても元を取れないという理由から、日本からディーゼル車(乗用車)が消えていったのです。

 米国の状況はさらにディーゼル車に厳しい。それが証拠に、現在日本の大半のメーカーは米国でディーゼル車を販売していません。1980年代の初め頃まではトヨタ自動車も「カローラ」などのディーゼル車を米国向けに販売していたのですが、米国の排出ガス規制が厳しくなって「もう対応できない」と米国でのディーゼル車の販売をやめてしまったのです。

 実は、米国には平地規制だけではなく高地規制もあります。標高が千数百mといった高地でも排出ガス規制を満たさなくてはならず大変です。その上、米国は燃料の組成、すなわち品質が良くありません。セタン価も低いのです。セタン価が低いとノッキングしやすく、燃焼もあまり良くありません。こうした背景があってトヨタ自動車ディーゼル車は米国から撤退しました。他の日本メーカーもほとんど同様です。

──しかし、日本メーカーは今もディーゼル車を開発していますよね?

藤村氏:日本メーカーの主戦場は新興国と欧州です。なぜ販売できるかと言えば、新興国では先進国と比較して排出ガス規制が緩く、欧州は先進国の中でも米国や日本に比べてNOxの排出ガス規制値がそれほど厳しくなかったいう理由が挙げられます。

 NOxPMの規制強化に関する米国、欧州、日本の流れはこうです。1997年以前はNOxを見ると欧州はかなり楽でした。日本が最も厳しく、米国がその中間だった。これが、2009年ぐらいから米国で世界一NOxが厳しくなり、日本がこれに続いた。全体的に厳しくなる中で、欧州は米国と日本に比べれば楽な規制値となっていました。ただし、2014年以降は米国も日本も欧州も同じぐらいの水準まで厳しくなりました。

 一方、PMを見ると1997年以前は規制値の差が大きく、米国が最も厳しくて日本が最も楽で、欧州はその間にありました。当時、日本のPM規制強化は少し遅れていました。その後、2009年以降は米国も日本も欧州も同じぐらいの水準まで厳しくなりました。

 つまり、欧州はNOx規制よりもPM規制に重きを置いてきた経緯があるのです。

 こうしたNOxPMの規制に加えて、走行モードの違いもあります。日本はJC08モード、欧州はECモード、米国はLA-4モードです。LA-4モードはコールドスタートからの加速も入っていて、最も厳しい走行モードとなっています。ECモード、JC08モードにもコールドモードがありますが、LA-4モードほど厳しくはありません。

 このような状況から、近い将来各国の走行モードを統一化し、国際標準走行モードを作る話が進んでいますが、現時点では米国が最も厳しく、次が欧州、そして日本です。ただし、欧州と日本の差はそれほど大きくはなく、日本の方が少し楽かなという程度です。

 少しまとめてみますと、VW社が不正を始めたと言われている2009年当時PMの規制は米国、欧州、日本であまり変わりませんがNOxの規制に関しては米国が非常に厳しかった。また、米国では走行モードが厳しいため、排出ガスが多く出る。さらには、燃料性状も良くない。そのため、並大抵のことではディーゼル車の排出ガス規制を通すことができないという状況でした。これは、三元触媒システムが使えるガソリン車との大きな違いです。

──エンジンを開発している人は、米国では走行モードも排出ガス規制も厳しく、排出ガス規制をクリアすることがものすごく難しいということを当然知っていますよね?

藤村氏:もちろんです。エンジンの開発者なら間違いなく知っています。

──米国でディーゼル車があまり売れないのは、厳しい規制によってディーゼル車を排除したいという思惑があるのですか?

藤村氏:ディーゼル車を排除するという意図はないと思います。米国は原油価格が安いため、排気量の大きなガソリン車を好む傾向があります。原油価格が上がると小型のガソリン車が売れるようになりますが、ディーゼルを選ぶことは少ない。これは、排出ガス規制対応でディーゼル車の価格が高くなるからです。従って、燃費を重視して価格の高いディーゼル車を買うよりも、価格の安いガソリン車を買う米国人が多いということです。というわけで、原油価格が上がると少し小さいガソリン車にシフトしていくけれども、ディーゼル車まではいかないのです。

──では、それほどディーゼル車に厳しい米国で、VW社はなぜディーゼル車を売ろうとしたのでしょうか

藤村氏:1つの理由は、将来的に米国で販売台数を少しでも多く確保したかったからでしょう。米国では日本車は大量に売れているのに、ドイツ車は米国ではそれほど多く売れていません。VW社が販売台数を欧州以外のどこで稼ごうとしたかといえば、米国中国です。

 走行モード、排出ガス規制、燃料の品質の全ての条件が厳しい米国で日本メーカーがディーゼル車の販売から撤退する中、ドイツメーカーは台数は少ないもののディーゼル車を販売してきました。その理由は、将来への布石としての市場実験の意味合いもあると思います。市場で評価をしてみたい。新しい排出ガス浄化システムをいきなり大量に世の中に出すわけにはいかない。しかし、少しでも台数が出ていれば、それが市場に適合しているか否かを判断できる。

(続く)