それともすでにそのような形に切り替わっているのかも知れない。
トヨタは2016.3.2に4月18日付での組織改正や人事異動を発表している。
豊田章男社長は、新体制に向けて「組織改正は『ソリューション』ではなく、『オポチュニティ』である。皆で力をあわせ、この新しい体制を『もっといいクルマづくり』と『人材育成』を促進する『オポチュニティ』にしていきたい。この組織改正を将来の正解にするのも、間違いにするのも私たち自身である」と述べて、早速、相談や決済の役は、専務や副社長などの上級役員達に卸している。さすがやることが早い。
1,000万台の壁をこの組織改正で打破しようとしている、と思われる。即ち、商品・製品企画、開発・設計、生産技術、生産管理、製造などの縦割りだった機能管理を、カンパニー制として車種別にすべて割り振ってしまった。この車種別カンパニーに、これらのすべての機能を分割して割り振ったのである。だから車種別カンパニーでは、製品企画から製造まで一気通貫で仕事が出来るようになったのである。車種別に生産会社(カンパニー)が出来たようなものである。
当然その会社(カンパニー)には、社長が存在することになる。これを「プレジデント」と呼んでいる。
即ち、豊田章男社長は、各プレジデントに社長の権限を委譲したのである。
そして豊田章男社長の仕事と言えば、当然各プレジデントの統括とそこから見える将来への考察、となる訳である。その表れが、「決済」から「相談」への社長室の在り方が変わっていったことなのではないのかな。平たく言うと、こんな形で「もっといいクルマを作ろうよ」と言う事なのである。
このトヨタの2016.4.18付の組織改正の具体的な概略を述べると、次のようになろう。
(1)先に述べた機能には、販売・調達・人事などの機能が含まれていない。いわゆるモノづくりの機能を中心に話したが、販売機能は車種別に分けずに地域別に、第1トヨタと第2トヨタと2つに分けた組織が担当している。
1.第1トヨタ-(President)ディディエ・ルロワ副社長58才ルノーから1988年にトヨタMmanufacturing Franceに入社し、現在欧州トヨタの社長兼CEO、欧州トヨタの立て直しに貢献。2012年には、トヨタ本体の専務役員・欧州本部長に就任している。そして初の外国人副社長となる。
先進国・北米本部、欧州本部、アフリカ本部、国内販売事業本部
2.第2トヨタ-(President)小寺信也常務役員54才、常務ながらプレジデントに抜擢
後進国・中国本部、アドア・中東・北アフリカ本部、東アジア・オセアニア本部、中南米本部
(2)モノづくりの各機能を車種別に割り振って、カンパニー制としたものは、以下の7つのユニットである。中短期のモノづくりを担当する。以上の(1)(2)がいわゆる9つのビジネスユニットである。
3.Toyota Compact Car Company -(President)宮内一公専務役員59才、北米での経験豊富
小型車・200万台規模、アクア・ヴィッツ・カローラ、トヨタ自動車東日本(株)
4.Mid-size Vehicle Company -(President)吉田守孝専務役員58才、
乗用車・500万台規模、クラウン・カムリ・プリウス
5.CV Company-(President)増井敬二専務役員61才、欧州担当が長い
商用車・250万台規模、ランドクルーザー・ノア/ボクシー、トヨタ車体(株)
6.Lexus International Co.-(President)福市得雄専務役員64才、転籍先から復帰、デザイン畑
レクサス・60万台規模、高級車
7.先進技術開発カンパニー-(President)伊勢清貴専務役員61才、
自動ブレーキ、自動運転、Chief Safety Technology Officer
8.パワートレーンカンパニー-(President)水島寿之専務役員57才、アイシン精機副社長よりトヨタへ エンジン、トラスミッションなど
9.コネクティッドカンパニー-(President)友山茂樹専務役員57才、
TOYOTA Gazoo Racing Factory(副本部長)、カーナビ、ネット対応
(3)ヘッドオフィッスとしては、中長期の商品企画や技術開発を担当する機能や人事、経理、調達などの機能が必要となる。これはいわゆる本社機能と言われるものであろう。以下の三つ。
10.コーポレート戦略部-(統括)寺師茂樹副社長61才、戦略副社長会事務局長
TNGA企画部、商品・事業企画部、総合企画部
11.未来創生センター-(統括)加藤光久副社長63才、開発子会社より復帰、長期的研究開発
豊田中央研究所を中心にグループの将来分野の研究を集約
12.全社機能-(統括)伊地知隆彦副社長63才、東和不動産社長より復帰
購買、経理、情報、人事、生産管理 、Chief Financial Officer
(4)AI人工知能研究センター
13.Toyota Reserch Institute(TRI)-CEO(最高経営責任者)Gill Pratt氏
これについては、2016.8.15のNO.86~の当ブログを参照のこと。
以上今回の組織改正の主だった組織の体系を羅列してみた。一瞥してみると、なんとなく事業部制のような感じもするが、豊田章男社長の頭の中は、中長期の先を見据えているのであろう。
「週間東洋経済」の2016.4/9号には、創業家出身であるがゆえに30年先を見越して経営をしている、と記述されている。これで「ライバルの嫌だと思うことをやればいい。数年先のことは他人に任せ、自分は30年先を見据えた経営をすればいい。」と考えているに違いないと記述されている。
燃料電池車「MIRAI」を発売したことや、米シリコンバレーにTRIを設立したことなどがその表れで、短期的な成果を求めていない。
この組織を眺めると、7.先進技術開発カンパニーと9.コネクティッドカンパニーとの関係が少し気に掛かる。今はやりの「自動運転」などは将来の技術ではなくて、今の技術として扱っている、と思われるが、社会構造の変貌などを考えると明らかに未来の技術と言う性格も持ち合わせている。TRIがどのようにこれらの組織に絡んでゆくのか、見ものである。
それと同じことが、ヘッドオフィッスとビジネスユニットとの関係にも当てはまる。
各ビジネスユニットが自分最適で経営をしてゆくと、全体最適にそぐわない事態を招くこともあり得るのではないのかな。そこで、ヘッドオフィッスとビジネスユニットとの調整問題が発生してくる。社長を含む上級役員の腕の見せ所となろう。
同じことはビジネスユニット間でも起こり得ます。即ち第1、第2トヨタと車両カンパニーとパワートレーンカンパニーとの間の関係だ。この3カンパニーは後工程と前工程の関係となる。車両カンパニーはユニットカンパニーからエンジンや、トランミッションを買い、全社機能が決めた人材や部品を調達して車両を生産して、第1、第2トヨタに完成車両を売ることになる訳だ。第1、第2トヨタは、各カンパニーから買った車両を、お客さんに売ることになり、当然競争社会ですから、その車両が他社の車両との競争にさらされることになる。当然各カンパニー間やヘッドオフィッスとの関係はドライにならざるを得ない。
如何にその間のコミュニケーションをうまくやるかが、今まで以上に問題となるでしょう。ある意味責任の所在がよりはっきりして、その点、やりやすくなることもあるかもしれないが、まあこれは永遠の課題なのでしょう。
これは偉大な実験なのである。その調整にいちいち社長が引っ張り出されていては、本末転倒となる。プレジデントの腕の見せ所となるでしょう。その結果次の社長候補が決まってくるものと思われる。
まあこれまでは各車両と各機能との掛け算で、調整作業が(理論上)あったことになるのであるが、これからはそれは車両カンパニーやパワートレーンカンパニーのプレジデントが行うことになる。今までの社長の役割だったものが、各プレジデントに卸されたことになる。
この組織改正の目的の三つ目に、次期社長候補の育成があると記述されている。まさにその通りなのでしょう。これも豊田章男社長発案なのではないのかな。
目的の一つめが一千万台に対応した体制作り、二つ目が、機能別組織の再編による活性化となっている。
この組織改正は豊田章男社長のアイデアを、社内のしかるべき部署・組織でしっかり煮詰めて具現化している筈なので、社長が常に調整役のようなことはないであろう。
得てして豊田章男社長の発案した事案に関しては、衝動的なもので実を結んでいないものもあった。
2010年にテスラと(衝動的に)提携した事業は、トヨタの大企業病を治すために仕事のやり方をベンチャーのテスラに学ぶためのものであったようだが、その後提携を解消して日の目は見ていない。
(続く)