続続・次世代エコカー・本命は?(111)

欧州での「モビリティ革命」の行く先は電動化であると認識してもよいとして、その動き(の一部ではあるが)はこのくらいして、次は日本、特にトヨタの動きを追ってみたいと思う。

 

 

13)モビリティ革命、トヨタはどうする?

 

 

トヨタの「モビリティ革命」に対する考え方は、次の「Harmony」(20177/8月号)の「プリウスPHV」の金子將一主査の話を聞くとよくわかる。

 

プリウスPHVに搭載されているリチウムイオン電池と燃料タンク43Lの重量が比較されている。

 

8.8kWhリチウムイオン電池の重量 120kg、航続距離 68.2km

ガソリンダンク容量43L、重量40kgHV燃費 37.2km、航続距離 1,599.6km

 

プリウスPHVは、ガソリン満タンで約40kgの重量で1,600kmも走れるわけだ。

これに対してEV性能としては、3倍も重い120kgBatteryを積んで、僅か68kmしか走らないのだ。

 

それに先の論考では、

 

リチウムイオン電池はとても高価で、『買ってから廃車にするまで5年間の「所有コスト」で考えると、平均約8万ドルで、内燃機関(平均約36000ドル)の2倍以上というのが米エネルギー省(DOE=United State Department of Energyの計算』と書かれているように、2.2倍も高価なのだ。

 

しかもそれに見合って2倍以上の環境効果があるかと言えば、環境効果はICEV内燃機関車に比べて10%程度だけで、2.2倍も高価な割にはCO2の低減はほとんどない、と言ってもよいほどないのが実情のようだ。

 

これではICEV(Internal Combustion Engine Vehicle内燃機関自動車)を電気自動車EVに早急に置き換える意味は、それほど無いのではないのかな。

 

Batteryがもう一皮も二皮も脱皮しないと「パリ協定」は守られないことになる。Batteryの技術革新が必要なのだ。

 

そこで必要なだけのBatteryで、必要なだけ走れればよいのではないか、と言う考え方も出てくるのである。まあこれが初期のプリウスPHVEV走行26.4kmの距離だった訳だが、これが全く世間では受け入れられずに惨敗と言った状況だったようだ。

 

そのため今度はEV走行68.2kmと相当おごって、しかもスタイルまで大幅に変えて2代目プリウスPHVを登場させたのである。しかも68kmに拘って5人乗りのところを4人乗りと重量を一人分軽くして、登場させたのである。

 

そのため2代目プリウスPHVは、かなりの人気らしい。試乗結果はとても素晴らしく、素人受けするものであった。もちろん玄人にはもっとアピールする筈であるが、ただ如何せん4人乗りと言うのが、小生には引っかかるのである。

 

これもバッテリーの重量問題のために致し方ないことのようではあるが、何とかしてもらいたいものである。要はバッテリーの技術革新が待たれるである。

 

ちなみにテスラのモデルSは純粋のBEVであるがそのバッテリーの重量は500kg~650kgになると言う。

 

 

テスラ・モデルS 60.0 kWh  Battery 推定重量約500kg 走行距離345km

テスラ・モデルS 85.0 kWh  Battery 推定重量約650kg 走行距離460km

プリウスPHV 8.8 kWh  Battery 推定重量約120kg 走行距離 68.2km

 

まあ長い距離を走るためには大量のバッテリーを搭載すれば済むわけであるが、その重量を何とかしなければならないのである。リチウムイオン電池に限らず、その性能向上に技術の革新を期待したいものである。

 

 

 

Harmony 20177/8月号  開発者に聞く 201708010000

プリウスPHV 金子將一
MS
製品企画 主査

文・小沢コージ 写真・小松士郎

PRIUS PHV

PRIUS PHV S    

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小沢:満を持して登場した「プリウスPHV」ですが、今回はあえてハードウエアについて深く突っ込むのではなく、「PHVで世の中をどう変えるのか」をお聞きしようかと。CMでも、「ハイブリッドの次は、なんだ?」と謳っていることですし。

金子:なるほど、PHVの存在意義とはなんぞや、ということですね。わかりました。

まず今、日本はもちろんアメリカや欧州などで叫ばれているのは車両の電動化。つまりEV車の普及です。近い将来、石油の枯渇が危惧される中、風力、水力、太陽光はもちろん化石燃料を燃やしても取り出すことができる電気をクルマの燃料に……ということで、EV化が進んでいるんですが、その一方で電気は貯蔵が大変難しく、エネルギー密度も非常に低いことが難点です。

小沢:貯蔵とは、電池のことですよね。つまり電池の性能が低すぎるという意味ですか?

金子:わかりやすく言うと、今回の「プリウスPHV」の燃料タンク容量は43リットル。満タンのガソリンの重さは40キロ以下で、しかもハイブリッド走行でのモード燃費が372kmLですから、満タンならざっくり言って1500キロほど走れる計算になります。

ところが電池のみですと、88kWhリチウムイオン電池をフル充電しても、682キロしか走れない。

小沢:「プリウスPHV」は電池重量だけで120キロ。つまりガソリンの3倍以上の重さのくせに、航続距離はたった20分の1。同じ距離を走ろうとすると電池はガソリンの約60倍の重量が必要になる。逆に言うとガソリンがいかにエネルギーとして持ち運びしやすいかという。

金子:その通りです。もちろん電池の性能が上がると多少軽くはなりますが、ご存じの通り、急速にEV化が進んでいる今、そもそも航続距離が短いというEV車の問題を、バッテリーの大容量化で解決しているんです。

小沢:たしかに! 某・国産EVが新たに30kWhの電池を搭載しただけでも驚いたのに、昨年登場した北米のプレミアムEVは、100kWhっていう巨大電池を搭載していました。

金子:ええ、すると何が起こるかと言うと、クルマが変わっていくんです。重量を支えるために大きく頑丈なタイヤが必要になり、その重量で衝突安全性能を成立させるためにボデーがどんどん肥大化していく。

小沢:そうですよね、たとえば「テスラ」なんか、尋常でなくデカいEVセダンですしね。

金子:じつは、ここで冷静に考える必要があるんです。人が1日平均何キロぐらいクルマを運転するかというと、日本の場合はせいぜい1520キロで、欧米でも30キロぐらいなんですね。

小沢:そんなもんでしょうね。

金子:つまり今はフル充電で300400キロ走れるEVが出ていますけど、まだ270370キロ走行可能な電池を、たんに重りとしてクルマに搭載していることになりませんか?

小沢:なるほど、そういう計算もできるのか。重い電池を積んでも短い距離しか走らないなら。

金子:もちろん、考え方にもよりますが、それは非常に無駄だと思うんですよ。クルマが必要以上に重く頑丈になるばかりか、バッテリーって貴金属とかレアメタルなどが大量に使われるわけですから。

小沢:電池は希少マテリアルの宝庫ですからね。

金子將一

金子將一(かねこ しょういち)

青山学院大学理工学部を卒業後、1991年にトヨタ自動車入社。エンジン設計にたずさわった後、99年に製品企画室に配属。ミニバンの「イプサム」「ガイア」「アイシス」や、「カローラ」を手がけた後、現職。趣味はバイクとスキーとスピード系アクティビティー。  


(続く)