続続・次世代エコカー・本命は?(20)

だから「EV事業企画室」とはすぐにEVを作る組織なのか(どうかは判然としないが)、今更どんなEVを作るか企画しても仕方がないのではないのかな。もしそんなことが必要となるのなら、トヨタはとても遅れていることになる。

 

トヨタ社内やトヨタグルーブ内での役割分担の割り振りを決める、と言うのならわからないでもないが、(素人的に考えると)グループ内でバッテリーをどう作るのか、と言うのが最大の関心事ではないのかな。だからどこでどんな性能のバッテリーを作らせるか、を考えるということなら少しは解るのであるが。今頃どんなバッテリーを作らせるか、などと考えているのであれば、相当遅れていることになるので、やはり(EVの構成要素はすでに出来上がっているので)どのようなEVを作るか、ということであろう、と理解したい。

 

トヨタリチウムイオン二次電池の開発もやっており、今回発売した「プリウスPHV」はHV車のニッケル水素電池ではなく、リチウムイオン電池を積んでいる。先代のPHVと比べると性能は2倍以上となっている。

 

         PriusPHV  先代PHV ゴルフGTE アウトランダーPHEV

EV走行距離  68.2km   26.4km   53.1km   60.8km

Batt.総電力量 8.8kwh    4.4kwh   8.7kwh   12kwh

Batt.総質量   120kg     80kg  

 

このようにバッテリーの性能は2倍となっているが、重量は5割増しに抑えている。しかし120kgリチウムイオン電池をラッゲージの下に格納しているために、重量の関係でリアドアをCFRP炭素繊維強化樹脂Carbon Fiber Reinforced Plastics)製として軽量化を図っている。しかもダブルバブルと呼ばせている波だった形状のため、その成型が難しく深刻な生産遅れが生じて、国内発売を半年も遅らせることとなってしまったことはすでにご承知のことと思う。しかもそのBatt.の重さのためにリアシートの乗員は2名にせざるを得なかったようで、はなはだ残念である。

 

それと、このプリウスPHVも完全なZEV対策車なので、アメリカで半ば専用で売るつもりなのではないのかな。だから5人乗りなどに拘(こだわ)る必要はなかったものと思われる。我々にとっては、孫を連れて子供夫婦が帰省した時には、リア席に3人乗せる必要があり、5人乗りは必要なのだが。だから小生にとっては期待していたのであるが、買い替え候補から外さざるを得ないのである。

 

ことほど左様にバッテリー性能には、神経を使うものである。トヨタは以前はリチウム空気電池を持ち上げていたが(http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130218/266471/?P=1 を参照のこと)、今はリチウム空気電池から、アルミニウム空気電池に研究の主眼を移しているようで、EVにはこの電池を使うつもりのようだ(とは小生の憶測であるが)。性能としては、リチウムイオン電池の10倍の性能は期待できると言う。

 

するとトヨタの電気自動車は、400~500kmの航続距離のものとなるのではないのかな。但しこの手の性能のEVの発売は、小生の全くの推測ではあるが、2020年頃となろう。ただ2018の加州のZEV規制を乗り切らなければならないために、そこそこの性能のEVは今年中には発売するのではないのか、とも思っている。

 

 

 

蓄電・発電機器:リチウムを超える「アルミニウム」、トヨタの工夫とは

201612210900分 更新

電気自動車に必要不可欠なリチウムイオン蓄電池。だが、より電池の性能を高めようとしても限界が近い。そこで、実質的なエネルギー量がガソリンに近い金属空気電池に期待がかかっている。トヨタ自動車の研究者が発表したアルミニウム空気電池の研究内容を紹介する。開発ポイントは、不純物の多い安価なアルミニウムを使うことだ。

[畑陽一郎スマートジャパン]

電気自動車100%への道

 自動車各社は環境に適合する車両の研究開発にまい進している。最終的にはガソリン車が、二酸化炭素を全く排出しない自動車に置き換わる形だ。

 現在は燃料電池車と電気自動車が実用化されており、中でも電気自動車が市場に受け入れられている。例えば米Ford Motor(フォード)の全米における自動車販売台数(乗用車)の内訳だ。201611月の販売台数のうち、5.9プラグインハイブリッド車や電気自動車が占めている。

 米Bloomberg20166月に発表した予測「New Energy Outlook 2016」によれば、2040には電気自動車の比率が新車販売において全世界で35に到達。総電力需要の8%を占めるに至るという(関連記事)。http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1606/17/news031.html

 電気自動車の動力源は電気であり、内蔵する電池から電力を得ている。現在はリチウムイオン蓄電池(二次電池)を利用しており、構成材料である正極や負極、電解液などの材料開発が続いている。

金属空気電池に期待がかかる

 だが、リチウムイオン二次電池の性能(容量)には理論上限があり、現状は上限に近い水準にある。「トヨタ自動車では、将来に向けて全方位的に環境車両の開発を進めている。われわれのグループは電気自動車向け、すなわち高容量の電池に関する研究を中心に行っている。現在高容量の電池としては金属空気電池が知られている。高容量の金属の負極と大気中の酸素を組み合わせることで劇的にエネルギー密度を高める機構だ」(トヨタ自動車 東富士研究所 電池材料技術・研究部 電池研究室で主任を務める陶山博司氏)1

 金属空気電池の性能はどの程度なのだろうか。図1に主な金属空気電池の重量エネルギー密度を示した21kgの金属に何ワット時(Wh)の電力を蓄えられるかという理論容量の比較だ。

120161129日~121日に幕張で開催された「第57回電池討論会」における発表「NASCN電解液添加によるAl空気一次電池負極の放電特性改善」より。
2Md. Arafat Rahman et.al,"High Energy Density Metal-Air Batteries: A Review" Journal of The Electrochemical Society, 160(10) A1759-A1771(2013) に掲載された数値に基づき、本誌が作成



 
1 主な金属空気電池の重量エネルギー密度(理論値) アルミニウム空気電池はリチウム空気電池に次いで2番目にエネルギー密度が高い。左端に参考例として示したリチウムイオン蓄電池の10倍程度の容量である 出典:High Energy Density Metal-Air Batteries: A Reviewに掲載された数値から作成

 ガソリンのエネルギー密度は13000Wh/kgと圧倒的に高い。ただし、ガソリンの燃焼エネルギーを運動エネルギーに変換する効率は低く、注2の論文によれば、実際に利用できるのは1700Wh/kgだという。

 これに直接対抗できるのが金属空気電池だ。ただし、金属空気電池にも扱いにくい性質がある。「リチウム空気電池は非常に課題が大きい。亜鉛空気二次電池は繰り返し充放電によってデンドライトが生じ、電池の内部短絡が問題になる」(陶山氏)。リチウム空気電池には、電解液の種類によるものの、負極の保護層が腐食しやすいことや、過電圧(損失)が大きい、大電流を取り出しにくいといったさまざまな課題がある。

 そこでアルミニウム空気電池、それも一次電池に注目したのだという。「亜鉛やリチウムの空気電池で生じる問題が起きず、高出力で高安全な電池ができる」(陶山氏)。自動車に適した性質だ。

 アルミニウムは入手できる金属のうち、最も資源量が多い(クラーク数)。鉄をも上回る。このため、自動車に大量採用された場合、希少なリチウムに対して優位性がある。鉱石から金属を生成する際に多量の電力を必要とするものの、再生可能エネルギー由来の電力を使えば二酸化炭素排出増にはつながらない。使い終わったアルミニウム化合物は再度金属に戻すことが可能だ。金属アルミニウムの製造、再利用を含めて電池として捉えることもできる。

 

 

充電できない電池が役立つ

 研究対象となった一次電池は充電ができない。いわば使い切りの電池だ。これは電気自動車には適さない性質ではないだろうか。

 「車載電池の容量は現在でも非常に大きい。これを一般的な電気プラグで急速充電しようとすると、電池側がどんなに頑張ってもインフラが制約になってしまう。それに対して金属空気一次電池では放電後のバッテリーパックを交換する『メカニカルチャージ式』を採用することで、急速補充が期待できるのではないかと考えている」(陶山氏)。

 急速充電器は、普通充電器よりも高価だ。さらに短時間で充電しようとすると大電流を扱う機器が必要になるという主張だ。電池本体を交換式にしておけば、電池の容量が多くなっても交換に必要な時間はさほど変わらない。容量が100%残っている電池を差し込めば、そのまま「満充電」状態になる。

(続く)