続続・次世代エコカー・本命は?(106)

ドイツ裁判所は、古いディーゼル車の各社のアップグレード対策に対して、不十分と却下したようだ。そのため2017.8.2にベルリンで政府と自動車大手(VWAudiPorscheDaimlerBMWOpel、欧州Ford)は「ディーゼルフォーラム」を開催し、ディーゼル対策を協議した。

 

[FT]信用失墜の独自動車、ドイツの国民心理揺るがす

2017/8/3 6:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

Financial Times 

 独フォルクスワーゲン(VW)の本拠地ウォルフスブルクでは、1955年8月5日は記念すべき日だった。100万台目の「ビートル」が生産ラインから出てくるのを群衆が祝った。第2次世界大戦の敗戦と破壊から立ち直った戦後の目覚ましい復活、そしてドイツ経済の奇跡を象徴するようになった車にとって、それは至高の瞬間だった。多くのドイツ人にとっては、ビートルはそれ以上の存在だ。最近のある世論調査では、回答者の63%はビートルがドイツという国そのもののシンボルだと回答した。文豪ゲーテは大差を付けられての2位だった。

フォルクスワーゲンのディーゼルエンジン。ディーゼルはドイツ経済の大きな部分を占めるが、不正などによって信用は失墜した=ロイター

フォルクスワーゲンディーゼルエンジンディーゼルはドイツ経済の大きな部分を占めるが、不正などによって信用は失墜した=ロイター
TDI = Turbocharged Direct Injection の略

 2017年まで時計の針を進め、当時のビートルと同じくらい先駆的な新車の発表に話を移そう。米テスラの「モデル3がそれだ。同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、モデル3は初の大衆市場向けの電気自動車になると考えている。ドイツでの反応は、多大な関心と羨望とパニックが同等に入り交じったものだった。なぜドイツ企業がこれを作らなかったのか――。

 自動車はドイツの国民心理の中心的な位置を占めている。輸送の手段というよりは、むしろドイツ人の性格の一番いい部分をすべて収束したものであり、効率性、信頼性、精密さに代表される「最高の追求」だ。「Vorsprung durch Technik(ドイツ語で技術による先進の意)」はアウディの標語であるだけでなく、国家的な努力として、自動車はたゆまぬ革新的精神そのものを映していた。

 過去数十年間にわたり、自動車は自由と移動手段を求めるロマンチックな衝動のシンボルでもあった。ドイツのバンド「クラフトワーク」の有名な曲でたたえられているアウトバーンは、欧州で唯一、速度制限のない高速道路だ。また、車以上にステータスを暗示する良い方法はない。割と最近まで、自尊心のある成功したドイツ人は誰もが数年ごとに車を乗り換えていた。

 だが、そうした車を生産する産業は存亡の危機に巻き込まれている。VWのディーゼル排ガス不正スキャンダルが冷めやらぬうちに、大手自動車メーカーが数十年にわたり技術について共謀してきたという疑惑が浮上した。自動車業界の評判と「ドイツ製」のブランドは失墜してしまった。

 このブランドはすでに、カーシェアリング電気自動車自動運転システムなど、次第に米シリコンバレーが支配するようになっているイノベーションに脅かされていた。自動車業界の経営者らは、怒涛(どとう)のような非難に直面しており、慢心、保守主義、そしてあからさまな違法行為を疑われている。業界の経営トップは2日、ディーゼルの未来についてドイツ閣僚と話し合うためにベルリンに集まる。ディーゼルは、業界の健全性にとって極めて重要だが、国民の健康にとっては次第に有害と見なされるようになった技術だ。

 筆者のような外国人にとっては、立場がこれほど逆転するのを見ると不安な気持ちになる。英国と米国では、確立された組織が近年、壊滅的な信頼喪失を目の当たりにしてきた。だが、ドイツはおおむね混乱と無縁でいられた。ドイツ経済は2008年の不況を比較的無傷で乗り切ったことから、政財界にとっては普段と変わらぬ生活が続いた。

 労働者の代表が取締役会に名前を連ねる、合意に基づく大企業の文化は、体制の安定を維持することに寄与した。ドイツ銀行のジョン・クライアン最高経営責任者(CEO)など数人の例外を除くと、経営者が国民の怒りを買うこともめったにない。もしかしたら、それはドイツ人経営者が一般的に米国人経営者ほど稼いでいないためかもしれない。ドイツの経営者報酬は2015年の平均で510万ユーロと、米国の1640万ユーロを大きく下回っている。

 だが、不満は募っている。昨年の調査は、貯蓄者が低金利に苦しめられる中で銀行に対する信頼感が急激に低下したことを示していた。また、独ビルト紙のために世論調査機関EMNIDが実施した調査では、ドイツ人の過半数が今、自動車メーカーは信用できないと考えていることが分かった。

 ドイツ人はまだ、「Exportweltmeister(輸出世界チャンピオンの意)」としての国のアイデンティティーの要である自動車産業に誇りを持っている。実際、VWとメルセデス・ベンツBMWはドイツの貿易黒字の半分を占めている。だが、脅威にさらされているのは、まさにこの支配力だ。テスラのモデル3が発表されたのと同じ月に、英国はフランスに続き、2040年までに化石燃料を動力とした自動車を完全に廃止することを誓った。これはドイツ人にとって潜在的に大きな打撃となる。産業労働者のおよそ10%が内燃機関に依存しているからだ。それからわずか数日後には、ドイツの裁判所が古いディーゼル車をアップグレードする自動車メーカー各社の計画を不十分として却下し、よりによってダイムラーが本社を置くシュツットガルトで運転が禁止される可能性が出てきた。

 破滅を暗示する予言は、国家的衰退について警鐘を鳴らしている。ビルト紙のあるコラムニストは、自動車産業は石炭産業や家電産業と同じ運命をたどりかねないと述べた。果たしてダイムラーグルンディッヒやブラウプンクトといった企業の後に続く可能性があるのだろうか。

 1885年に生産された史上初の自動車「ベンツ・パテント・モトールワーゲン」は、シュツットガルトメルセデス・ベンツ博物館の目玉展示物だ。ドイツにとって悪夢は、ベンツの発明が生み出した輝かしい近代産業が過去の遺物になるかもしれないことだ。

By Guy Chazan

2017年8月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK02H2L_S7A800C1000000/

 

 

その結果、ディーゼル530万台の修理を、根本的と言うよりもどちらかと言うと安直なリーズナブルな負担でメーカーが行うことを決めてしまった。そして大都市へのディーゼル車の乗り入れは、禁止されることはなく継続されることになった。

(続く)