小沢一郎、悪魔の密約(3/6)

3.テロ特措法延長と安倍晋三の場合

第15回2007年APEC首脳会議は豪州・シドニーで、9月8日~9日で開催された。

本年の主要議題は、気候変動(地球温暖化)問題である。

この席上、安倍総理は、6月6日~6月8日に開催されたG8ハイリゲンダムサミットで提案した「美しい星50」(注)で示した「安倍3原則」を紹介し、気候変動問題のために広くAPECメンバーの英知と意思を結集してゆく必要を呼びかけ、メンバーの賛同を得た。この頃の安倍総理には、まだ覇気があった。

これらの議論を受け、次の行動計画を含む「シドニーAPEC首脳宣言」が採択された。

1)省エネとして、2030年までにエネルギー効率を2005年比で25%向上させる。

2)森林面積として、2020年までに森林面積を2000万ヘクタール増加させる。

(注)安倍首相の「美しい星50」演説('07.5.24 13回国際交流会議「アジアの未来」晩餐会にて)

                                 

  「美しい星50」と言うパッケージの提案

(1)長期戦略の提案、

 1.温室効果ガスの世界の排出量を2050年までに半減する。

 2.現在技術では達成困難であるため、日本は「革新的技術開発」で貢献。

 3.環境と調和した美しい社会作りを「日本モデル」として世界に発信する。

(2)2013年以降の温暖化対策の具体的枠組み設計の「安倍3原則」、

 1.1位・米国、2位・中国などの主要排出国がすべて参加する。

 2.各国の事情に配慮した柔軟かつ多様性のある枠組み作り。

 3.世界の国が取り組むための環境保全と経済発展の両立。

(3)京都議定書目標達成の国民運動

 1.わが国の6%削減目標達成に向けた国民運動の展開

 2.京都議定書目標達成計画の見直し

なお、APEC首脳会議の機会に、安倍総理は、米国、ロシア、豪州、メキシコの首脳と2国間・会談を行なった。又、日米豪3ヶ国首脳による朝食会にも出席した。

さて、何はともあれ安倍総理には一つの重大な懸念があった。

それは、アメリカの、北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除問題である。

このシドニーでのブッシュ大統領との首脳会談で、安倍総理はこの北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除を延期するよう交渉した。少なくとも半年以上は延期し、当然その先にある北朝鮮との国交正常化も待ってくれと言っているはずである。

そしてその代わり、『テロ特措法』は必ず延長すると明言した。

つまり、テロ特措法は必ず通すから、指定解除は延期してくれと、交換条件をブッシュに突きつけたのである。

このテロ指定解除を阻止するために安倍総理は、敢えて、テロ特措法の延長法を早期に提出して衆院の2/3条項での再可決の道を選ばなかったのではないか。

9月1日のジュネーブでの6ヵ国協議の米朝作業部会では、ヒル国務次官補は北朝鮮の核施設の無能力化と引き換えに、北朝鮮テロ支援国家の指定を解除するとの言質を与えてしまっているはずである。

これは北朝鮮外務省の正式発表で明らかになっている。

9月30日に暫定合意に至った6ヵ国協議の共同文書の中で、米国によるテロ支援国家の指定解除の期限が明記されるとの見通しを、北朝鮮主席代表の金桂冠(キム・ケグァン)外務次官が、10月2日コメントした。

これは韓国の聯合ニュースが報じたものだ。

2008年の大統領選を控え、更には支持率の低下しているブッシュ大統領としては、この「米朝対話」は格好の実績作りであった。

そのため、この安倍総理の交換条件は飲めるものではなかったのではないか。その場は検討する、で決裂を避けたのではないかと中西輝政京都大学教授はこの論文で述べている。

1項で、辞任表明の9月12日の午前中にシーファー米国大使が、与謝野官房長官と会談したことを記している。

その内容は、この交換条件へのNO回答であり、「北朝鮮へのテロ支援国家の指定は解除する予定だ」と言うものだったのではないか。

これが安倍総理への「三行半」になったのではないかと言っている。

このように引導を渡された格好となった安倍総理は、辞任と言う手段で一種の『抗議』の意思表示をしたものと思われる。

政治と金、年金問題、自身の健康状態と問題が山積みしていた安倍総理は、このアメリカの対北朝鮮外交の一大変節で、奈落の底へ突き落とされたと感じたとしても不思議ではない。小沢一郎との首脳会談が実現できなかったと言って辞任した気持ちも分かると言うものである。

(続く)