世界自動車大戦争(25)

片山修「ずだぶくろ経営論」

マツダ、最強のEV開発…秘策はロータリーエンジン技術、航続距離を劇的に伸長
2019.11.21
文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

 

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マツダ HP」より 

 マツダは、10月24日から11月4日まで開催されていた東京モーターショーで、同社初となる量産型の電気自動車(EV)「MX‐30を世界初公開した。「MX‐30」は2020年に欧州で発売し、欧州以外の地域には適切なタイミングで投入する計画だ。

 内燃機関にこだわるマツダが、なぜ、ここにきてEV投入に踏み切ったのだろうか。“EVブーム”にあらがえなかったのだろうか。

環境規制がもっとも厳しく、苦しんでいる欧州から出す」
と、マツダ社長の丸本明氏は、10月23日に開かれた東京モーターショーのプレスブリーフィングの席上、述べた。内燃機関の性能に徹底的にこだわるマツダがEVを出すのはズバリ、環境規制に対応するためだ。欧州では、21年に域内で発売される新車の二酸化炭素(CO2)排出量を1キロメートルあたり平均95グラム以下とすることが義務づけられる。達成できなければ、新車1台につき超過1グラムあたり95ユーロ(1万1446円)の罰金が科される。

 マツダのグローバル販売台数161万台のうち、欧州の販売台数は27万台だ。マツダにとって、米国に次ぐ重要市場である欧州の規制をクリアすることは、避けては通れない至上命題である。

 もっとも、これを機にマツダが一気にEVにシフトするかというと、答えはノーだ。実際、全世界でのEVの販売台数はいまだ200万台に満たない。EVの先頭を走る日産「リーフ」にしても、初代発売の2010年12月から19年3月までの9年間の販売台数は、累計40万台にすぎない。

私が生きている間は、EVが街を走り回ることはないと思います

と、トヨタ社長の豊田章男は述べた。なぜ、EVは思ったほどには普及が進まないのか。買う側にしてみれば、購入に二の足を踏むもっとも大きな理由は車体価格の高さだろう。

 日産「リーフ」の車両価格は399万9240円、上級モデルの車両販売価格は、最低でも税込416万2320円だ。上級モデルは、一回の充電で458キロメートル走れるとはいっても、燃費のいいハイブリッド車の中には一回の給油で1000キロ以上走るクルマがある。約40万円の補助金があっても、EVの価格は高いといわざるを得ない。EVのコストの大部分を占めるのが、バッテリーだ。したがって、バッテリーの製造コストが下がらない限り、EVはエンジン車と競争できる価格にはならない。

 加えて、航続距離を含む信頼性や充電インフラにも課題がある。EVの購入をためらう理由に、充電スポットが少ないから不安だという理由をあげる人は少なくない。消費者の不安を払拭できないまま、価格の高いクルマを売るのはムリがある。

航続距離との戦い

 振り返ってみれば、これまでEVの開発は、航続距離との戦いといっても過言ではなかった。

「日本で走るのであれば、まったく問題ありません」

 前日産社長の西川広人氏は、17年9月に開かれた新型「リーフ」の発表会の席上、そのように新型「リーフ」の航続距離に胸を張ってみせた。新型「リーフ」が1回の充電で走れる航続距離は、400キロメートル。初代「リーフ」の倍になった。

 一見、航続距離が長くなれば、消費者にとってメリットがあるように思えるが、それはEVの落とし穴でもある。というのも、バッテリー容量航続距離は、二律背反の関係性にあるからだ。

 第一、EVで航続距離を伸ばすには、バッテリーの容量を大きくしなければならない。その分、車両価格は高くなる。しかも、バッテリーを大量に積めば、バッテリー製造時の環境負荷が増える。電極の乾燥工程やバッテリー製造工場をクリーン状態にするには、大量の電気が必要とされるからだ。

マツダは、航続距離を伸ばすためにバッテリー容量を大きくすることは考えなかった」

 10月24日に開かれた電動化方針の説明会で、マツダ執行役員でR&D管理と商品戦略を担当する工藤秀俊氏は、そう述べた。だから、マツダの「MX‐30」のフル充電での航続距離は、約200キロにとどまる。東京モーターショーのプレスブリーフィングで社長の丸本明氏が「バッテリーEVは選択肢の一つ」と述べたように、マツダは「MX‐30」をマルチソリューションの一つとして出したとする。

 マツダは、ハイブリッド車プラグインハイブリッド車を含めると、内燃機関を搭載するクルマは、2035年においても全体の84%を占めると試算する。したがって、CO2総排出量の削減には内燃機関の効率改善が有効だという姿勢を崩さない。 

 内燃機関が効率のカギを握るからには、ベース技術を徹底的に改善する必要がある。マツダは、エンジン、トランスミッション、ボディ、シャーシなどのベース技術を徹底的に磨いたうえで、電子デバイスアイドリングストップシステム、減速エネルギー回生システム、ハイブリッドシステムなど)もベース技術として組み合わせる「ビルディングブロック」戦略を進める。

 ガソリンエンジンの改善にも力を注ぐ。もっか力を入れているのは、高効率ガソリンエンジンSKYACTIV-」だ。ガソリンエンジン火炎伝播ディーゼルエンジン圧縮着火の2つの特徴を融合した新しいエンジンである。「SKYACTIV-」搭載の「マツダ」は、19年12月中旬に発売予定だ。

レンジエクステンダーEV」

 じつはマツダには、EVの航続距離を伸ばすためのとっておきの“隠し玉”がある。1967年に世界で初めて量産に成功したロータリーエンジンだ。「MX‐30」がバッテリーだけで駆動するのに対して、レンジエクステンダー(航続距離を延長する装置)として、ロータリーエンジンを搭載した「レンジエクステンダーEV」は、バッテリーの電力残量が一定水準を下回ると、ロータリーエンジンがガソリンを使って発電し、バッテリーを充電することで航続距離を伸ばす。バッテリーだけのEVに比べて航続距離は、約2倍になる。

レンジエクステンダー」の特徴は、小型かつ軽量であることだ。マツダは当初、ピュアな「バッテリーEV」である「MX‐30」と同時期にあたる20年に、「レンジエクステンダーEV」を市場投入する計画だったが、発売時期が遅れている

「CASE対応を含め、仕事の量的な難易度があり、リソースの最適配分という意味から遅らせました」と、工藤氏は説明する。レンジエクステンダーEV」の開発の遅れは、次世代技術の開発競争の激化で新技術への多額の投資が必要になったためだ。

レンジエクステンダーユニット」が実現すれば、マツダは地域特性に応じた電動化技術を展開できる。すなわち、クリーン電源(発電の際に発生するCO2量の少ない電源)の比率に応じて、投入する電動パワートレーンを使い分け、「Well-to-Wheel」でCO2排出量を減らせる。

 ちなみに、クルマのCO2排出には、「Tank- to- Wheel」と「Well-to-Wheel」の2つ考え方がある。「Tank- to- Wheel」はクルマの燃料タンクからタイヤの駆動までに排出されるCO2の総量、「Well-to-Wheel」は油田からタイヤの駆動までに排出されるCO2の総量をいう。

多様な電動車を「一括企画」によって効率よく生産

 副社長の藤原清志氏は、18年10月2日に開かれた技術説明会の席上、つぎのように、電動車「xEV」について説明した。

レンジエクステンダーユニットをベースにして、ジェネレーターやバッテリー、燃料タンクの組み合わせを変えることで、プラグインハイブリッド、シリーズハイブリッド(走行にはモーターのみを用い、エンジンは発電用として用いるハイブリッド車)など、共通の車両パッケージ内で『マルチxEV』を提供することが可能になるんですね」

 例えば、クリーン電源比率が高く、充電インフラが普及した地域には、ピュアなバッテリーEVやレンジエクステンダー付きEVを投入する。クリーン電源の比率が低く、充電インフラの普及が遅れている地域には、モーターで走り、電気は車載のエンジン発電機で供給するシリーズハイブリッドモデルを投入するといった具合だ。

 マツダは、バッテリーEV、レンジエクステンダーEV、プラグインハイブリッド車シリーズハイブリッドといった多様な電動車を「一括企画」によって効率よくつくり、地域ニーズに沿った車種を展開する計画だ。工藤氏は、次のように述べる。

「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)がメインのクルマは、情報の高速処理が求められる。つまり、バッテリーがたくさん必要になってくる。そこで、レンジエクステンダーの供給を視野に入れているんですね」

レンジエクステンダー」は、トヨタが発表した完全自動運転の次世代EV「e-Palette Concept(イー・パレット・コンセプト)」に搭載される。

 そもそも、なぜEVの開発が進められるようになったのか。EVブームに乗る前に、いま一度、原点に立ち返って考える必要があるだろう。マツダは現在、ロータリーエンジンの技術のすべてを盛り込み、「レンジエクステンダーEV」の開発に全力をあげている。

(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

https://biz-journal.jp/2019/11/post_128713_3.html

 

 

マツダについては、以前に、デミオEV9月にでも売り出すのではないか、と言ったニュースも流れていたが、このMX-30デミオEVとはまた別物なのか、デミオEVを止めてMX-30にしたのかは判然としないが、MX-30マツダSUVCX-30EVそのものである。


(続く)