五輪直前、中国官民衝突相次ぐ(2)

'08.7.16の日経新聞夕刊の「明日への話題」欄に面白い記事が載っていた。

この筆者は5年前に中国で目にした光景を記している。以下、掻い摘んでその

内容を紹介しよう。

筆者は、西安に滞在した2日間に、夜の繁華街の路上で、複数の警察官と民衆

が対立して言い争いをしている場面に、2度も遭遇したと言う。そして印象的だっ

たことは、民衆側に警官を恐れる気配が、少しも見られなかったと言う。これは驚

愕すべき事態だと驚きを表現している。中国は市場経済を導入した以上、民衆

の側から自由主義的な欲求が沸き起こるのをもはや全面的に抑えることは出来

ない、と結論付けている。そして、わが国の経済人も利潤追求の一点のみに目

標を絞るのではなく、中国民衆の幸せも考えて行動せよ、と結んでいる。

小生も全くの同感ではあるが、次の一点を追加して強調しておきたい。

日本の大企業を中心とする経済人は、自社の利潤の追及と同程度に、日本の

国益も考えて行動すべきである。あたかも日本の主権をないがしろにする様な

中国首脳への擦寄りは、厳に慎むべきである、と。

このように、これらテロ行為とは別に、中国の住民の反乱そのものが相次いで発

生している。地方政府や地元公安当局の腐敗体質に対する住民の不満が頂点

に達し、抗議行動の激化へとつながっているものと考えられる。経済発展の中で

広がる所得格差、北京五輪による土地の強制収用や強制的な工場の稼動停止

処置に対する不満、地方政府の業者との癒着やそれに伴う工場汚染物質の垂

れ流しの放任、数え上げたらきりがない。昨年の民衆の暴動事件は、78,000

件にも達すると言う報道もある。

北京五輪を前にして、このような「官民衝突」にたいしては過剰に取り締まらざる

を得ない、と警察関係者は考えている。その結果住民の怒りは更に高まり、抗議

行動の激化を招くと言う悪循環が起こっている。天安門広場近くには「直訴村」ま

でできているという。しかし北京五輪を前にこれも撤去されてしまったようだ。

官民衝突の原因は、汚職や腐敗を生みやすい不透明な行政と不公正な司法に

あると言う。抜本的な解決には利権に食い込む政治改革や民主化が不可欠だ。

上辺だけの取り組みでは限界があり、北京五輪期間中だけは暴動が抑えられて

も、大きな火種が残る、と言っているのは'08.8.5の日経夕刊「中国で官民衝突

相次ぐ」である。

こんな中でいよいよ北京五輪が開幕する。中国当局はテロ行為や暴動などの

妨害工作への警戒を強めている。開催各地に警備要員11万人、北京に監視カ

メラ28万台を設置し、公共交通機関や広場の監視・警備を一層強化している。('08.8.1日経新聞

更に、人民解放軍北京五輪の安全確保のために、陸海空3万4千人の兵士を

動員すると言う。そしてこの8月1日は、人民解放軍の建軍81周年に当たる。

そして北京市郊外の北京軍区第六装甲師団駐屯地を報道陣に公開した。

[しかしこれは五輪を控えた単なる見せ掛け。機密性の低い陸軍部隊の一端を

見学させるにとどまり、海・空軍を中心とする軍備増強の実態開示には消極的。('08.8.2日経)]

そして北京五輪安保指揮センターの田義祥軍隊工作部長は、「競技会場の上空

や会場からの攻撃、核・生物・化学兵器によるテロ」に備え、航空機74機やヘ

リコプター48機、艦艇33隻、地対地ミサイルなどを配備していると説明した。('08.7.3中日新聞

まっこと物騒な限りだ。今までにこんな平和の祭典があったことか。こんなことを

自慢するようでは北京五輪は、平和の祭典では決してない。「虐殺の五輪」に次

の言葉も追加してみてはどうか。「暴力の五輪」と。

事実、7月25日北京五輪の中国国内向け観戦チケットの最終販売が始ったが

、鳥の巣近くの販売所を取材していた香港テレビや新聞記者・カメラマンが警

察官と衝突し、暴行され怪我まで負わされ、連行された。

また、8月4日夜、新彊ウイグル自治区カシュガル市で起きた武装警察に対す

る襲撃事件を取材していた日本人の記者1人とカメラマン1人が、中国武装警

察に暴行を受け身柄を拘束された。そのうち1人は肋骨3本にヒビが入るほど

重傷と言う。奴らはどれほどの暴行を働いたのか。

当な手続きを踏んで取材している記者に対して暴力行為が行われたことは、

きわめて腹立たしいことである。

(続く)