続続・次世代エコカー・本命は?(121)

「退屈なクルマは造りたくない」

 エンジンを得意とするものの、EVに積極的ではなく、その分野の技術の蓄積がないマツダをあえてトヨタが選んだのはなぜなのか。「走らせて退屈な車は造らないというマツダさんの姿勢に、私自身大いに共感した。まさに私たちが目指す『もっといいクルマ造り』を実践している」(トヨタ豊田章男社長)。

 「マツダさんのコーポレートビジョンにある最初の一文をご存知でしょうか。『私たちはクルマを愛しています』。私たちトヨタも、クルマを愛しています。両社の提携は、クルマを愛する者同士がクルマをコモディティーにしたくないという思いを形にしたものだ」

 発表会では、豊田社長の発言の端々にマツダへの尊敬の念がにじみ出ていた。マツダは時代の流れに半ば反発するかのように、内燃機関にこだわり、マツダらしい「尖ったクルマ造り」を貫いてきた。

 そのおかげで、年間生産台数1544000台(2016年度実績)ながらも固定ファンから支持され、着実に成長を遂げてきた。台数こそマツダトヨタ7分の1に過ぎない。それでも自らの信じる道を貫いてきたマツダ豊田社長はある種の「憧れ」を抱いてきたのかもしれない。

TNGAとモデルベース開発を融合

 だが、感情だけで決めたわけでは無論ない。経営者としての計算もある。モノ作りの効率化だ。

 両社で開発するEVのプラットフォームは広範囲をカバーするものだ。軽自動車からコンパクト車、SUV(多目的スポーツ車)、ピックアップトラックまでも対象とする。「(社内ベンチャーとして)昨年発足させたEV事業企画室も融合して、EVの基盤技術を強化する」と豊田社長は強調する。

 トヨタの部品共通化の取り組みである「TNGAトヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」と、マツダモデルベース開発と呼ばれる開発を効率化させる手法を組み合わせることで、新たなEVのプラットフォームを実現する。

 マツダにとってもEVトヨタと組むのはまさに渡りに船だ。マツダが完全に出遅れていた電動化で、ハイブリッド車からPHVまで豊富な実績を持つ巨人と組むことができる。

 しかもEVは本当に売れるかどうかは未知数。開発にコストがかかる一方、成功するかどうかのリスクも大きい。「EVは現在、創世記にあり、これから発展期を迎える技術だ。将来の予測、規制(の動向)を含めて(先を見通すのが)難しい中で、協業で需要の変動にフレキシブルに対応できる体制をしっかり準備したい」。マツダの小飼雅道社長はこう狙いを明かす。

 両社の協業でとりわけ問われるのは、消費者を魅了するようなEVを本当に開発できるかどうかだ。テスラのEVは、スーパーカー並みの加速性能や洗練されたデザインに加えて、先端的なIT(情報技術)を活用することで、多くの消費者が憧れるブランドになった。

 「WOW(ワオ)といわせるようなクルマをつくってほしい」。豊田社長は常々、開発者にこうリクエストしてきた。異文化のマツダと組むことで、消費者を驚かせるような尖ったEVを実現できるのか。両社の底力が試されている。

 

このコラムについて

ニュースを斬る

日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/080400719/?P=2

 

 

トヨタ2019年にEVを中国で生産すると言っているが、この提携話の結果がこの2019年に反映されるのであろうか、甚だ疑問の残るところでもある。

 

マツダトヨタと同じで、EVからは少し距離をとっていた。それと言うのも、マツダは「スカイアクティブ技術」、特にディーゼルエンジンで環境規制を乗り越えようと思っていた節があったが、「バリ協定」に代表されるように環境規制の変化がそれを許さなくなってきた訳だ。

 

いわゆる環境対策車としては、EVFCVPHVだけとなり、HVDieselディーゼルも、はたまたロータリーエンジンも、完全に除外されているからだ。要はいくら燃費が良いと言われても、CO2などを排出するようでは、HVSkyactiveDieselも環境車からは除外されてしまった訳だ。これで、マツダDieselを狙っていたトヨタもそのマツダも、EVへまっしぐらとならざるを得なくなったと言う訳だ。

 

だからお互いにEVには特に際立った技術を持っていない2社が一緒になっても、それほどとがったEVが開発できるとも思えない、と言った論調も存在する。

 

ここら辺は純粋に技術的な開発マターなので、そのような技術的素養が両社に無ければならない訳だ。それをただ単に『私たちはクルマを愛しています』と言うだけで、資本提携にまでのめり込むと言う豊田章男社長のパッションのどこに、そのような技術的な光明が射したものであろうか。

 

当然社長単独での決断ではない筈なので、関係する技術役員や技術関係に限らず上級管理職たちにもその功罪を検討させた結果での結論であった筈だ。どのような過程で結論が導き出されたのかはわからないが、冷徹な企業論理に従って導き出されたものであろう。そのうえでの資本提携と言う事であれば、実務面での交流が想像以上に深まっていた、と推測してもよいのではないのかな。

 

まあ自動車メーカーはどこも、誰でも、「クルマを愛しています」と言う筈だ。そうでなければクルマ屋をやっていない。だがそんな両社の交流の中から、かなりの信頼関係が醸し出されたものと思われる。そんなところを、豊田章男社長一流の言い回しで表現したものであろう。

 

ただクルマを愛しているだけでいいクルマが出来るわけはないので、果たしてこの資本提携が成功するか否かは、両社の今後の行く末に委ねるしかなかろう。

 

スカイアクティブやクリーンディーゼルが直接的には「CO2ゼロ」には役立たない筈だが、それを作り出した過程・能力、即ちマツダの技術力は役立つかもしれないと、豊田章男社長の目には映ったのかも知れない。

 

まあ価値観の異なるテスラなどとは全くうまくやってゆけないと、小生は端(はな)から思っていた訳だが、マツダとの話については、何かテスラでのそんな感じはしないことは確かではある。

 

また大切なことは、これでマツダ外資に走ることはないのではないか、と安心できることであろう。

 

 

トヨタマツダ提携「似たもの同士」にみる危うさ  編集委員 関口和

2017/8/8 6:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 

 トヨタ自動車マツダが電気自動車(EV)などの共同開発に向け、資本提携すると発表した。米国内に工場を共同で新設するなど、米トランプ政権の対米投資要請に応える狙いもある。しかし両社が提携した最大の目的は、互いの技術を持ち寄ることで、それぞれのエコカー戦略を見直すことにあるといえよう。共同会見したトヨタ豊田章男社長とマツダの小飼雅道社長は「未来のクルマをコモディティー(汎用品)にはしたくない」という共通の思いを語ったが、似たもの同士が結ばれることによる危うさもうかがえる。

共同で記者会見したトヨタの豊田社長(左)とマツダの小飼社長

共同で記者会見したトヨタの豊田社長(左)とマツダの小飼社長

 「2年間の婚約期間は飽きるどころか互いの魅力を再認識した」。多くの報道陣を前に4日午後7時から記者会見した豊田氏と小飼氏は、資本提携を結婚に例えた会場の質問に対し、事業提携から資本提携に至るまでの2年間をこう語った。「Be a driver.(ビー・ア・ドライバー)」――。豊田氏はマツダのキャッチフレーズを引き合いに出し、運転する喜びを感じられるクルマ造りを目指すのが両社共通の願いであることを強調した。

(続く)