トヨタ、中国電池最大手と提携 電動化計画5年前倒し
- 2019/6/7 6:32 日本経済新聞 電子版
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45801060W9A600C1MM8000/?n_cid=NMAIL006
も参考にするとよいが、次の論考のほうが判りやすい。トヨタのHV技術の無償開放により、中国企業がNEV対策としてトヨタのHVを採用することが出来ることにより、中国でハイブリッドがより普及すると読んだからだ。これにより中国もCAFC(中国版CAFE)の目途がついた訳である。
ニュース解説
EVは「見せ球」にすぎない トヨタの電動化戦略、5年前倒しのワケ
私はこう見る、元トヨタのエンジン技術者・愛工大客員教授の藤村俊夫氏(前編)
2019/06/27 05:00 近岡 裕=日経 xTECH2019年6月7日にトヨタ自動車(以下、トヨタ)は「EVの普及を目指して」と題した電動化戦略を発表。「電動車を世界で550万台以上販売し、そのうち電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)を100万台以上とする」という目標達成の時期を、2030年から2025年に早めた。なぜ5年前倒ししたのか。トヨタの電動化戦略をどう見るか。識者に聞いた。その前編。
[画像のクリックで拡大表示]
藤村俊夫氏
愛知工業大学工学部客員教授(工学博士)、 元トヨタ自動車、PwC Japan自動車セクター顧問をはじめ数社の顧問を兼任(写真:都築雅人)
後編:「LSEV」こそEVの本命、トヨタの電動化戦略の“裏”を読む
トヨタがEVを含む電動化計画を発表した。EVに本腰を入れるように思えるが、どう見るか。
藤村氏:率直に言えば、EVは「見せ球」だろう。発表のタイトルには「EV」を冠しているが、トヨタがEVにそれほど力を入れているとは思えない。
トヨタは一種の“トラウマ”を抱えている。マスコミや世間から「トヨタはEVで遅れている」というバッシングを受けたことだ。トヨタは「そうではない、ハイブリッド車(HEV)を開発・実用化するということは、EVを開発するベースにもなっている」、もっと言えば「HEVを開発することはEVを開発することと同じだ」などと反論してきた。さらに、その根拠としてEVにも応用できる電動化の3つのコア技術(モーターと電池、インバーター)の開発を、HEVを通じて行ってきたことも示してきた。
だが、世間には伝わらない。「そうは言っても、いまだにEVを市場投入していないじゃないか」「説得力がない」と言われてしまうからだ。トヨタは、中国市場において今年(2019年)中にプラグインHEV(PHEV)を投入し、来年(2020年)からはEVを発売すると言っている。それもあって、「EVもきちんと開発している」という姿勢をトヨタは見せたいのだろう。
[画像のクリックで拡大表示] トヨタが2020年に中国市場で発売予定のEV
左が「C-HR」ベースのEVで、右が「IZOA」ベースのEV。(出所:トヨタ)
「e-TNGA」を導入する本当の理由
しかし、トヨタは2020年以降に世界で10車種以上のEVを展開すると宣言し、EV版モジュラーデザイン「e-TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を開発に導入することも明らかにした。
藤村氏:e-TNGAの構想は、フロントとリアの両モーター部、そしてコンパートメント(人の位置)と電池の幅を固定する。変えるのは、ホイールベースと、フロントモーターより前方の部分と、リアモーターより後方の部分、そして全幅である。
e-TNGAを導入する理由は、損失のリスクを回避したいからだ。仮に中型車と大型車でそれぞれ専用のプラットフォームを造った場合、中型車が売れなかったときに損失が大きくなる可能性がある。これに対し、共通部品をある程度使える設計にしておけば、中型車が売れなかった場合でもダメージが小さい。
中国市場ではSUV(多目的スポーツ車)の人気が高いこともあり、恐らく大型SUVのEVはある程度ニーズがあるだろう。トヨタとしても採算が取れる。上級車は高価でも買ってくれる顧客がいるというのは、米テスラ(Tesla)の例を見れば分かる。ところが、中型SUVのEVでは価格を高く設定すると売れないため、価格を抑えなければならない。ところが、それでは採算が取れない。
だから、顧客が欲しいと望めば造れる形のものを、部品を共通化しながら造っておく。これがe-TNGAの構想で、できる限り同じ部品を使いつつ、変動部分の違いで中型SUVのEVと大型SUVのEVを造り分けてコストを抑える。これにより、中型SUVのEVが売れない場合でも損失を最小限に抑えるという狙いだ。
[画像のクリックで拡大表示] e-TNGAの構想
中型SUVと大型SUVのEVでできる限り共通の部品を使い、変動部分で車種を造り分ける。これにより、中型SUVのEVで懸念される採算割れのリスクを緩和する。(出所:トヨタ)
中型SUVのEVは人気がないということか。
藤村氏:そうではなく、採算の問題だ。先述の通り、中型SUVをEVで造ると採算を取るのは厳しい。本来なら中型SUVや大型SUVはHEVやPHEVで造る方が「現実解」だ。
だが、「これだけ世間で『EVだ、EVだ』と騒がれているのだから、欲しいと思う顧客もいるかもしれない」という期待感や、「EVにも積極的な姿勢を見せておかなければならない」という考えから、今回トヨタは、リスクを回避しながら大型SUVのEVと中型SUVのEVを開発できるe-TNGAのことまで明らかにしたのだろう。
「中国はEV推し」は本当か
EVにそれほど力を入れていないとしたら、なぜトヨタは電動化戦略の計画を5年も早めることができたのか。
藤村氏:HEVの価格が下がるからだ。計画の5年前倒しを支えているのは、HEVを従来の計画よりも早く、多く造れるめどがついたことだろう。世界最大の自動車市場である中国の動向に注目すると、その理由が見えてくる。
しかし、中国はEVに力を入れていると言われている。
藤村氏:中国がEV推しというのは間違いだ。EVばかりが強調されるのはマスコミの勉強不足にも一因があると思う。
中国政府はCAFC(企業平均燃費)規制に関する目標値を発表している。それによれば、2030年に省エネルギー車〔燃料代替エンジン車(天然ガス車等)とHEV〕の販売台数シェア(市場占有率)を50%とし、そのうちHEVを25%以上に引き上げる計画だ。
これを見れば分かる通り、中国はEVだけを普及させようとは考えていない。むしろ、「HEVがなければ、CAFCに対応できない」というのが中国の本音だ。
中国の省エネ車とCAFCの目標値
2030年に省エネ車を50%とし、そのうちHEVを25%以上にする計画。(作成:藤村氏)
[画像のクリックで拡大表示]
では、HEVの価格が下がるという根拠は?
藤村氏:2019年4月3日にトヨタが発表した、ハイブリッド技術の特許の無償開放が効いているからだ。これにより、中国企業がトヨタのハイブリッドシステムをどんどん使う。併せて、トヨタと提携したスズキもインドで使用する。すると、これまでの想定以上の量のハイブリッドシステムを生産することになり、量産効果でハイブリッドシステムのコストが下がる。結果、HEVの価格も安くなり、より多くの台数が売れる──。これが、電動化戦略の5年前倒しを発表するに当たり、トヨタが描いたシナリオだろう。
関連記事:「次世代ハイブリッド完成の自信」か、トヨタの特許無償提供
(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/01910/)
特許の無償開放で、思ったよりも多くのメーカーがトヨタのハイブリッドシステムを使ってくれることになった。そのため、ハイブリッドシステムのコストが下がり、当初は2030年になると想定していたHEVの価格が5年前倒しできるめどがついた。つまり、計画の5年前倒しを支える主たる要因はHEVの拡販であり、EVのそれではないというわけだ。
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/02447/?P=3
EVは見せ球と言うもののトヨタは、EVにも本格的に取り組んで行かないといけない程の規模の企業となっている。とすると、パナソニックとの関係をどうするか、と言う事にも関連してくるが、トヨタとしてはパナソニックとの関係は、CATL以上に更に数段緊密さを加えてゆく必要がある、と言う事である。
トヨタは既にパナソニックとEV電池の共同生産に合意しており、2020年後半にも新会社を設立する予定となっている。さらに、二次電池の規格統一や次世代電池の開発にも取り組んでゆくことになっている。
と言う事は、CATLのバッテリーは中国向けで、パナソニックは電池開発と全世界向けと言ったところか。
(続く)