読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

続・次世代エコカー・本命は?(77)

クルマの側面は検知できない

 そんな筆者の疑問を解いてくれたのが、自動運転車のセンサー技術に詳しいエンジニアから聞いた話だった。そのエンジニアによれば、今回の事件では「現在の運転支援システムが抱える弱点を見事なまでに突かれた」という。それはどういう意味なのか。

 まずカメラについてだが、同エンジニアは「太陽の光の反射が弱かったとしても、テスラ車はトレーラーを認識できなかった可能性が高い」という。その理由は、側面からみた車両を車両だと認識するアルゴリズムが、テスラ車を含む現代のほとんどの運転支援システムには組み込まれていないからだ。もともと現在の運転支援システムは、クルマの追突を防ぐための自動ブレーキの機能から発展したものである。このため、後ろから見たクルマを認識する機能を重視している。次いで、歩行者を認識する機能、さらには自転車を認識する機能などを加える形で進化してきた。

 こうした車両後面や歩行者、自転車を認識する機能は、現在商品化されている運転支援システムでは「パターンマッチング」と呼ばれる技術で実現するのが主流だ。これは、例えば人間を認識する場合であれば、人間の形状の特徴を「辞書」としてシステムに内蔵しておき、カメラが捉えた画像をこの辞書と照らし合わせ、共通するかどうかで人間かどうかを判断するという手法だ。

 もちろん、実際のカメラで撮影した画像と「辞書」に登録された内容が完全に一致することはありえないから、どの程度の誤差を許容するかも併せて決めておく。それでも、歩いている人、走っている人、カバンを持っている人など、同じ歩行者といっても実際の形状は千差万別だから、「辞書」には何百、何千という歩行者の形状のパターンが記憶されている。歩行者かどうかを判別するとき、運転支援システムの内部では、いまカメラに映っている画像が歩行者かどうかを判別するために、瞬時に多数の照合作業が行われているわけだ。

 同様の作業は、車両の認識や、自転車の認識でも同様に行われている。ところが、車両を横から見たところを車両かどうかを判別する技術は、現在商品化されている運転支援システムでは搭載されていない。それは照合作業があまりにも膨大になってしまうためだ。というのも、車両を後ろから見た形状に比べて、車両を横からみた形状のバリエーションは非常に多いため、そもそも「辞書」を作る作業も大変なら、「辞書」と照合する作業も膨大になり、市販車に搭載できるレベルのコストのシステムでは、実現が難しいのが実情である。つまり、横から見たトレーラーは、現在の運転支援システムでは、そもそも認識の対象から外れているのである。これが、背景がたとえ明るい空でなくても、カメラがトレーラーを認識できなかった可能性が高い理由だ。

レーダーで検知できなかった訳

 ではカメラがダメでも、ミリ波レーダーでトレーラーを捉えられなかったのはなぜか? それは、現在のレーダーでは大面積の物体からの反射波を障害物だと認識しないように、信号が処理されているからである。トレーラーの側面は、障害物だと捉えるには大きすぎたのだ。意味が分からないという読者も多いだろう。小さすぎて認識できないというのなら分かるが、大きい物体なら認識も楽だろうと考えるのが自然だからだ。なぜ大きな物体からの反射波を認識しないようにしなければならないのか?

 

 それは、実際の路上には、大面積の物体があまりにも多く存在するからである。現在の運転支援システムに使われているミリ波レーダーは、物体の位置が左右方向のどこにあるかはある程度判別できるが、その分解能はかなり低い。また上下方向の分解能は事実上ない。このため、もしあらゆる物体からの反射波をまともに認識していると、例えば高速道路の上方に取り付けてある案内板からも反射波を受けることになり、衝突する物体もないのに、車両にブレーキがかかるということになりかねない。

 こうした「誤認識」を避けるために、実際のミリ波レーダーでは、ある程度以上の面積の物体からの反射波は「車両ではない」と判断して、反射波を無視するように信号を処理している。具体的には、面積の大きい物体からの反射波は出力も大きいので、ある程度以上の大きさの反射波は無視するようにしているわけだ。これが、大きな物体からの反射波を認識しないようにしている理由である。

 このほかにも、路面にあるマンホールのフタからの反射波など、誤認識につながる物体は路上にたくさんある。だから、ミリ波レーダーでは、いろいろな「ノイズ」が混ざった反射波の中から、先行車両や歩行者、自転車など避けるべき障害物を検出するために、様々なフィルターをかけなければならないのだ。不幸なことに、今回のように真横になったトレーラーの側面のような物体は、現在の運転支援システムにおいては、面積が大きすぎて検出の対象外だったのである。

システムの限界を知る

 もちろん、運転支援システムを開発しているエンジニアは、こうした現在の技術の限界を承知しており、その改良に取り組んでいる。カメラで車両の側面を認識できないという問題については、画像を処理するプロセッサーの性能向上や、車両の側面を登録した「辞書」の整備により対処できるし、ミリ波レーダーでは、物体がどこにあるかを検知する能力を向上させることで、大面積の物体でも、それが路上にあると検知できれば障害物だと認識することが可能になる。2018年~2020ごろにはこうした機能を盛り込んだ運転支援システムが実現すると見られている。ただし、そうした改良が実現する前に今回の事故は起きてしまった。

 二つの問題があるだろう。一つは、ドライバー側の問題、もう一つはメーカーの問題である。まずドライバー側については、当たり前のことだが、システムの限界を知って使うということが大前提になる。すでに多くの方面から指摘されていることだが、現在の運転支援システムは、自動運転システムではない。ドライバーがシステムの状態を絶えず監視し、安全を確保しながら使うことを肝に命じなければならない。

 

 しかし、である。もちろんドライバーが安全確保の最終責任を負っていることを承知のうえで言うのだが、現在の運転支援システムで「システムの状態を絶えず監視し、安全を確保する」というドライバーの義務を果たすことは、じつはそれほど容易なことではない。テスラでいえば、オートパイロットの作動状況はメーター内のディスプレーに表示され、カメラが車線を認識しているかどうか、前方の車両を認識しているかどうか、あるいは隣の車線の車両を認識しているかどうかなどについて、ドライバーは知ることができる。ただし、今回のようなケースで、ドライバーがクルマの動作状況を監視していれば事故を防げたかどうかを考えると、疑問符をつけざるを得ない。

テスラ・モデルSのメーター内のディスプレー。車線を認識しているかどうか、先行車両を認識しているかどうかなどを表示する。    テスラディスプレイp3

 というのも、いくらドライバーに監視の義務があるとはいえ、メーター内のディスプレーと、外の景色を絶えず見比べながら、間違いなくシステムが作動しているかどうかを監視し続けるというのはドライバーにとってかなりの負担であり、現実的ではないからだ。そんなことをするくらいなら、自分で運転するよ、という読者も多いだろう。せっかく運転支援システムに運転を任せているのだから、景色を楽しむ余裕くらいあっていいはずだ、と考えてもばちは当たるまい。となれば、本来はクルマ自身がシステムの限界を自覚し、システムの限界を超える状況になったら、しかるべき余裕を確保したうえで人間にそれを知らせ、人間に運転を明け渡す、というほうが現実的だ

 そのときに人間がスムーズに運転を代わるためには、やはりステアリングから手を離していてはダメで、軽く添えているだけにせよ、手を触れている必要があるだろう。すでにテスラ以外のメーカーの運転支援システムでは、1015秒程度ステアリングから手を離していると、システムが解除される設定になっている。

 これに対して、テスラのオートパイロットは、この連載の第46(次に掲載、テスラで手放し運転の誘惑に駆られるで紹介したように、ステアリングから手を離しても長時間にわたってシステムは解除されない。米国の「コンシューマー・レポート」のウエブサイトは714日、「Tesla's Autopilot: Too Much Autonomy Too Soon」という記事を掲載し、この中で、ステアリングに手を離したらシステムが解除される機能を盛り込むように求めているが、現段階ではその判断は妥当だろうと筆者は考える。

 運転支援システムの利便性と安全性をどのように両立していくべきか。その最新の例として、次回は日産が713日に発表した運転支援システム「プロパイロット1.0を取り上げ、その考え方を紹介したい。

このコラムについて

クルマのうんテク

2013年に、トヨタ自動車グループの世界生産台数が、世界の自動車メーカーで初めて1000万台を超えるなど、日本を代表する製造業である自動車産業。その一方で、国内市場では軽自動車がシェアの約4割に達し、若者のクルマ離れが話題になるなど、クルマという商品がコモディティ化し、消費者の関心が薄れていると指摘されている。しかし、燃費向上競争の激化や安全性向上ニーズの高まり、さらには今後の自動運転技術の実用化に向けて、外からは見えにくいクルマの内部では大きな変化が起こっている。このコラムでは、クルマのテクノロジーに関する薀蓄(うんちく)を「うんテク」と命名し、自動車エンジニアの見えざる戦いの一端を紹介したい。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/264450/071500039/?P=1

(続く)