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続・次世代エコカー・本命は?(118)

「大学生の時に、GMの工場のモーター組み立て部門で半年間のインターンを経験して入社を決めたと後に語っています。父は自動車販売会社に入り、郵便係から副社長まで上り詰めた人物。ミシガンの無名大学出身の彼女も同じ道を歩むのです」(ニューヨーク在住の日本人記者)

 ハンプ氏は、パーツ組立工場に配属され、工場見学ツアーのガイドや、企業PRビデオの制作などを担当する。六年後には工場のコミュニケーション部門の責任者に昇格し、広報の専門家として頭角を現していく。

GMでは南米、中東、アフリカの最高広報責任者(CCOを経て、GMヨーロッパの副社長になり、スイスのチューリッヒに赴任していたこともあります。語学はスペイン語が堪能。アメリカ国内も含め、十度以上引っ越しています。グローバル企業で評価される世界各地の経営の経験を積んだ上で、ペプシコに移籍した。CCOとして、人々が健康に生きていけるように、との目標を打ち出し、自社製品からナトリウム、脂肪分、砂糖の使用量を減らす自然派の経営方針を打ち出しました」(同前)

 二〇一二年CCOとして、北米トヨタに移籍する。そして、今年四月、複数の候補の中から、本社役員に抜擢されたのだ。
「彼女は先輩や同僚に気をつかえて、周囲にいる人を鼓舞するのがうまい。彼女自身は非常にエネルギッシュで、仕事の結果に対する情熱と、あくなき勝利への意欲にあふれています」(トヨタ関係者)

アキオの心を奪ったみたい

 ハンプ氏の存在は、北米トヨタに入社した直後から、豊田氏の目にとまっていた。彼女が「アキオの心を奪ったみたいなの」と後に米誌で振り返る出来事が起きたのは、ワシントンでの朝食会議

 ドイツのニュルブルクリンクで開かれるカーレースが話題になったときだった。彼女は、キャデラックで、このコースを走ったことがあった。
「コーナーを曲がって、トップに立った時、見えたのは空だった。そのとき、左に曲がったか、右に曲がったかも分からない状態だったの」

 レースを振り返るハンプ氏に、豊田社長は一瞬息をのんで、こう聞き返した。
君、ニュルブルクリンクを走ったことがあるの?

 このコースは、レース好きなら、誰もが知る“聖地”だ。「モリゾウ」の名前でレースに参加するほどのクルマ好きで知られる豊田社長に、ハンプ氏は強い印象を残した。

 こうして叩き上げのハンプ氏はセレブの仲間入りを果たしたのだ。

「二〇一二年八月には、ロサンゼルスのマンハッタン・ビーチに三階建ての邸宅を約二億六千万円(三百二十三万ドル)で購入しました。敷地は約四百m?。この地域は、ロサンゼルスでも随一の高級住宅街として知られ、ハリウッド関係者やスポーツ選手が住んでいます。二年後に売却したときの価格は約四億六千万円でした。日本に赴任するまでは、テキサス州ダラスで勤務していましたが、ここの邸宅もダラスでは屈指の住宅街にあり約一億一千万円ほどの物件です」(同前)

 家族は二歳上で自動車業界で働く夫と、二人の娘がいる。ハンプ氏はツイッターに、娘の写真をしばしばアップしている。
「一三年八月には、娘のフロリダ州立大学の卒業祝いに、約八十万円のロレックスと高級シャンパンのクリスタルを贈っています」(同前)

 一方で、ツイッターのプロフィール欄には、女優キャサリーン・ヘップバーンの「全てのルールに従っていたら、全然楽しくない」という言葉を載せるなど意外な一面も見せる。
「彼女はジミ・ヘンドリックスのファン。また、ドラッグ文化の旗手であるハンター・トンプソンの名言をリツイートしている。彼女が住んでいたロスのマンハッタン・ビーチはサーファーにとっての憧れの海であり、西海岸のセレブには、ドラッグなどのヒッピー文化に理解がある人も多いのです」(同前)

 北米トヨタ時代には、当時世界中で流行していたALS筋萎縮性側索硬化症)を支援する「アイス・バケツ・チャレンジ」に挑戦した。

 彼女は、トヨタ燃料電池自動車FCV)をバックに、「エンジンから排出された水をこれから私がかぶるバケツに入れます」と語って、氷水をかぶって見せたのだ。

 日本に赴任した彼女の住まいは、六本木の超高級ホテルだった。
「安倍首相が年末年始を過ごすことで知られます。スタンダードルームでも一泊七万四千円。一カ月で、二百二十万円を超えます」(経済部記者)

 常務役員となったハンプ氏は、渉外・広報本部副本部長として、百四十名の広報部門を率いた。

「彼女は、日本語が話せないため、社内での会話は英語。帰国子女で英語を話せる若い男性部員が、通訳を兼ねて秘書についていました。『十分間ミーティング』と称し、できるだけ、部員と直接コミュニケーションをとろうと、ゆっくりとした英語で話していました。広報部の宴席では、食事に手を付ける余裕もないほど、各テーブルをまわっていましたね。服装はダーク系のスーツで地味。家族のことは気にかけていて、しょっちゅう電話していました。ご主人も秋に来日するはずでした」(トヨタ社員)

 突然の逮捕劇トヨタ社内では、驚きとともに同情的な声が多いという。逮捕当日にトヨタが出したコメントからもそれは窺える。
〈今後の捜査を通じてハンプ氏に法を犯す意図はなかったということが、明らかにされると信じています〉

 翌十九日午後五時、トヨタ東京本社の地下一階の会見場で、豊田社長は約二百人の報道陣を前に、こう切り出した。
「ハンプ氏は私にとってもトヨタにとっても、かけがえのない大切な仲間でございます」

 そして、「従業員は私にとって、子どものような存在です。子どもが迷惑をかければ謝るのは親の責任」と続け、「ハンプ氏に法を犯す意図はなかったと信じています」との言葉を四回繰り返した。

 危機管理コンサルタントの田中辰巳氏は、豊田社長が迅速に会見を開いたこと自体は、評価しつつも、内容には疑問を呈す。

『仲間』と言ったことで、お友達経営との印象を与えてしまった。身内をかばう気持ちを乗り越え、公の場では、厳しくするのがプロの経営者です
 別のトヨタ関係者も語る。

「社長の会見については、広報部門の役員も含め、社内で反対意見もあったが、豊田社長が『自分の言葉で説明したい』と押し切った。今後、社長が会見するハードルが低くなりかねません。通常、社員の不祥事に対しては、『捜査には全面協力する』と書面で出して、捜査の行方を見守るのがセオリー。刑事事件にもかかわらず、『信じる』とのコメントには驚きました

「麻薬だと分かって輸入」

 ハンプ氏が密輸したとされるオキシコドンは、セレブの間で中毒者が増えており、アメリカで社会問題化しているという。薬物依存更生施設「東京ダルク」の近藤恒夫氏が解説する。
「もともとは末期ガン患者に使用される鎮痛剤で、医療用麻薬です。モルヒネが効かない患者に使われるため、相当強く、乱用すると多幸感と陶酔感が得られ、抜け出せなくなります。医者の処方箋があれば手に入るので、医師にパイプのあるエリートやセレブを中心に、乱用が広がっています。〇九年に亡くなったマイケル・ジャクソンも、オキシコドンの依存症でした」

 近年は中年女性の中毒者が急増しているという。米国事情に詳しい小森榮弁護士が話す。
「女性の社会進出に伴い、家庭では良妻賢母、会社では有能なビジネスウーマンと、完璧を求めるあまりに慢性的なストレスや疲労を抱えてしまう。そのため、あっという間に依存してしまうのです。米国では医療用麻薬への取り締まりが緩く、末端の使用者は、警察から警告を受ける程度で、逮捕されるケースは少ない」

 ハンプ氏の抜擢から三カ月たらずで、思わぬ躓きを見せたトヨタダイバーシティ経営。女性活用やガバナンスコードなどの安倍政権の方針を受けて、トヨタに限らず各社とも、外国人や女性を経営陣に加える動きが加速しているが、日経新聞の論説主幹を務めた作家の水木楊氏は、その難しさについて、こう指摘する。

「単に外国人や女性を役員にすればいいとの安易な考えは失敗を招く恐れもあります。企業が自らを世界にきちんと説明できるようになることが、本当の意味でのグローバル化です。特に広報は、自分たちの企業カルチャーを熟知していないと務まらない。

 日本には『李下に冠を正さず』という言葉がある。今回の事件は、犯意の有無に関わらず、日本企業の役員としては失格です」

実がなっている李スモモの木の下では実を取ると疑われないように、冠を直さない。疑わないようにすること。

 ハンプ氏は、現在は原宿署に勾留され、事情聴取を受けている。

 前出の捜査関係者は立件に自信をのぞかせる。

「薬物事案は、プライベートを知る人間でないとわからない。身近な人間に裏切られたと

いうことでしょう。彼女に関する確度の高い情報提供があり、それに基づいて捜査したところ、犯罪事実が確認された。ハンプ容疑者は、取調べに対して、麻薬だと分かって輸入したことをすでに認めている。強力なヤメ検弁護団を使って国外退去処分は避けたいと考えているようです」

 保釈後に、彼女は広報のプロとして、どう説明責任を果たすのだろうか。

週刊文春201572日号

 

http://9321.teacup.com/sinpo/bbs/1689

(続く)