続続・次世代エコカー・本命は?(33)

日産新型ノート、「充電不要EV」がウケた理由

新駆動方式「e-POWER」をセレナにも搭載へ

木皮 透庸 :東洋経済 記者

2017315

 

エンジンで発電し、モーターで走る「ノートe-POWER」。発売後4カ月が経っても、人気を保っている(撮影:尾形文繁) ノート

ガソリンエンジンはあくまで”発電機”、車を動かすのはモーター。201611月、日産自動車のコンパクトカー「ノート」に新たに加わった駆動方式「e-POWER」はそんな仕組みだ。分類上はハイブリッド車HV)だが、すべての車速域をモーターで駆動する新方式である。

このe-POWERの販売が好調だ。ノートの月間販売目標は1万台だが、e-POWERを発売した201611月の月間販売台数は15784で、軽自動車を含む国内全モデルの中で首位に躍り出た。日産車としては19869月の「サニー」以来実に30年ぶりとなる「歴史的快挙」(日産マーケティング担当者)を達成した。

e-POWERが目標を超える売れ行き

e-POWERの仕組みは電気自動車ともハイブリッド車とも異なる(201611月の発表会にて、撮影:尾形文繁) ノート

その後もe-POWER人気は続いている。20172月まで4カ月連続で1万台の目標を大きく上回った。2月の販売台数も登録車で2位となる14859台となり、前年同月比で5割増を記録。内外装は2012年に発売した旧型モデルと変わっていないだけに、e-POWER効果の大きさを表している。

ノートには従来どおりガソリン車の設定もあるが、足元では購入客の7割がe-POWERを選択e-POWERの最量販モデルの燃費はガソリン1リットル当たり34キロメートルと、同グレードのガソリン車の23.4キロを大きく上回る。ただその分、価格も46万円ほど高い。それでも顧客から選ばれていることについて、日産日本マーケティング本部の南智佳雄チーフマーケティングマネージャーは、「e-POWERが持つ新しい価値を認めてもらえている」と満足げだ。

「新しい価値」には大きく分けて二つある。一つは加速のよさだ。通常のガソリン車はエンジン内でガソリンと空気を混合し爆発を起こしてピストンを回すため、アクセルを踏んでも動力を生み出すまでにはコンマ数秒ながらタイムラグがある。一方、モーターで車軸を動かすe-POWERではそのタイムラグはほぼなく、アクセルを踏んだ瞬間に車が動き出す。

モーターならではの加速のよさは、日産が電気自動車(EV)「リーフ」の開発で培ってきた技術により実現されている。実はe-POWERの開発は、リーフが2010年に登場する前の2006年から始まっていた。足掛け10年で市場へ投入した新技術の完成度に、日産は強い自信を持っている。

もう一つは、アクセルペダル一つで加減速を可能にしている点だ。e-POWERではアクセルペダルを離したときに強めに減速することができる。慣れればペダル一つで速度調整や停止が可能となり、ブレーキペダルへの踏み換え頻度が大幅に下がる。

これは減速時のエネルギーを回収して駆動用電池に充電する「回生協調技術」を応用したもので、エンジンブレーキよりも減速度合いは強い。日産の実験ではe-POWERを運転した場合、市街地走行でブレーキペダルに踏み換える回数が従来車より約7割減るという。

来店客の試乗を徹底的に促進

東京・目黒にある日産ディーラーでは、店先に試乗車がずらりと並べられていた(記者撮影)

ただこうした訴求点は、いずれも一度車に乗ってみなければわからない。日産は「”来店者の100%試乗”を目標として掲げた」(南チーフマーケティングマネージャー)と言うほど、e-POWERの試乗に力を入れる。

多くの販売店で、1店舗当たり2台の試乗車を用意した。車検や点検などで販売店を訪れた人には、乗っている車種にかかわらず積極的に試乗を提案している。

実際に試乗の効果も表れ始めている。東京日産自動車販売の「新車のひろば目黒店」では最近、3年前に旧型ノートを購入した顧客が早くもe-POWERへの乗りかえを決めた。その顧客は初回車検で店を訪れた際、待ち時間にe-POWERを試乗して加速感が気に入り、「車検代って戻ってこないよね?」と苦笑いしながら購入を即決したという。

テレビCMでは「どこまでも走れる電気自動車のまったく新しいカタチ」というキャッチコピーを打ち出し、航続距離に不安を覚えてEVとは距離を置いていた消費者の目も向けさせようと試みている。従来のノート購入者は他社ユーザーが2割だったが、e-POWERの発売後は3割にまで上がった。

前出の目黒の販売店でも、今年に入ってトヨタ自動車やホンダなど他社ユーザーの来店が増えており、販売員が試乗を促す前に、顧客から「e-POWERに乗りたい」と言い出すことも珍しくないという。この店における2月のノートの試乗回数は1営業日当たり14.1回で、前年同月から4割以上伸びた。

e-POWERはセールストークで引きつけやすく売りやすい」と同店の白井正明マネージャーは話す。高速道路での合流や追い越しでの加速がよいことや、下り坂や雪道ではフットブレーキを使う頻度が下がることなど、安全性や使い勝手を強調すると顧客の反応がよいという。

もちろん、試乗した人すべてが購入に動くわけではない。ただ「モーターで走る車はどんなふうに動くかということを知ってもらうだけでも、将来の日産の電動車購入につながる資産になる」(日産の南チーフマーケティングマネージャー)。

ミニバン「セレナ」もe-POWER搭載へ

日産は昨年8月に発売した新型ミニバン「セレナ」にもe-POWERを搭載するもようだ(撮影:尾形文繁) セレナ

足元の人気の波に乗るべく、日産はe-POWERの他車種への搭載も始めようとしている。同社と取引のある複数の自動車部品メーカーや日産系販売会社によると、売れ行きが好調なミニバン「セレナ」にもe-POWERを搭載し、2017年度中に発売する準備を進めているもようだ。

EVの世界リーダー」を自負する日産はこれまでに世界で約29万台のEVを販売してきた。主力車「リーフ」は発売から6年が経過。201511月には満充電時の航続距離を旧型の200キロから280キロへ引き上げる商品改良を行った。2016年の国内販売は約15000台と前年から約6割増えたものの、本格的な普及につながっているとはいいがたい。

この数年でEVを取り巻く環境は大きく変わった。米新興EVメーカーのテスラ35000ドル~の普及価格帯で、航続距離345キロの新型「モデル3の生産を2017年半ばにも開始する。初期の受注は37万台を超え、自動車業界に衝撃を与えたことは記憶に新しい。米ゼネラル・モーターズGM)は航続距離380キロのEVボルトを米国で発売。補助金を受けると約3万ドルで購入できる。航続距離の長いEVが手頃な価格で買える時代は少しずつ近づいている。

日産もリーフの刷新を含め、EVの開発を加速している。今後投入する新型EVに消費者を振り向かせることができるか、電動車への理解を深めてもらううえでも、ノートe-POWERが担う責任は大きい。

http://toyokeizai.net/articles/-/162411?page=3

 

 

まあ、このe-POWERの発電用エンジンの代わりに、燃料電池を載せればFCVとなる訳である。そうすればCO2が全く排出されない完全な環境対応車となる訳であるが、日産の燃料電池車については何やら開発方針が定まっていないようで、水素社会の到来に対しては困ったわけではないがこのことは後に触れよう。

(続く)