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続続・次世代エコカー・本命は?(35)

トヨタに必要なのは「プリウスからの卒業」

「燃やさない文明」のビジネス戦略

時代は電気自動車―「ノートe-POWER」に見る「新しい形」

20161221日(水)

村沢 義久

 日産自動車の「ノート」が、201611月の車名別新車販売台数で初めて首位に立った。11月の販売台数1万5784。前年同月比2.4倍というからまさに大躍進だ。日産車が月間販売で首位となるのは「サニー」以来30年ぶりらしい。

躍進の原動力「e-POWER

201611月の車名別新車販売台数で首位に立った日産ノート

 「ノート」躍進の原動力は11月2日に発売した新型ハイブリッド車ノート e-POWER」。発売3週間後の1123日時点での「ノート」全体の受注台数2348台(月間販売目標の約2倍)の内、実に78%が「e-POWER」車であった。一方、10月に首位だったトヨタ自動車プリウス」は3位に後退している(軽自動車を含む順位)。

 e-POWER」の躍進と「プリウス」の後退。まさに、これからの自動車産業の方向を示す事件だ。それは、一方が未来に繋がり、もう一方は今後の進化に限界があるからだ。

 ハイブリッド(HV)車には、大きく分けて「パラレル」、「シリーズ」の2方式がある。「パラレル」方式では、ガソリンエンジンと電気モーターが同時に並列して車輪を駆動する。対する「シリーズ」では、車輪を駆動するのはモーターだけであり、エンジンは発電して電気をモーターに供給するだけだ。だから、走行性能的には純粋電気自動車(EV)とほとんど変わりがない。

 「プリウス」は、通常走行ではエンジンだけで走り、馬力の必要な時にはエンジンとモーターの両方を使う。発進時などにモーターだけで数km走れるので「シリーズ」的な面も持っているが、基本的にはパラレルタイプ。モーターは脇役で、走りも音もガソリン車そのものだ。

 対する「ノート e-POWER」は「シリーズ」方式。筆者が「究極のエコカー」と考える純粋EVに近いのはシリーズ方式、すなわち「e-POWER」の方だ。だから、同じHVでも進化の余地が大きく未来に繋がるものだ。

 通常の発進は、エンジンを停止したままバッテリーからの電力のみで行う。ただし、バッテリー容量は1.5kWhしかないので、バッテリーのみで走れる距離は最大でも10km程度。それ以上の走行のためにはエンジンをかけて発電する必要がある。

 エンジンはアクセル操作とは関係なく、バッテリー残量や車速に応じて最適な回転数に維持される。これがシリーズ方式の燃費の良い一つの理由だ。減速時には回生ブレーキにより発電した電力をバッテリーに充電するが、この点はパラレル型と同じ。

HVエコカーにあらず?!

 トヨタの看板である「プリウス」に危機が迫っている。11月の販売台数で「ノート」に負けたというだけではない。

 問題は、世界各国での規制の強化。米国カリフォルニア州では、各メーカーはそれぞれ一定比率以上の「エコカー」を売らなければならないというゼロエミッション(ZEV)規制があるが、その内容が強化され「2018年モデル」(2017年秋以降発売)からは、HVは「エコカー」とは認められなくなる

 世界最大の自動車市場である中国でも当局が手厚い補助金EVの普及を後押しするが、対象はEVPHVでありHVは対象外。ヨーロッパでも同様の動きがある。

 1997年に国内販売が始まった「プリウス」は20119月には国内累計販売台数が100万台を突破。また、2016年上期(16月)の車名別新車販売台数(軽自動車を含む)で、前年同期比ほぼ倍増の142562台で首位となっている。

 2000年からは、北米やヨーロッパなどでも販売を開始。現在では日本、北米を中心に世界で約70の国・地域で販売され、全世界での累計販売台数は、20164月末で約437万台に達している。

 その「プリウス」が世界の主要市場でエコカー」と認められなくなる。危機感を募らせるトヨタは当面「プリウス」のプラグイン化で対応しようとしているようだ。すなわち、「プリウスPHV」の推進である。

トヨタが期待を寄せるプリウスPHV。今冬の発売予定だ

 最初の「プリウスPHV」は3代目「プリウス」後期型をベースとして、2009に登場した。今冬に4代目「プリウス」ベースの2代目「プリウスPHV」が登場するという。

 トヨタ幹部の期待は大きいようだが、筆者は、トヨタの戦略世界の趨勢とずれていると感じる。ガソリン車→HV→PHV→純粋EVは確かに一つの流れであるから、HVPHV化自体には意味がある。

 ただし、この流れに乗り易いのはシリーズ型。詳しくは後で触れるが、シリーズPHVである「Volt」は初代のEVレンジは56kmだったが、2代目ではバッテリーを大きくすることにより85kmに延長している。今後さらにバッテリーを大型化し、エンジンを外せばそのままEVになる。「ノート e-POWER」の場合はその前にプラグイン化が必要だが、「ノート e-POWER」→「ノートPHV」→「ノートEVという進化は可能で、方向的には間違っていない。

 一方、パラレル型である「プリウス」の場合はそう簡単ではない。バッテリー容量を大きくすることは可能で、実際、EV走行(バッテリーのみによる走行)の航続距離は第1世代の26.4kmから第2世代では60km以上に伸ばしている。

 しかし、エンジンとモーターの両方で最大出力を発揮する構造のパラレル方式では、モーターだけで走るEV走行時には出力が半減してしまうという大きな弱点がある。さらに、「プリウスPHV」を「プリウスEV」に進化させようとすると、エンジンを外すと同時にプリウス」が誇る複雑で精巧な機構をほとんど捨てることになってしまう。

 「プリウス」は素晴らしい車だが、人類の進化におけるネアンデルタール人のように、現生人類(純粋EV)につながらない存在と感じる。今トヨタに必要なことは「プリウス』からの卒業」である(「プリウスPHV」については、本稿201235日号「EVとしては中途半端な『プリウスPHV- 主役は低コストな改造PHVか?」でもコメントした)。

一歩先を行くレンジエクステンダーEV

 同じPHVでも有望なのは「シリーズ方式」だと先で述べたが、その代表がGMの「シボレーVolt。米国市場では、テスラ「モデルS」に続いて「EVPHV部門」売り上げで第2位と健闘している。エンジンは基本的に発電のためだけに使われ、車輪はモーターだけで駆動する。この点では「ノート e-POWER」と同じだ。

 大きな違いは、Volt」が外から充電できること。短距離なら充電した電気だけで走り(第2世代車は最大85km)、電気を使い切った後にはエンジンで発電しながら走行距離を伸ばせる(同680kmまで)。そのため、「レンジエクステンダー」(航続距離延長型)EVと呼ばれることもある。

「シボレーVolt」は「ノート e-POWER」の一歩先を行く。EV走行距離は85kmに達する

出所: 筆者撮影(デトロイトGM Worldにて)

 前述のように、シリーズ方式の「ノート e-POWER」はパラレル方式の「プリウス」よりは純粋EVに近いが、「Volt」には及ばない。また、今のままでは「プリウス」同様、世界の主要市場では「エコカー」とは認められない。

 日産のコマーシャルでは「どこまでも走れる電気自動車(の新しい形)」と称しているが表現は少し誇大だ。「ノート e-POWER」を「EV」と位置付けるなら、もう少しバッテリー容量を大きくし、外部からの充電を可能にする必要がある。

トヨタEVに本格参入:ようやく重い腰を…

 近いうちにエコカーでなくなってしまう「プリウス」。進化させてもPHV止まりでそのままEVに変身することはできない。だから、トヨタにとっては、本格的なEV開発が必要だ。

 そのトヨタ今年112020年までにEVの量産体制を整え、本格参入する方向で検討に入ったと発表した。これまで、「EVに冷淡」と見られてきたトヨタにとっては大きな方針転換だ。実際、昨年発表した2050年までの環境目標「チャレンジ1新車CO2ゼロチャレンジ)」においても、HVFCV(水素電池自動車)については意欲的な販売目標を掲げる一方、EVについては「航続距離や充電時間に課題があり、近距離の移動に向いている」と控えめな表現にとどまっている。

 本格参入では大きく出遅れたトヨタだが、EVへの取り組みには長い歴史がある。トヨタによる量産EV1号はRAV4 EV」(の第一世代車で、1997に日本とカリフォルニア州でデビューし、2003年まで販売された。投入目的は、同州のZEV規制に対応するためだった。非常に人気が高かったのだが、2003年に唐突に生産中止になってしまった。

 それから9年のブランクを経て、2012にはテスラモーターズと共同開発した第二世代SUVRAV4 EVを米国で販売した。車体はトヨタだが、心臓部であるモーターとバッテリーはテスラ提供。筆者は理想的なコンビと考え、大いに期待したのだが売り上げは伸びず、既に生産を終了した。トヨタは自前のEV開発で、どこまで本気度を示せるだろうか。

テスラとBYD

 EV時代の牽引役は間違いなくアメリカのテスラだ。20168月、新型の「モデルSを発売した。新しい100kWhバッテリーパック(P100D)を装備し、航続距離は613kmNEDC基準)に達する。市販の電気自動車としては初の航続距離600km超を達成。東京-大阪間を充電なしで走行できる実力を持つ。

 テスラの一番新しい車である「Model 3」は航続距離・走行性能と価格をバランスさせた車だ。車両本体価格は35000ドル(約390万円)とテスラ車の中では最も低価格だ。一回の充電で走れる距離は345km(予定)。日本でも予約受付は始まっているが、生産開始は来年から2017年後半から)

 筆者がテスラと並んで期待するのが中国のBYD。世界最大の自動車市場である中国はEV市場としても世界一であり、2015年のEV販売台数合計(PHVを含む)は20万台(日本の7倍以上)に上った。その中国市場で異彩を放つのがBYD。同社初のEVとして話題になった「e6」は深圳や西安でタクシーとして活躍している。

 中国で一番売れているのは、同じBYDの「」と「」の「王朝シリーズ」。20151年間の販売台数では「秦」が約32000台でトップだったが、20165月の月間販売台数では「唐」が3249台でトップ、秦が2912台で2位だ。

 最近では、e6」「唐」「秦」などを合わせると、BYDEV生産台数はテスラ、日産を抜いて販売台数世界一になっているようだ。中国のEVパワーは凄まじい。

深圳郊外の高速道路を走るBYD「唐」 。中国のベストセラーEVだ。

出所:筆者撮影

 いくつかの調査機関によると、2015年のEVの世界販売台数は30万台程度で新車販売全体に占める割合は0.5%未満だった。しかし、2030年には8%に達するとの予測もある。中期的にはHVPHVEVが併存すると思われるが、長期的には純粋EVだけの世界になる

このコラムについて

「燃やさない文明」のビジネス戦略

 いま、大きな変革の節目を迎えようとしている。時代を突き動かしているのは、ひとつは言うまでもなく地球環境問題である。人口の増大や途上国の成長が必然だとしたら、いかに地球規模の安定を確保するかは世界共通の問題意識となった。そしてもう一つは、グローバル化する世界経済、情報が瞬時に駆け巡るフラット化した世界である。これは地球環境という世界共通の問題を巡って、世界が協調する基盤を広げるとともに、技術開発やルールづくりでは熾烈な競争を促す側面もある。

 筆者は「燃やさない文明」を提唱し、20世紀型の石油文明からの転換を訴える。このコラムではそのための歩みを企業や国、社会の変化やとるべき戦略として綴ってもらう。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/225434/121900014/?P=4

 

 

さてその電気自動車と言えば、「日産・リーフ」の次のモデルがどうなるか、ということの方が大事であろう。

(続く)