女々しいぞハリル、代表監督不適格(29)

男子レスリングの衝撃

伊調馨は大学卒業後も母校・中京女子大で練習を積み、北京オリンピックに挑んだが、カナダから帰国後、練習拠点を変更。東京で一人暮らしを始める。

カナダでの経験から「好きで始めたレスリングなんだから、楽しまないともったいない。いつかはカナダで見たようなレスリングをしたい」と思いつつも、再び厳しい勝負の世界に戻ることを決めた伊調。名門・代々木クラブ/安倍学院、自衛隊体育学校早稲田大学など、東京の各所で出稽古に勤しんだ。

すると、1988年ソウルオリンピック金メダリストであり、当時の男子強化委員長だった佐藤満から馨の兄・寿行に「馨が東京で出稽古しているなら、こっちの合宿に連れて来いよ」と声がかかった。

 

佐藤がアメリカ留学を経て、専修大学ヘッドコーチに就任したとき、キャプテンを務めていたのが寿行という間柄だった。

兄に連れられ、男子の代表合宿に参加した伊調馨は衝撃を受けたという。

「チビッコの頃から20年以上やってきたのに、レスリングの真髄を全く知らずにいました。それなのにオリンピックチャンピオンだなんて、もう恥ずかしくて」

男子のコーチや選手たちと接する機会が多くなった伊調の目の前に、新しい世界が広がった。レスリングの奥深さを知ることができたのだ。

「それまでは体が動くまま、本能だけでレスリングをやっていました。考えてレスリングをやったことなんてありません。でも、男子の合宿で私が生まれて初めて接したレスリングは全く違っていました。例えば、タックルひとつとってみても、なぜいま入ったのか、相手をどう崩して、どこにスペースをつくって入るのかとか、すべて言葉で、理論的に説明できるんです」

その日から伊調は、「説明のできるレスリングを目指し、“勝利”よりも“技術”を追求する」ようになると同時に、再びレスリングが「楽しくなった」と語る。

「日々、自分を改良していくのはとっても楽しいです。もっともっとレスリングが知りたくて、日々葛藤しています。でも、やればやるほどわからなくなる。それでも、諦めたら終了です」

当時の伊調は、こんなことも漏らしている。

「たとえコーチの話でも、自分にとって必要かどうか判断して、必要でなければ聞き流したりもします。私はたぶん、コーチ陣からしたら扱いやすい選手ではないと思います。何でも自分で決めてしまうので。だから、『こいつは素直じゃないな』と思われるときもあるでしょうが、素直に聞くこともあります。ポイントは自分を納得させてくれる何かがあるかどうか」

ただ勝てばいいのではなく、理論的なレスリングへ。競技スタイルを変えた伊調が決意したのが、栄との決別だった。

高校から北京オリンピックまで指導を受けた栄の元を去り、新たな師として選んだのが田南部力だ。

田南部はアテネオリンピック・フリースタイル55キロ級で銅メダルを獲得。髙い技術力をもつ男子ナショナルチームコーチである。

伊調の出稽古は田南部が所属する警視庁レスリングクラブが中心となった。

レスリングがもっとうまくなりたくて、もっと知りたくて、日々葛藤する」という伊調は、いつしか「レスリングを極めんとする孤高の求道者」「異次元の強さを追求する絶対女王」と呼ばれるようになっていった。

協会は栄さんを守るでしょう

2012年ロンドンオリンピックでは全4試合1ピリオドも失わず、圧倒的な強さを見せつけ、日本女子初の3連覇を達成する。現地入りした翌日、本番4日前に靭帯を損傷し、痛み止めの注射とテーピングなしでは、まともに歩くことすらできなかったにも関わらずだ。

ロンドンオリンピック後、去就が注目されるなか、伊調はあっさりと「現役続行」を宣言した。

「いまレスリングがどんどん好きになってきています。やり残したこともいっぱい。アテネからロンドンまで8年間、あっという間だったから、リオも意外とすぐにくるんじゃないかな」

オリンピックイヤーが終わる前に本格的に練習を再開させた伊調は、翌年から試合にも出場し、リオデジャネイロオリンピックまで突き進んだ。

 

2014年11月にはずっと応援してくれてきた最愛の母が突然、亡くなるという不幸に見舞われた。

「『どんな状況でも試合に出ろ! 出るからには勝て! 死んでも勝て!』という母の遺言を守るとともに、自分のレスリングを追求していきます」

リオへ向けて成田航空を出発する際には「平常心を持って、戦います」と誓ったが、いくら絶対女王と言えども、4連覇のプレッシャーは相当なものだったろう。

第1試合から本来の動きができず、迎えた決勝戦では1-2とリードを許しながらも攻め込めず、時間だけが過ぎていった。それでも、伊調馨は最後の力を振り絞った。試合終了4秒前、タックルに入ってきた相手を「最後のチャンス」と思って攻め、バックを奪って2点奪取。3-2で劇的な勝利をあげ、4連覇の偉業を達成。世界中を感動させた

だが、そうした伊調の「レスリング道追求」、人類の金字塔ともいえる大活躍の裏で、北京オリンピック後から8年にわたり伊調を指導してきた田南部コーチが栄強化本部長(ロンドンオリンピックまでは女子強化委員長)からパワハラを受けていたとの告発がなされた。告発文の要旨はこうだ。

栄和人氏による圧力により、伊調馨選手は男子代表合宿への参加を止められ、練習拠点である警視庁レスリングクラブへの出入りを禁止された。そのため、伊調選手は練習ができない。田南部力コーチは『伊調をコーチするな』と栄氏から言われ、従わなかったために代表コーチ、協会理事、警視庁レスリングクラブコーチを外された。それらは公益財団法人日本レスリング協会福田富昭会長、高田祐司専務理事も了承している」

告発状が掲載された『週刊文春』が3月1日発売されたのを受け、伊調は同日、所属するALSOK広報を通して「報道されている中で、『告発状』については一切関わっておりません」とコメントする一方で、「しかるべき機関から正式に問い合わせがあった場合は、ご説明することも検討したいと思っています」とし、「それ以外、お伝えすることはございませんが、私、伊調馨レスリングに携わる者として、レスリング競技の普及発展を常に考えております」と加えた。

公益財団法人日本レスリング協会36、倫理委員会を開き、第三者による聞き取り調査を行うと発表したが、はたして真に公平な調査ができるのか。

「協会は『週刊文春』が出た後、すぐに『パワハラ行為は一切ない』と全面否定しました。伊調、田南部から何も聞かないどころか、ろくに調べもせずに、直ちに否定。それって、協会は栄さんを守るという宣言でしょう。そんなところがまともに調査するんでしょうか。第三者と言っても、それを選ぶのは協会の倫理委員会ですからね。内閣府が直接調べて、JOCも積極的に関与しないとダメでしょう」(レスリング関係者)

東京オリンピックまで2年。我々は伊調馨晴れ晴れと5連覇を目指す姿が見たいだけなのだが――。

(文中敬称略)

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54762

 

栄和人氏は、6人に金メダリストを育てたと言うが、彼女たちを重量順に下記してみる。

 

1.48kg 小原日登美  2012年ロンドン

2.48kg 登坂絵利   2016年リオ

3.55kg 吉田沙保里  2004アテネ2008年北京、2012年ロンドン

4.58kg 伊調馨     2004アテネ2008年北京、1012年ロンドン、2016年リオ

5.63kg 川井利紗子  2016年リオ

6.69kg 土性沙羅   2016年リオ

 

このほか伊調馨の姉の伊調千春の銀メダルや吉田沙保里リオデジャネイロの銀メダルがある。

 

これだけでもと言ったら失礼にあたるが、これほどのメダリストを育てたと言う事は、特筆に値するものである。しかし図に乗り過ぎてはいけないのであるが、栄氏は、何故か、図に乗り過ぎた。

 

結局伊調馨に対するパワハラ行為で、栄和人氏は強化本部長を辞任することになった。

レスリング栄氏が強化本部長辞任 伊調選手にパワハラ

平井隆介野村周平

2018年4月6日20時36分

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 日本レスリング協会の緊急理事会で藤沢信雄倫理委員長(右)から報告書を受け取る福田富昭会長=2018年4月6日午後6時27分、東京都渋谷区、藤原伸雄撮影

 

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日本レスリング協会の会見でパワハラ問題に関して謝罪する福田富昭会長=2018年4月6日午後7時49分、東京都渋谷区、藤原伸雄撮影

 レスリング女子で五輪4連覇中の伊調馨(かおり)選手(33)=ALSOK=が、日本協会の栄和人・選手強化本部長(57)にパワハラ行為を受けていたとされる告発状内閣府に出された問題で、協会は6日、調査を委託した第三者の弁護士による聞き取りの結果、伊調選手と、伊調選手のコーチだった田南部力氏への四つのパワハラ行為が認定されたと発表した。

 栄氏は同日付で強化本部長の辞任届を協会に提出。緊急理事会を開いた協会はこれを受理することを決めた。理事会後に開いた記者会見の冒頭で、福田富昭会長は「栄氏の言動がパワハラにあたると受け止め、伊調選手を始め、関係者におわびしたい」と話し、会長と幹部が頭を下げた。

 第三者委員がまとめ、協会が公表した報告書で、「明確なパワハラがあった」と認定した栄氏の四つの行動は、①伊調選手が、栄氏が指導する中京女子大(現至学館大)を離れて東京に転居した後の2010年、日本代表合宿で「よく俺の前でレスリングができるな」などと暴言を吐いた。

 ②10年世界選手権が開かれたモスクワのホテルで、伊調選手を指導する田南部力氏に対し「伊調の指導をするな」と発言。

 ③10年アジア大会(中国・広州)の選手選考で伊調選手が外されたが、本人に明確な説明がなかった。

 ④15年の代表合宿中、正当な理由があって外出した田南部氏に対し、「目障りだ。出ていけ」などと罵倒した。

 内閣府に提出された告発状は、栄氏が田南部氏に伊調選手の指導をやめるよう圧力をかけたり、伊調選手が練習拠点としていた警視庁を使うことを禁止したりしたなどと訴えていた。協会と栄氏は当初、これらの内容を否定していた。

 協会は3月8日、オリンパス粉飾決算事件の第三者委員などを務めた弁護士3人をヒアリングを担当する第三者委員に選任。伊調選手や栄氏のほか、日本協会の福田会長らから事情を聴き、調査結果を5日に協会に提出していた。

 協会を監督する内閣府公益認定等委員会は、協会とは別に聞き取り調査を進めている。(平井隆介野村周平

https://www.asahi.com/articles/ASL466SR0L46UTQP032.html

(続く)