続続・次世代エコカー・本命は?(115)

現状では、電気自動車はコモディティー化への道だ

 ところで、アウディは参加するレースをWECから(電気自動車=EVが争う)「フォーミュラe」に移しました。それについてはどう思われますか。先程、現実的な解はハイブリッドだとおっしゃっていましたし、トヨタEVには行かないのですか

豊田:それはね、社長として言うと、いろいろ問題がありますから(笑)。モリゾウとして話しますけど、いまトヨタ自動車にはEV事業室というものがあり、それは私が担当しています。以前86トヨタのスポーツカー)をベースに作ったEVがあって、試乗したことがあるんです。印象を聞かれたんで「ああ、電気自動車だなっ」て言いました。

 電気自動車、ですか?

豊田:その本意というのは「86であれなんであれ、EVEVになってしまう。すると、コモディティになってしまう」ということです。いまのメーカーにとっては、自分たちの首を締める可能性がある。

 やっぱりクルマというものを“愛車”にしておきたいという思いがあります。それがコモディティーになると、愛車から遠ざかる可能性がある。商品化決定会議の議長をやっているのですが、自分自身を最後のフィルターだと思っています。そしてEVであっても“愛”のつく乗り物、これはやっぱりトヨタEVだね日産のEVだねって、どのブランドのものなのかわかるクルマ作りで競争しないと、EVは単なるEVになってしまう。そこが一番自分がこだわりたいところで、だから自分で担当しています。

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小林可夢偉選手のドライブにより歴史的なタイムでポールをとった7号車。まさかのクラッチトラブルでリタイヤとなった

 このインタビューは、レーススタート後、約1時間が経過し、トヨタ7号車がトップで順調にラップを重ねている時に行われたものだ。

 レース後の囲み会見で、章男社長は、7号車小林可夢偉選手の歴史的なコースレコードを称えながらも、ポルシェに対し“強さ”が足りなかったと話した。そして、社長としてこのル・マンの地に初めて訪れたことについて、昨年の「その場にいてやれなくてごめん」というコメントを引き合いに出し「社長としては寄り添えたものの、ドライバーモリゾウとして寄り添えたのかというと、自分自身やるべきことはまだまだあるなと、思いました。これからはドライバーモリゾウの目線で、チームを支えていきたい」と話した。

 ただし、「来年もルマンに挑戦を続けるのか」という問いに対しては、章男社長も、TS050レーシングハイブリッドプロジェクトリーダーの村田久武氏も、この場では明言しなかったことが少し気がかりだった。

 レース終了後、章男社長とハイブリッドの生みの親である内山田会長のコメントが発表されたのだが、その会長のコメントに来年への希望がみてとれたので、ここで一部を抜粋する。

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 準備をどれだけ重ねても、レースでは、やはり想像しえないことが起こります。
7
号車、8号車、9号車に起きたそれぞれの不具合やトラブル… 残念ですが、私たちには、まだまだ足りないものが残されていました。

 しかし、1台だけになっても、少しでも長く距離を走ろうとプッシュし続けた
8
号車の“闘志”や“諦めない気持ち”は、私たちに残された大事なパーツです。

 “諦めない気持ち”で、足りなかったものを、再び探し集め、
また来年、この場に戻ってまいります。 もう一度、我々にご声援を送っていただければと思います。 応援いただいた皆さま、本当にありがとうございました。

2017618

トヨタ自動車株式会社
代表取締役会長 内山田 竹志

ポルシェは決して諦めない。トヨタはどうか。

 私自身、トヨタ勝利を見届けようという思いでル・マンの現場を訪れ、その速さを目の当たりにし、歴史的瞬間に立ち会えるのではないかという思いも頭をよぎった。

 一方でスタート前にポルシェサイドに話を聞くと、開幕2戦続けて負けようと、ポールポジションを取られようと、まったく悲観などしていない。ル・マンは別物だから、という思いがひしひしと伝わってくる。

 彼らもトラブルに見舞われ、盤石のレースとは言えなかった。ポルシェのホスピタリーに応援に駆けつけた、ル・マン24時間レースで6度の優勝経験を持つ伝説のドライバー、ジャッキー・イクス氏がトラブルに見舞われたポルシェのドライバーに「Never Give Up」と声をかけていたのが印象的だった。そして最後に生き残ったのはポルシェだった。やはり“何かが足りない”のだ。

 そして、その何かをつかみとるためには、走り続けるしかない、と思う。
 来年のトヨタに期待する。


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豊田章男社長のクルマ、特に次世代環境車に対する考え方などを、この論考からまとめてみると次のようになるのではないのかな。

 

 

(1) 次世代環境車としての現時点での解は、ハイブリッドHVである。

 

(2) レースと言うものには競争相手がいるから、クルマ作り人材育成の場となり、トヨタは実践教育の場として活用している。

 

(3) しかもレースである以上勝つことが必要で、そうすれば顧客獲得の場、ファン作りの場ともなり得る。

 

(4) 電気自動車はクルマと言うよりも、日用必需品コモディティ化する傾向があり、今のところ愛車にはなり得ない。

 

(5) だからトヨタとしては、もしやるとしたら、同じEVであってもトヨタEVとしてのアイデンティティを持ったものを作り出したいと思っている。

 

(6) 2017年のル・マンは強さが足りなかったから負けたので、もっと強くしなければ勝てないことが判った。

 

(7) 2018年のル・マンには、もう一度挑戦したい気はあるが、AudiPorcheも参加しないので、参加するかどうかはわからない。(2017.8.15NO.96参照のこと)

 

 

偏見と独断でまとめてみたが、こんなところが豊田章男社長の考え方のようだ。

(続く)