スズキとVWの提携まで車を取り巻く状況は、次のようなものであった。
2008年 9月にリーマンブラザーズ破綻、アメリカの金融危機が頂点に達し、
2008年11月には、GMは保有するスズキ株を売却し、提携関係を解消している。そして
2009年 3月には、トヨタが歴史的な巨額赤字決算を発表し、
2009年 6月には、百年の歴史を誇るアメリカの名門企業のGMが経営破綻している。そして
2009年12月には、スズキがVWと包括的な資本提携を発表したのである。
スズキは自力で新成長戦略を遂行するためには、やや力不足であった。鈴木修もそのことをよく承知していた。だからGMに代わる良きパートナー探しが必要だったのである。
スズキのGMとの提携関係は、1981年8月に始まり、2008年11月まで続いた。27年の長きに渡っている。であれば、その間に成長戦略に欠かせないものを、GMから習得出来なかったものかと疑問が残る。GMと提携関係を持続させるのであれば、加州のZEV規制対策は必須となろう。即ち環境対策である。EV、PHEV、FCEVがらみの技術などは、いくら低価格車中心のスズキと言えども、必要となってくる筈だ。少なくともバッテリー技術やハイブリッド技術は、スズキは喉から手が出る程欲しかったのではなかろうか。この27年間に、GMの助けを借りて、それらの環境や安全に関する技術の植え付けを行っておくべきだったものと、今にしてみれば、思われるのであるが、どうであろうか。
技術の植え付けが出来なかったから、慌ててVWとの提携関係に飛び込んで行ってしまったのではないのかな。ここで疑問に思われるのは、なぜ提携相手を外に求めたのか、と言う事である。
日本には乗用車を作る自動車会社は8社もある。トラックなどを作る会社も含めると全部で12~13社となる。以下光岡自動車などの零細企業を除く自動車メーカーを羅列してみる。
(1) トヨタ自動車(株)
(3) 日野自動車(株)-株式50.1%をトヨタが保有、トラック・バス専用
(4) いすゞ自動車(株)-株式5.9%をトヨタが保有、トラック・バス専用
(5) ヤマハ発動機(株)-株式3.6%をトヨタが保有、四輪車技術あり、オートバイ中心。
(6) ダイハツ工業(株)-株式51.2%をトヨタが保有、2016.8.1でトヨタの完全子会社化(上場廃止)
(7) マツダ(株)-2016.5.13トヨタと業務提携を発表、2015.9にフォードとの資本提携関係を解消。
(8) スズキ(株)-VWとの提携関係を解消、最近トヨタとの提携話あり
(9) 日産自動車(株)-株式43.4%%をフランス・ルノー、3.1%をダイムラーが保有
(10) ホンダ技研工業(株)
(11) 三菱自動車工業(株)-軽自動車の燃費偽装で企業存続危うし。→5/12発表、日産傘下に。
(12) 三菱ふそうトラック・バス(株)-ダイムラー傘下
(13) UDトラックス(株)-スウェーデン・ボルボ傘下、もと日産ディーゼル
ヤマハを含めると、全13社の自動車メーカーが日本には存在するが、三菱自動車はそのうち潰れるであろう。どこも引き受けるところがない、と思われる。結局は中国企業か買収すると言うくらいしか道はないであろう。まあ、中国企業に買収されるくらいなら、いっそのこと潰れた方がよかろう。三菱もi-mievと言う電気自動車を作っているので、軽自動車部門は日産が吸収して、普通車部門はどこかへ身売りされることになるのではないのかな。三菱の技術者は他の日本メーカーが協調して雇用することが必要となろう。(と書いていたら本日5/12に三菱自は日産の傘下に入ることが報道され、こんな事態にならずに済んでメデタシ、めでたしだがルノーの息はどの程度かかるのかな。)
こうしてみると、トヨタ、日産、ホンダの三社に、日本の自動車メーカーは集約されるのではないのかな。だからスズキは、かなり特異な会社として映る。何も財閥などのバックのない一端の自動車会社としては、特異な存在となっている。21世紀に入ってもまだ、一社で存在することは叶わないであろう。結局はトヨタと提携することになるのではないのかな。ただし位置づけはどうなるか、問題である。
さてスズキと資本提携を結んだVWは当時のGMのようには甘くなかった。VWとしてはスズキを完全に下に見ていた。VWはもともと対等な関係を維持する提携関係を保ったことのない会社である。提携した会社を、すべて自社の傘下に置いているのである。子会社化して完全支配している。
週刊ダイヤモンドの2015.10/10号によると、VWグルーブ傘下には11社の子会社が存在している。
0.親会社 フォルクスワーゲン
1.ポルシェ 2012年100%保有、VW買収の失敗からVWの完全子会社となる。
2.アウディ 1965年VW傘下、現在99.55%保有、1932年のauto uionが基(1Audi2DKW
3Horch4Wanderer)、1985年にAudiに変更、Four Silver Rings Emblemを継承。
3.ランボルギーニ (1999年アウディが100%保有)、イタリア、ライバルはフェラーリ
4.ドゥカティ (2012年アウディ が100%保有)、イタリア、オートバイメーカー
5.ベントレー 1998年100%保有、イギリス、高級車メーカー
6.ブガッティ 1998年100%保有、フランス、元はイタリアのスーパーカー、VWが商標権入手。
7.セアト 1993年100%保有、スペイン、1982年にVWが業務提携、Audiブランドに含む。
8.シュコダ 1991年100%保有、チェコスロバキアの国有自動車会社、1991年民営化。
9.フォルクスワーゲン商用車 100%保有、VWの商用車部門、VW Nutzfahrzeuge役立つ乗り物
10.スカニア 2014年90.5%保有、スウェーデンの大型トラック会社、VWが2006年筆頭株主
11.マン 2006年75%保有、ディーゼルエンジンのパイオニア。
Maschinenfabrik Augsburg-Nürnbergアウクスブルク・ニュルンベルク機械工場
この11社はすべてVWの完全子会社化している。そうしなければ、VWとしては気が済まないのだ。それがVWの経営哲学なのであろう。
このことを見てもいつまでも「イコールパートナー」で居られると、鈴木修は思っていたのであろうか。
もしそうとしたら、契約書をもっともっと精査すべきであった、のであろう。
と言うよりも簡単に「ハート・ツー・ハート」などと言う情緒的な感触を、冷徹な提携交渉の場に持ち込むことは、現に慎むべきものである。諸々の修羅場をくぐってきた鈴木修でも、VWの老練な交渉に飲み込まれてしまったものと思われる。いつまでも頑張っておらずに、早く若い血を経営の場に入れるべきなのであろう。
(続く)